◆米国メーカーのERP生産管理システムはなぜ機能していたのか
1.米国大企業はERP生産管理を活用していた
これまで、日本の多くの大企業が、MRPやMRPⅡをベースにしたERP生産管理システムの導入にチャレンジしてきましたが、大幅なカスタマイズなしに、本格的に導入できた企業は限られます。一方、C社では日本企業とは異なり、ERPシステムを生産管理にうまく活用していました。今後は世界中に展開しているC社工場の生産管理システムを、SAPのERPパッケージに統一していく方針だそうです。
なぜ、日本企業には難しいことが、米国企業では対応できるのか。その根底には、両者の生産管理に関する取り組み姿勢の違いがあります。そこで、今回は連載の最終回として、C社の生産管理の考え方を解説したいと思います。
2.ERPパッケージに合わせるのではなくMRPⅡに合わせる
日本企業ではこの理論原則が忘れ去られることが多く、現場主導の何がなんだかわからない生産管理システムが構築されてしまいがちです。連載で解説したような、単なる「生産指示システム」としてしか活用されない生産管理システムも数多く存在します。
MRP計算の基本は、各部品が必要とする時期にジャストインタイムで手に入るように計画し、手配することです。MRP計算が適切に実施されるためには、部品を必要とする時期(納期)と部品の調達リードタイムなどの数値データが整備されていなくてはなりません。
計画通りに動かすことを目的として開発されたMRPシステムでは、こうした数値データに変更が生じると、十分な管理を行えなくなる可能性があります。これが長年にわたってMRPシステムの弱点とされた要因です。そして、このことを補うために進化してきたのがMRPⅡの考え方です。
3.C社:ERP生産管理が工夫している取り組み
(1)生産計画の精度を高めるための努力
(2)状況に合わせた無理のないリードタイムの設定
(3)不測の事態に備えた安全在庫の存在
日本企業の場合は、こうしたリスクへの対策を部品会社に押し付けることで解決しようとしますが、C社では部品ごとに1週間から2週間分の安全在庫を保有して、不測の事態に備えています。こうすることで、MRPによる計画自体の精度も高く維持することが可能となります。
このように、C社ではMRPⅡの原則に従った生産が行われています。日本企業のように無理に在庫を削減するといったこともしていません。在庫をうまく活用することで生産に無理が生じないようにしています。
C社の生産管理は、「ERPパッケージの生産管理モジュールを使いこなすにはここまで注意して生産管理に取り組まないと機能しない」ということを示しています。さらにC社は、部品会社を下請け企業としてではなく、パートナー企業と...
下請け企業の犠牲の上に、短納期調達や在庫の押し付けを平気で行ってきた日本企業がなぜERPパッケージを入れるのが難しいか。この米国企業の取り組み状況をみれば容易に想像できるのではないかと思います。一見すると、こうしたことをすることで、在庫は増え、リードタイムは長くなり、生産の柔軟性が失われてしまうのではないか、と危惧される方も多いと思います。日本の製造業経営の考え方からするとあり得ないと思われる方もいるかと思います。しかし、長い目で見れば、C社が取り組んでいるMRPⅡの基本的な流れに従った生産管理システムは、サプライチェーン全体の生産性を向上させることにつながります。
原則カスタマイズ厳禁のERPパッケージを使って生産管理システムを構築する場合は、ここまでチャレンジしないとシステムは有効に機能しません。日本の生産管理の常識にERPパッケージを合わせることがいかに無謀なアプローチなのか、C社の例を参考にしていただくことで理解していただけるのではないかと思い、最終回として紹介させていただきました。