確認の形骸化とは ヒューマンエラーの考察(その3)

 

 

【連載の目次】

1.  ヒューマンエラーの考察(その1)ヒューマンエラーとは

2.  ヒューマンエラーの考察(その2)ヒヤリハットとは

3.  ヒューマンエラーの考察(その3)確認の形骸化とは←今回の記事

4.  ヒューマンエラーの考察(その4)ヒューマンエラーを防ぐ組織・体制づくり

5.  ヒューマンエラーの考察(その5)ヒューマンエラー防止対策

 

 ヒューマンエラーということは「労働災害を防ぐ」といった「安全」についてだけではなく、「ヒューマンエラーによる不良などの品質問題を防ぐ」という観点からも重要です。

 人間が実際に「行動」するまでのプロセスとして、外部からの「情報」を目や耳といった「感覚」器官から受け取り「認識」し、知識や過去の経験に基づいて「処理」、「判断」し、実際に「行動」するという過程を経ます。

 しかし、外部からの情報の受取り段階において、体調、環境、感情等の状況により、情報を間違って受け取る場合、判断する際の知識自体の間違いや記憶違いによる誤判断、実際に行動する際でも操作を間違えるといったように、ヒューマンエラーは行動までのプロセスの各段階、またはそのプロセス全てでエラーが起こることで発生します。

 従って、行動までの一連の各プロセスにおいて、エラー自体の発生を抑えるようにする「未然防止」と「認識」、「判断」の段階でエラーが発生した場合でも、「行動」する前の段階でエラーに気付くことができるようにすることや、「行動」の段階でエラーが発生した場合でも、エラーに気付きリカバリーすることできる「歯止め」を設ける、ということが「ヒューマンエラーを防ぐ」ポイントとなります。

 ヒューマンエラーによる労働災害を防ぐという観点においては、エラーの発生自体を防ぐことはもちろんですが、万が一エラーが発生した場合は、その時点で気付かなければ、即、事故へ繋がりかねませんので、その場でエラーに気付き、歯止めを掛けることが重要であり、品質面においても表示や識別、ポカヨケなどの「未然防止」によりエラーの発生自体を抑え、また自工程でエラーが発生したとしても、そのエラーに気付き、「歯止め」が掛かり対処することで、エラーによって発生した不良品などを次工程へ流さないようにする、ということが重要です。

 

 今回は、ヒューマンエラーの考察について、5回の連載の第3回を解説しますが、冒頭で、リスクアセスメントについて考えましょう。

 

 1.リスクアセスメントの形骸化を防止する

 リスクアセスメントを他の設計イベント(デザインレビューやFMEA、FTAなど)と切り離して、単独のイベントとして実施すると、設計効率が悪くなります。なぜなら、製品の各構成部品は、安全性だけではなく、その他の機能も合わせ持っていることがほとんどだからです。

 安全性だけを確保すればよい製品はありません。安全性とそれ以外の性能の両立が必要なのです。したがって、リスクアセスメントと他の設計イベントを別々で行うと、片方のイベントで設計変更が発生した場合に、もう一方のイベントで設計変更内容を議論し直さなければなりません。議論し直した結果、また設計変更が発生すると、最初のイベントで再度設計変更内容を議論することになります。そういったことを何度も繰り返し実施することは、非効率以外の何者でもありません。

 非効率なリスクアセスメントは、設計者にとって面倒くさい存在になります。大きな製品事故やリコールの直後は、設計者の意識も高いため、多少負荷が大きくても頑張って進めることができます。しかし、コストダウンやその他の品質改善業務などが忙しくなってきたり、製品事故が発生しなくなったりすると、こんなことをやって意味があるのだろうかと思い始めます。設計者がそういう意識になると、リスクアセスメントはだんだんと形骸化していきます。したがって、リスクアセスメントは負荷を大きくせずに、自然な形で設計プロセスの中に組み込むことが重要です。もちろん、設計負荷が大きくなっても、単独のイベントの開催もしくは集中的な議論を行う場を設けた方がよいケースもあります。重大な製品事故やリコールが多発しているような、リスクの高い製品の場合です。例えば、火や電気を使う製品、乳幼児・高齢者・障害者向けの製品などが該当します。

2. チェック(確認)の目的

 ヒューマンエラーの対策としてよく「チェック(確認)」ということがいわれますが、そもそも「チェック」とは何でしょうか。チェックは、自分の行った仕事(作業や業務など)に間違いがないか、その出来栄えや良し悪しを判断し、次に進めるために行います。ヒューマンエラーを防ぐために広く用いられている方法です。
 
 例えば、「データを間違えて入力していないか」、「投入した量は正しいか」、「製品は指示通りの品番か」、「操作は手順通りか」など、様々なチェックがされています。しかしヒューマンエラーとして「確認(チェック)していなかった」ために、間違ったまま処理等を行ってしまったことから事故やトラブル等に繋がったという事例をよく耳にします。そういったことを防ぐため、自分の持ち場(自工程)での「チェック(確認)」ということが非常に大事となります。
 

3. ダブルチェックと注意すべきポイント

 どのようにしてチェックを行うか、ということになりますが、まず「ダブルチェック」があります。これは実際に作業や業務を行った人自身でその良し悪しのチェックを行うだけでなく、他の人もその作業や業務についてチェックするというものです。作業や業務を行った当事者だけでなく、もう一方の目で確認を行うことで当事者の確認漏れや勘違い、認識違いなどを見つけることができ、多くの職場などで行われています。
 しかし、ダブルチェックは注意しなければならないことがあります。それは「形だけのダブルチェック(ダブルチェックの形骸化)」です。
 例えば、その当事者本人が「ダブルチェック」だから後のチェック者が確認してくれると考え、本来最初に行われければならない当事者自身の確認を怠り、行わない場合があります。またその逆もあり、後のチェック者が「あの人がやっているからそんなに確認しなくても大丈夫」とか「チェックしてもずっと間違いが発見されていないから、そんなに見なくても大丈夫」等、やはり確認を怠るといった場合もあります。更に最悪なのは、当事者も後のチェック者もそれぞれ同時に前述のようなことを考えた結果、どちらも十分なチェックが行われず、間違い等を見過ごしてしまうといったことです。
 そういったことを防ぐために、ダブルチェックは当事者と後のチェック者が別々に行うのではなく、確認項目を明確にし、一緒に確認を行う等、確認抜けや確認漏れを防ぐといった工夫が必要となります。
 
 
 

4. チェックリスト

 ダブルチェックは他の人の目でチェックを行うため、ダブルチェックを行う当事者以外の人を割り当てる必要がありますが、人員が少なく他の人を割り当てることができない等、ダブルチェックを行うことができない場合もあります。そういった場合、当事者自身で漏れなくチェックを行う必要があり、そういった場合に用いられるのが「チェックリスト」です。
 「チェックリスト」は様々な所で活用されていますが注意しければならないポイントがあります。それは「必ずチェック」が行われるチェックリストになっているか」ということです。例えばチェックしたらレ点を記入するチェックリストがあります。このレ点チェックリストの場合、ちゃんとチェックしてもしなくてもレ点を記入することができます。その結果、チェックリストが本来の機能を果たさず「ザル」となってしまい、確認漏れや確認抜け、そして確認飛ばしが起こってしまうリスクがあります。
 

5. チェックリストの形骸化

 「チェックリスト」が形骸化してしまう原因は...
いくつかあります。

(1) 確認がやりづらい

 確認する内容が多岐に渡り確認する量も多く、また、確認の方法がやりにくい場合は「いつも大丈夫だし、面倒だから確認しなくても大丈夫だろう」ということに陥りやすくなります。
 

(2) 確認しなくても次工程へ引き渡すことができる、次の作業に移すことができる

 確認されているかどうか分かるようになっていないので、そのまま次工程へ引渡され結果、問題があるものが次工程以降に流出してしまうといったことや、確認しなくても次の作業に移ることができるといったような場合も、チェックリストの通りに確認が行われない、チェック項目を飛ばすといったリスクがあります。
 

6. チェックリストを形骸化させないポイント

(1) チェックをできるだけやりやすいチェックリストにする

 そのためには「できるだけシンプルに確認するポイントを絞る」ことが重要です。やらなくても良い箇所はやらないことを検討し、作業者が極力やりやすいように確認方法を見直す必要があります。
 

(2) チェックリストで確実に確認しなければ次へ進めることができない「しくみ」を作る

 例えば確認する表示の数値、パラメータを作業票に記入されていなければ、次工程は受け取らないルールにするといった「確実に」確認項目をチェックするように記入項目やルールで強制力を持たせるといったような「しくみ」を構築するといったこともポイントです。
 
 次回は、ヒューマンエラーの発生の間接的な要因について解説します。
 
【出典】この内容は、Tech Note掲載記事から筆者が改変して連載にしたものです。
  

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者