生産準備、系統図法の活用 新QC七つ道具: 系統図法の使い方(その8)

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第7章  系統図法の使い方

 

7.4 系統図法の「抽出項目欠落防止機能」について

 
 

7.4.2 事例に見る系統図法の「要実施事項抽出における欠落防止機能」

 
 前回のその7に続いて解説します。
 

【事例説明2】生産準備における系統図法の活用

 
 この事例は、筆者の体験談として「新QC七つ道具の企業への展開」新QC七つ道具研究会編(日科技連出版)に紹介したものを、その後の体験も加味し普遍化したものです。
 

(1) 背景

 
 単体部品しか納入していなかった顧客に、30数点からなる機能部品をはじめて納入することになり、その生産ラインの設備計画を担当することになりました。顧客としては、メーン機種の重要部品を、機能部品がはじめてのメーカーに委ねるだけに不安感が大きく、プロジェクトチームを結成し、1カ月後の会議に対し、サンプル資料をもとに生産準備に関する膨大な資料の提出要求がありました。
 

(2) 資料作成の基本方針

 
 サンプル資料をもとに提出資料内容を検討した結論は、要求資料の手に負えない膨大さもさることながら、人手を集めて作成しても、プロジェクトがうまくいく確信が得られそうにないというものでした。そこで、要求資料の背景にある顧客の真意把握の観点から再検討した結果「膨大な資料要求は末端現象であり、顧客の真の要求は“機能部品未経験会社の生産ラインの製品では、確実に機能しないのではないか、という不安感の除去”にある」との結論に達しました。したがって、資料作成の基本方針は「製品機能を展開した末端要因の保証が明確な生産準備計画資料の作成」とし、製品機能の展開は「系統図法」を用いることにしました。
 

(3) 系統図法による「製品機能の展開」

 
 この事例は、N7が提唱される以前(昭和48年7月)のことで、「機能展開表」という名称でスタートしました。やりはじめてすぐ分かったのは、部品の生産経験しかなかった筆者には、本来できるはずのないレベルのテーマということです。しかし、これを他人任せにしたのでは意味がないので自力で始めたところ、基本機能、1次機能、2次機能……というように、各レベルごとに集中して取り組めるため、なじみのある製品だけにかなりのところまで展開することができたのです。また、展開結果が不安なところを設計のベテランに確認する際も、当方の考えていることが各レベルで一目瞭然なため、短時間に的確なチェックとアドバイスを受けることができました。大変な苦労はあったのですが、当初不可能と思えた機能展開を約1週間で完了することができ、209項目の末端要因を手に入れることができました。これは、「系統図法活用の効果」であり、手法の持つ効用の大きさを痛感した次第です。
 

(4) 製品機能展開用系統図作成のポイント

 
 ここで系統図法を活用するねらいは、展開項目の「欠落防止機能」であり、基本は「逐次2項目展開」です。しかし、本事例のような、設計が完了した製品の生産準備用展開の場合、後述するように、1次の展開から一律に「逐次2項目展開」を適用するわけにはいかないのです。その理由を含め、次にこういった場合の展開上のポイントを説明します。
 
【ポイント1】最初の展開は、表7-5の9保証項目とする
 
 特殊な場合を除き、一般的なメカニカルな機能製品の場合、最初は表7-5 に示すつの保証項目に展開し、内容説明と展開要領を参考に、それぞれ、独立して詳細展開を実施するのがよい。なぜなら、メカニカルな機能製品の場合、各部品がいろいろな保証項目に関わっているので、スタート時点からの逐次2項目展開では展開項目間の独立性が保てず、展開項目が錯綜し、収拾がつかなくなるからです。すなわち、1つの機能部品は、機能だけではなく、強度、耐久、復元性のいずれにも関わるので、1次展開で独立性を維持した2項目展開はできないのです。
 
 一方、このように、9つの保証項目それぞれに展開する場合、1つの部品が、いくつかの保証項目の展開に重複して出てくるが、保証内容(寸法、材質、形状、面粗度、歪み、など)は、関わる保証項目によって違ってくるので、最終的な末端要因では重複しないのが普通です。このような系統図は、図面に書かれた、寸法、材質、形状、特性などが、どのような機能や保証項目に関わるのかが分かるので、生産準備における品質保証計画が的確になるとともに、生産段階においても、的確な品質管理が期待できるのが利点です。要するに、1つの部品を例にとってみると、寸法、材質、形状、特性などが機能や保証項目別に整理して展開されるのです。
 
 表7-5 機能製品の保証項目
系統図
 
【ポイント2】要求品質が明確なら展開の表現は不具合の否定でもよい
 
 例をあげると、シリンダー内に発生させる液圧が作動力源の場合、正確な展開表現は「液室の機密性保持」となりますが、より分かりやすい表現である「液漏れなきこと」でもよいという意味です。
 
【ポイント3】 基本機能に直接関わる保証項目No.1~4は、メカニズムの徹底分析による「逐次2項目展開」を原則に展開項目欠落を防止する
 
 「逐次2項目展開」を堅持するには、徹底したメカニズムの分析・理解が必要となり、それが展開項目欠落防止につながるので、少しでも不明・疑問あるときは、開発部門のしかるべき人間のチェックとアドバイスを受けることが大切です(複雑な作動プロセスが機能成立に深く関わる場合は、第9章のPDPC法がよりふさわしい)。
 
【ポイント4】No.5~9は、展開要領を参考に展開した結果をベースに、主として実験評価関係者を交えたブレーンストーミング的チェック・抽出により欠落防止を図る
 
 No.5~9は、基本機能に付随する特性といえ、多面的で非論理性を帯びているので、系統的論理思考だけでの欠落防止には無理があります。したがって、幅広い発想を背景としたブレーンストーミング(BS)的チェック・抽出による欠落防止が必要です。
 
 BSメンバーに実験評価関係者を参加させるのは、製品の試作段階における問題点と改良設計内容のポイントを具体的な作業を通じ...
 
 

第7章  系統図法の使い方

 

7.4 系統図法の「抽出項目欠落防止機能」について

 
 

7.4.2 事例に見る系統図法の「要実施事項抽出における欠落防止機能」

 
 前回のその7に続いて解説します。
 

【事例説明2】生産準備における系統図法の活用

 
 この事例は、筆者の体験談として「新QC七つ道具の企業への展開」新QC七つ道具研究会編(日科技連出版)に紹介したものを、その後の体験も加味し普遍化したものです。
 

(1) 背景

 
 単体部品しか納入していなかった顧客に、30数点からなる機能部品をはじめて納入することになり、その生産ラインの設備計画を担当することになりました。顧客としては、メーン機種の重要部品を、機能部品がはじめてのメーカーに委ねるだけに不安感が大きく、プロジェクトチームを結成し、1カ月後の会議に対し、サンプル資料をもとに生産準備に関する膨大な資料の提出要求がありました。
 

(2) 資料作成の基本方針

 
 サンプル資料をもとに提出資料内容を検討した結論は、要求資料の手に負えない膨大さもさることながら、人手を集めて作成しても、プロジェクトがうまくいく確信が得られそうにないというものでした。そこで、要求資料の背景にある顧客の真意把握の観点から再検討した結果「膨大な資料要求は末端現象であり、顧客の真の要求は“機能部品未経験会社の生産ラインの製品では、確実に機能しないのではないか、という不安感の除去”にある」との結論に達しました。したがって、資料作成の基本方針は「製品機能を展開した末端要因の保証が明確な生産準備計画資料の作成」とし、製品機能の展開は「系統図法」を用いることにしました。
 

(3) 系統図法による「製品機能の展開」

 
 この事例は、N7が提唱される以前(昭和48年7月)のことで、「機能展開表」という名称でスタートしました。やりはじめてすぐ分かったのは、部品の生産経験しかなかった筆者には、本来できるはずのないレベルのテーマということです。しかし、これを他人任せにしたのでは意味がないので自力で始めたところ、基本機能、1次機能、2次機能……というように、各レベルごとに集中して取り組めるため、なじみのある製品だけにかなりのところまで展開することができたのです。また、展開結果が不安なところを設計のベテランに確認する際も、当方の考えていることが各レベルで一目瞭然なため、短時間に的確なチェックとアドバイスを受けることができました。大変な苦労はあったのですが、当初不可能と思えた機能展開を約1週間で完了することができ、209項目の末端要因を手に入れることができました。これは、「系統図法活用の効果」であり、手法の持つ効用の大きさを痛感した次第です。
 

(4) 製品機能展開用系統図作成のポイント

 
 ここで系統図法を活用するねらいは、展開項目の「欠落防止機能」であり、基本は「逐次2項目展開」です。しかし、本事例のような、設計が完了した製品の生産準備用展開の場合、後述するように、1次の展開から一律に「逐次2項目展開」を適用するわけにはいかないのです。その理由を含め、次にこういった場合の展開上のポイントを説明します。
 
【ポイント1】最初の展開は、表7-5の9保証項目とする
 
 特殊な場合を除き、一般的なメカニカルな機能製品の場合、最初は表7-5 に示すつの保証項目に展開し、内容説明と展開要領を参考に、それぞれ、独立して詳細展開を実施するのがよい。なぜなら、メカニカルな機能製品の場合、各部品がいろいろな保証項目に関わっているので、スタート時点からの逐次2項目展開では展開項目間の独立性が保てず、展開項目が錯綜し、収拾がつかなくなるからです。すなわち、1つの機能部品は、機能だけではなく、強度、耐久、復元性のいずれにも関わるので、1次展開で独立性を維持した2項目展開はできないのです。
 
 一方、このように、9つの保証項目それぞれに展開する場合、1つの部品が、いくつかの保証項目の展開に重複して出てくるが、保証内容(寸法、材質、形状、面粗度、歪み、など)は、関わる保証項目によって違ってくるので、最終的な末端要因では重複しないのが普通です。このような系統図は、図面に書かれた、寸法、材質、形状、特性などが、どのような機能や保証項目に関わるのかが分かるので、生産準備における品質保証計画が的確になるとともに、生産段階においても、的確な品質管理が期待できるのが利点です。要するに、1つの部品を例にとってみると、寸法、材質、形状、特性などが機能や保証項目別に整理して展開されるのです。
 
 表7-5 機能製品の保証項目
系統図
 
【ポイント2】要求品質が明確なら展開の表現は不具合の否定でもよい
 
 例をあげると、シリンダー内に発生させる液圧が作動力源の場合、正確な展開表現は「液室の機密性保持」となりますが、より分かりやすい表現である「液漏れなきこと」でもよいという意味です。
 
【ポイント3】 基本機能に直接関わる保証項目No.1~4は、メカニズムの徹底分析による「逐次2項目展開」を原則に展開項目欠落を防止する
 
 「逐次2項目展開」を堅持するには、徹底したメカニズムの分析・理解が必要となり、それが展開項目欠落防止につながるので、少しでも不明・疑問あるときは、開発部門のしかるべき人間のチェックとアドバイスを受けることが大切です(複雑な作動プロセスが機能成立に深く関わる場合は、第9章のPDPC法がよりふさわしい)。
 
【ポイント4】No.5~9は、展開要領を参考に展開した結果をベースに、主として実験評価関係者を交えたブレーンストーミング的チェック・抽出により欠落防止を図る
 
 No.5~9は、基本機能に付随する特性といえ、多面的で非論理性を帯びているので、系統的論理思考だけでの欠落防止には無理があります。したがって、幅広い発想を背景としたブレーンストーミング(BS)的チェック・抽出による欠落防止が必要です。
 
 BSメンバーに実験評価関係者を参加させるのは、製品の試作段階における問題点と改良設計内容のポイントを具体的な作業を通じて把握しているので、系統図法では引き出せない項目の抽出が期待できるからでス。
 
【ポイント5】保証項目は、製品の種類や使われ方により変わってくるので、表7-5を参考に、幅広い関係者で十分検討し漏れのないようにする
 
 表7-5のベースになっているのが、最終製品組立会社に納入する安全に関わる機能部品のため「安全性」は基本機能に盛り込まれているので、保証項目として出てこないが、顧客が一般ユーザーの場合は重要な保証項目です。製品の種類や使われ方により変わってくるとはこのようなことです。“幅広い関係者”というのは、開発(実験を含む)・製造・品証関係者だけでなく、購買・営業、場合によっては顧客も巻き込んだ幅の広さを意味しています。ここでいう顧客には、当該製品を受け入れる生産ラインも含んでいます。その理由は、機能上問題なしとしてバリ取り工程を省略した部品が、組立ラインでの怪我につながるという理由で量産間際に工程追加になったりする危険性があるからです。
 
 次回に続きます。
 

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この記事の著者

浅田 潔

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。

100年企業を目指す中小企業のため独自に開発した高効率な理念経営体系を柱に経営者と伴走します。


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