:工程全体を魚の形で見えるようにする JIT(その8)

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トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:全体像が見えないので、改善ができないことが多い

 工程全体の流れを知っていてはじめて、適切な改善に取り組めて狙った成果をたぐりよせることができるのだということをよく経験します。多くの改善の取り組みとして、その工程だけに焦点を絞ったものにとどまり、その工程にとっては都合の良い結果になっても、前工程や特に後工程には迷惑な改善もあります。

 結果として、周りからの不評を受けて、お互い様の関係も悪くなることも良く見られます。これでは改善の趣旨から行くと本末転倒です。改善は工場全体にとっても、後工程やお客様にとっても良い結果が得られることが重要です。このような改善の取り組みを、部分最適的改善と呼んでいます。改善は部分最適ではなく、やはり全体最適的な視点で行うものです。さらに工場全体のことを把握していると、今まで考えていたよりも的確な改善の取り組みが発見できて、多くの可能性が拡がるようにしたいものです。

 なぜこのような部分的な取り組みになりやすいかと考えますと、工程全体の流れを知る機会が少ないこと、工程全体の責任がないこと、部門間の関係が良くないこと、実際に工程がバラバラであり流れが掴みにくい点などがあります。しかし何のために会社に来て仕事をしているかを考えれば、これらの取り組みを変えていく必要があり、常に工程全体を俯瞰して見ながら、お客様のことを考えて仕事をしていく必要があります。

 それがなかなかできないのは、自分の仕事に閉じこもってしまっているとか、時間の余裕がないとか、実は本気でやろうとしていないだけのことです。やろうと思えば時間は作れるものであり、こじ開けてでもつくるものです。じっとして自部門や自工程だけを見ていても、一向に良いアイデアや気づきを得ることはできません。仕事を細切れに観ていても、そこだけが良くなっても全体が良くならないことには余り意味がありません。

 全体像が見づらいのは、流れが複雑になっており、見えないことが大きな要因です。見えないからわからなくなり、結局何もできなく悶々として、現状維持だけで精一杯の生産活動になってしまうのです。そのために、ムダをなくしてもっと良くしていくという改善活動がいつまで経ってもできないのです。いつも全体の流れを観たり見直しをしたり、さらに全体のバランスを取るといったことに配慮したいものです。

 

2.JIT:工程全体を一匹の魚として考え、つなげてみる

 見えるようにするには、つないでみることです。まずは1つの製品を工場の最初から最後までの流れを、1匹の魚に例えてみることです。そうすることで、見えなかったものがみえるようになり、改善するというやる気も起こり始めます。人は見えないモノには非常に不安があり、近づこうとしません。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の諺のように、核心に近づいて核心を自分の眼で自分の手で掴まないことには、欲しいものは得ることができません。

 でもそれが段々と見えるようになり、姿や形が見えるようになると、正面から向かって突き進むことができるようになっていけます。やれる!という勇気が湧いてきます。見える化が多く叫ばれるようになってきたのは、このように見て分かるようになることで、的確な対応の仕方が分かって実際に手を打つことができるからです。霧の中で歩を進めることは非常にためらいがありますが、見えるようになれば走り抜けることもできます。

 1人ではなく数人のチームで工程の最初からまず流れに沿って、およその停滞時間と加工時間、さらにロットサイズ、仕掛数、さらにできれば段取り替え時間も観察して記録していきます。1人だと先入観で見てしまうことが多いので、できるだけ客観視して複数の人が同時に観察していきます。工程があちこちに飛んでいることが多いので、各工程のオペレータに実際にどのようになっているか、丁寧にインタビューしてチーム全員も現地現物で確認していきます。ついでに改善前の写真も撮っておきます。

 最後まで流れを追うことができたら、いったん流れをつないでみます。ジグザグだったり、トグロを巻いていたり、その工程の流れの導線は奇奇怪怪の深海魚のようになることもあります。今度はその流れを検証するために、最後から順に前工程を追って行きます。実態を把握するまでは混乱してしまいますが、丁寧に複数回繰り返していけば、実態が見えてきてピタリと合致するようになります。

 次に工程間の停滞時間を、1匹の魚で表現します。普通の魚の背骨は等間隔ですが、骨と骨の間隔を停滞時間にして表わしてみます。停滞が長いと骨の間隔が長くなります。正確に描くというよりもボトルネックがどこにあるか発見したいので、およその配分で描いていきます。どんな奇妙な魚ができるか楽しみながら描いてみてください。それでボトルネックと改善の必要な工程の目星をつけていきます。加工時間の短縮は、品質などの検証作業があり、とりあえずは停滞時間を短縮することに注力します。

 

3.JIT:停滞の長いボトルネックから包丁を入れて料理していく

 全体像を描いて、どんな魚になったかが分かれば料理は簡単になります。停滞の長い、つまり背骨と背骨の間隔が長いボトルネックの工程から改善の包丁を入...

トヨタ生産方式

【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1.JIT:全体像が見えないので、改善ができないことが多い

 工程全体の流れを知っていてはじめて、適切な改善に取り組めて狙った成果をたぐりよせることができるのだということをよく経験します。多くの改善の取り組みとして、その工程だけに焦点を絞ったものにとどまり、その工程にとっては都合の良い結果になっても、前工程や特に後工程には迷惑な改善もあります。

 結果として、周りからの不評を受けて、お互い様の関係も悪くなることも良く見られます。これでは改善の趣旨から行くと本末転倒です。改善は工場全体にとっても、後工程やお客様にとっても良い結果が得られることが重要です。このような改善の取り組みを、部分最適的改善と呼んでいます。改善は部分最適ではなく、やはり全体最適的な視点で行うものです。さらに工場全体のことを把握していると、今まで考えていたよりも的確な改善の取り組みが発見できて、多くの可能性が拡がるようにしたいものです。

 なぜこのような部分的な取り組みになりやすいかと考えますと、工程全体の流れを知る機会が少ないこと、工程全体の責任がないこと、部門間の関係が良くないこと、実際に工程がバラバラであり流れが掴みにくい点などがあります。しかし何のために会社に来て仕事をしているかを考えれば、これらの取り組みを変えていく必要があり、常に工程全体を俯瞰して見ながら、お客様のことを考えて仕事をしていく必要があります。

 それがなかなかできないのは、自分の仕事に閉じこもってしまっているとか、時間の余裕がないとか、実は本気でやろうとしていないだけのことです。やろうと思えば時間は作れるものであり、こじ開けてでもつくるものです。じっとして自部門や自工程だけを見ていても、一向に良いアイデアや気づきを得ることはできません。仕事を細切れに観ていても、そこだけが良くなっても全体が良くならないことには余り意味がありません。

 全体像が見づらいのは、流れが複雑になっており、見えないことが大きな要因です。見えないからわからなくなり、結局何もできなく悶々として、現状維持だけで精一杯の生産活動になってしまうのです。そのために、ムダをなくしてもっと良くしていくという改善活動がいつまで経ってもできないのです。いつも全体の流れを観たり見直しをしたり、さらに全体のバランスを取るといったことに配慮したいものです。

 

2.JIT:工程全体を一匹の魚として考え、つなげてみる

 見えるようにするには、つないでみることです。まずは1つの製品を工場の最初から最後までの流れを、1匹の魚に例えてみることです。そうすることで、見えなかったものがみえるようになり、改善するというやる気も起こり始めます。人は見えないモノには非常に不安があり、近づこうとしません。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の諺のように、核心に近づいて核心を自分の眼で自分の手で掴まないことには、欲しいものは得ることができません。

 でもそれが段々と見えるようになり、姿や形が見えるようになると、正面から向かって突き進むことができるようになっていけます。やれる!という勇気が湧いてきます。見える化が多く叫ばれるようになってきたのは、このように見て分かるようになることで、的確な対応の仕方が分かって実際に手を打つことができるからです。霧の中で歩を進めることは非常にためらいがありますが、見えるようになれば走り抜けることもできます。

 1人ではなく数人のチームで工程の最初からまず流れに沿って、およその停滞時間と加工時間、さらにロットサイズ、仕掛数、さらにできれば段取り替え時間も観察して記録していきます。1人だと先入観で見てしまうことが多いので、できるだけ客観視して複数の人が同時に観察していきます。工程があちこちに飛んでいることが多いので、各工程のオペレータに実際にどのようになっているか、丁寧にインタビューしてチーム全員も現地現物で確認していきます。ついでに改善前の写真も撮っておきます。

 最後まで流れを追うことができたら、いったん流れをつないでみます。ジグザグだったり、トグロを巻いていたり、その工程の流れの導線は奇奇怪怪の深海魚のようになることもあります。今度はその流れを検証するために、最後から順に前工程を追って行きます。実態を把握するまでは混乱してしまいますが、丁寧に複数回繰り返していけば、実態が見えてきてピタリと合致するようになります。

 次に工程間の停滞時間を、1匹の魚で表現します。普通の魚の背骨は等間隔ですが、骨と骨の間隔を停滞時間にして表わしてみます。停滞が長いと骨の間隔が長くなります。正確に描くというよりもボトルネックがどこにあるか発見したいので、およその配分で描いていきます。どんな奇妙な魚ができるか楽しみながら描いてみてください。それでボトルネックと改善の必要な工程の目星をつけていきます。加工時間の短縮は、品質などの検証作業があり、とりあえずは停滞時間を短縮することに注力します。

 

3.JIT:停滞の長いボトルネックから包丁を入れて料理していく

 全体像を描いて、どんな魚になったかが分かれば料理は簡単になります。停滞の長い、つまり背骨と背骨の間隔が長いボトルネックの工程から改善の包丁を入れていきます。そして不要になったムダな部分を短く切って、刺身にして新たに綺麗に皿に盛っていきます。加工時間の改善はすぐには難しいですが、停滞時間はやり方を少し変えることですぐに短縮ができます。また段取り替え時間も簡単にできますので、ロットサイズの見直しも合わせてできます。見えるようにして、次にやれるものから着手して結果を出していくことで、次第に自信につなげて次々と改善を進めていきます。

 工程数が多いと、当然のようにリードタイムが長くなります。多ければ、工程の運搬、管理のムダが掛け算で増えていきます。つまり製品の原価が上がることになります。これでは競争力が失われます。この製品の工程の全体像を頭に入れて、本当で必要な工程の見直しを行い、工程の削減、代替、結合などを検討します。合わせて運搬方法、タイミング、小ロット化、さらにはストア対応にして補充していく後工程引き取りの方法も取り込んでいきます。やらないからわからないままになり、できなくなるのです。やっても途中止めにしたらできなくなるのです。継続しなかったからできなかったのです。やり続けることで大きな成果になるのです。さあ!やり続けましょう。

 

 次回に続きます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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