:リードタイムの短縮は、全体を見ることから JIT(その1)

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【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1. JIT:生産リードタイムとは

 JIT(ジャストインタイム)はトヨタ生産方式の代表的な考え方であり、必要なものを必要な時に必要な量だけを現場に供給し、在庫/停滞を極限まで削減しようとするものです。 特に自動車のように3万点にものぼる部品から造られている製品の場合、JITを実現するためには、サプライチェーンを高度に管理し、ち密な生産計画を立てる必要があります。 そのために「かんばん方式」などの独創的な仕組みが生れました。

 リードタイムは、時間ですから見えないので現場だけを見てもすぐにはわかりません。後で計算をしたり、仕掛りの多さを確認したりして、改めてリードタイムの長いことに驚くことがほとんどです。このリードタイムには、生産リードタイムと製造リードタイムがあります。さらには、お客様から発注を受けて売上金の資金回収までのリードタイムもありますが、これは現場では全くわかりません。現場でわかるのは、物が流れている部分の製造リードタイムだけです。

 実はお客様から見ますと、発注してからものが入ってくるまでの期間が、お客様にとってのリードタイムです。その流れは、お客様から営業が発注を受け取って、仕様によっては設計や開発に回ることもあります。さらに、その図面を基に購買が仕入先や協力工場に発注して素材や部品を購入し、工場ではそれらを受け入れ検査して倉庫に格納し、ピッキングのタイミングを待ちます。引き続いて生産計画部門での生産指示により倉庫からピッキングされて、現場や協力工場に配当されます。それらが、ようやく工場の現場に勢ぞろいして登場してきます。そこから加工や組立が始まり、検査、梱包を行い、そのまま出荷することもあれば、倉庫へ再び格納して出荷指示を待つこともあります。

 営業が受注して出荷するまでを生産リードタイムと称し、この工場に材料が出揃って生産の着手から完了までのリードタイムが製造リードタイムになります。一つひとつの工程の間には、すぐに流れるわけでもなく、ほとんどの場合随分と長い停滞があります。しかもいつも一定というわけではなく、タイミングが合わなかったり、その間に色々なノイズが入ってきて混乱したりするので、バラツキが非常に多く発生しているのが現実です。

 

2. JIT:見えないものが、わからないのは人の常

 発注から納品までには多くの工程を経てお客様につながっていることがわかりますが、現場だけを見ていますと、この見えない部分のことは余り気にならなくなってしまいます。これは、普通の人間の心理ですので仕方のないことです。人は余りにも情報が多すぎると頭が錯綜してしまうので、いつものことであるとそれらを無視するようです。ですから毎日見ている腕時計の文字盤や針の色や形が、思い出せない理屈がお分かりだと思いますが、習慣はある意味恐ろしいのです。

 リードタイムが長くなってくると、色々なデメリットが生じてきます。原材料の相場変動などもありますが、特に問題となるのがお客様からの仕様や数量変更などです。これらは、発注や生産計画の変更になり、後ろ向きの作業や余分な管理が爆発的に増えてきます。さらに手配していたものを納期変更やキャンセルします。これができない場合は在庫になってしまい、ムダがムダを呼ぶような事態になってきます。これだけならまだしも、結果的に競争相手よりもリードタイムが長くなってしまえば、注文がそちらに流れてしまい、ビジネスチャンスまで失うこともあります。

 しかもこれらは間接部門での作業であり、製造現場では見えないためにフォローすることもできず、間接での業務は現状維持からますます抜け出すことができなく、それらが当たり前のことになってしまっています。私たちは見えることには関心があり、それなりに対応できるのですが、見えないことには余り関心を持つことが稀になってくるものです。しかも見えていることで、ほとんどのことを判断する傾向も持ち合わせています。そのために見ないものや見えないことで、発生している問題を問題だと思わないことを、なんとも思わなくなってきているのです。

 氷山の一角という例えがありますが、見えている部分は全体の僅か1割程度です。私たち人間の目に見える光のスペクタクルも、光全体の僅か8%しか見えていないのです。そういえば、テレビやラジオや携帯の電波や紫外線、赤外線も光ですが見えません。でもそれらの存在は知っていて、生活全般にわたって大変お世話になっています。結果が出ると、その存在を意識して初めて理解します。結果が出るとようやく認識し始めますが、リードタイムの長いことも一緒のことなのです。

 

3. JIT:全体を見て、情報の流れを改善する

 リードタイム短縮の対策としては、物と情報の流れをもう一度しっかり把握することからスタートします。

 お客様から発せられた注文が、どのように、どういうタイミングで、どれくらい時間を掛けて、営業、設計、購買、生産計画、仕入先、協力工場、加工、組立、検査、物流、さらに製品と伝票が、再びお客様に届くまでの全体の流れを、しっかりしかも徹底的に把握することです。全体の流れが見えないことには、どこが問題かも分かりません。そして、生の情報を探るためにも、実際に足を運んで見て訊き出すことです。

 知らなかった、分からなかった、勘違いしていたことなどが、事実として一気に見えてきます。そしてついでに、何故そうなったのかも調べることです。その原因は、案外と単純なことが多いものです。事実を掴むことで問題の原因や真因の8割以上が分かってきますので、後はすぐにできるものから着手して...

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【JIT(ジャストインタイム)連載目次】

 

1. JIT:生産リードタイムとは

 JIT(ジャストインタイム)はトヨタ生産方式の代表的な考え方であり、必要なものを必要な時に必要な量だけを現場に供給し、在庫/停滞を極限まで削減しようとするものです。 特に自動車のように3万点にものぼる部品から造られている製品の場合、JITを実現するためには、サプライチェーンを高度に管理し、ち密な生産計画を立てる必要があります。 そのために「かんばん方式」などの独創的な仕組みが生れました。

 リードタイムは、時間ですから見えないので現場だけを見てもすぐにはわかりません。後で計算をしたり、仕掛りの多さを確認したりして、改めてリードタイムの長いことに驚くことがほとんどです。このリードタイムには、生産リードタイムと製造リードタイムがあります。さらには、お客様から発注を受けて売上金の資金回収までのリードタイムもありますが、これは現場では全くわかりません。現場でわかるのは、物が流れている部分の製造リードタイムだけです。

 実はお客様から見ますと、発注してからものが入ってくるまでの期間が、お客様にとってのリードタイムです。その流れは、お客様から営業が発注を受け取って、仕様によっては設計や開発に回ることもあります。さらに、その図面を基に購買が仕入先や協力工場に発注して素材や部品を購入し、工場ではそれらを受け入れ検査して倉庫に格納し、ピッキングのタイミングを待ちます。引き続いて生産計画部門での生産指示により倉庫からピッキングされて、現場や協力工場に配当されます。それらが、ようやく工場の現場に勢ぞろいして登場してきます。そこから加工や組立が始まり、検査、梱包を行い、そのまま出荷することもあれば、倉庫へ再び格納して出荷指示を待つこともあります。

 営業が受注して出荷するまでを生産リードタイムと称し、この工場に材料が出揃って生産の着手から完了までのリードタイムが製造リードタイムになります。一つひとつの工程の間には、すぐに流れるわけでもなく、ほとんどの場合随分と長い停滞があります。しかもいつも一定というわけではなく、タイミングが合わなかったり、その間に色々なノイズが入ってきて混乱したりするので、バラツキが非常に多く発生しているのが現実です。

 

2. JIT:見えないものが、わからないのは人の常

 発注から納品までには多くの工程を経てお客様につながっていることがわかりますが、現場だけを見ていますと、この見えない部分のことは余り気にならなくなってしまいます。これは、普通の人間の心理ですので仕方のないことです。人は余りにも情報が多すぎると頭が錯綜してしまうので、いつものことであるとそれらを無視するようです。ですから毎日見ている腕時計の文字盤や針の色や形が、思い出せない理屈がお分かりだと思いますが、習慣はある意味恐ろしいのです。

 リードタイムが長くなってくると、色々なデメリットが生じてきます。原材料の相場変動などもありますが、特に問題となるのがお客様からの仕様や数量変更などです。これらは、発注や生産計画の変更になり、後ろ向きの作業や余分な管理が爆発的に増えてきます。さらに手配していたものを納期変更やキャンセルします。これができない場合は在庫になってしまい、ムダがムダを呼ぶような事態になってきます。これだけならまだしも、結果的に競争相手よりもリードタイムが長くなってしまえば、注文がそちらに流れてしまい、ビジネスチャンスまで失うこともあります。

 しかもこれらは間接部門での作業であり、製造現場では見えないためにフォローすることもできず、間接での業務は現状維持からますます抜け出すことができなく、それらが当たり前のことになってしまっています。私たちは見えることには関心があり、それなりに対応できるのですが、見えないことには余り関心を持つことが稀になってくるものです。しかも見えていることで、ほとんどのことを判断する傾向も持ち合わせています。そのために見ないものや見えないことで、発生している問題を問題だと思わないことを、なんとも思わなくなってきているのです。

 氷山の一角という例えがありますが、見えている部分は全体の僅か1割程度です。私たち人間の目に見える光のスペクタクルも、光全体の僅か8%しか見えていないのです。そういえば、テレビやラジオや携帯の電波や紫外線、赤外線も光ですが見えません。でもそれらの存在は知っていて、生活全般にわたって大変お世話になっています。結果が出ると、その存在を意識して初めて理解します。結果が出るとようやく認識し始めますが、リードタイムの長いことも一緒のことなのです。

 

3. JIT:全体を見て、情報の流れを改善する

 リードタイム短縮の対策としては、物と情報の流れをもう一度しっかり把握することからスタートします。

 お客様から発せられた注文が、どのように、どういうタイミングで、どれくらい時間を掛けて、営業、設計、購買、生産計画、仕入先、協力工場、加工、組立、検査、物流、さらに製品と伝票が、再びお客様に届くまでの全体の流れを、しっかりしかも徹底的に把握することです。全体の流れが見えないことには、どこが問題かも分かりません。そして、生の情報を探るためにも、実際に足を運んで見て訊き出すことです。

 知らなかった、分からなかった、勘違いしていたことなどが、事実として一気に見えてきます。そしてついでに、何故そうなったのかも調べることです。その原因は、案外と単純なことが多いものです。事実を掴むことで問題の原因や真因の8割以上が分かってきますので、後はすぐにできるものから着手して、改善をしていきよい結果を出すことです。

 まずできることをやっていけば、結果がさらに良くなってきますので、やる気がさらに湧いてくるはずです。工程が進むたびに夜間バッチで情報処理をするシステムがありますが、これは工程ごとに1日のリードタイムが必要になりますが、発想を変えてシステムから外すことや工程結合することでも短縮できます。無理にシステムで、管理させなくてもよいのです。

 営業、設計、購買、生産計画などの間接部門には、標準作業という概念がほとんどなく、それぞれの人たちをよく見ると皆が属人的な作業をしています。画面のトランザクションの使い方を見ればすぐにわかります。どのようにやれば、正確で、素早く、より効率的になるかなどは、自分勝手な作業方法しか考えられていないことが多いのです。

 ここで生産現場の皆さんが、間接部門の人たちに作業の標準化を教える良いチャンスになります。各作業をもっと積極的にオープンにしていき、間接の事務作業の標準化をしていけば、作業の重複ややりにくさなどが見えてきて、帳票記入や画面の取り扱いや使い方などの情報処理の改善を進めることができます。物が流れる製造リードタイムよりも、情報を持ったまま停滞させている生産リードタイムの方が相当長いことが現実なのです。

 

 次回に続きます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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