第8章 教育・研究開発 ものづくり白書を5分で読む。(その8)

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ものづくり白書

 

【この連載の前回:ものづくり白書を5分で読む。(その7)へのリンク】

全274ページにわたる「ものづくり白書:2022年度版」の各章を5分の内容に要約して解説します。

 

本連載では、次のような悩みを解決できます。

  • 「ものづくり白書を読みたいけど、膨大過ぎて時間がない」
  • 「国内産業の状況や技術の動向を知りたい」
  • 「カーボンニュートラル、人権尊重、DX等に関する事例を知りたい」

本連載は、このような悩みを解決できるように、「ものづくり白書:2022年度版」をまとめたものです。

 

1.ものづくり白書とは

ものづくり白書は、政府が作成する国内産業の状況や技術の動向をまとめた資料です。2022年度版は、2022年5月に経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で、取りまとめた資料です。ページ数は、274ページになります。この連載では、各章ごとに重要なポイントを抜粋して、5分で読める内容で解説します。今回は、第1部第8章を説明します。これで第1部が完結しますので、この連載も最終回となります。※第2部は、法律や制度の説明のため、要約分は割愛いたします。

 

2.「第8章 教育・研究開発」の内容

第8章の「教育・研究開発」では、人材育成データとして学校教育や研究開発の統計、研究機関の開設が述べられています。今回は、この中から学生の統計データや研究機関の事例をご紹介いたします。

 

3.DX等成長分野を中心とした人材育成の推進について

DX人材の育成のために、数理・データサイエンス・AI教育の推進を行っています。その具体的な活動事例を以下で説明します。

 

【具体的な活動】

  • 2019年6月、統合イノベーション戦略推進会議決定で、「AI 戦略 2019」が策定
  • 130校を超える大学等によるコンソーシアムを形成し、モデルカリキュラムの策定や教材等の開発を行い、それを全国の大学等へ展開
  • 大学等の数理・データサイエンス・AI 教育に関する正規課程教育のうち、一定の要件を満たした優れた教育プログラムを政府が認定する制度を2020 年度に創設
  • 産業界と連携した実社会における先端課題解決型演習や国際競争力のある博士課程教育プログラムの構築等に取り組む大学院への支援

 

4.大学の人材育成の状況について

大学や大学院における人材育成の統計データを以下に示します。(表821-1、2、3)

 

【ポイント】

  • ・工学関係学科には、38万1,554人(2021年度現在)の学生が在籍している
  • ・卒業生8万6,796人(2020年度)のうち約57%が就職し、約37%が大学院などに進学している
  • ・職業別では、機械・ 電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が約81%を占めており、製造業に就職する者が約25%であった
  • ・工学系の大学院においては、専門的・技術的職業従事者となる者が、修士課程修了者で就職する者では約91%、博士課程修了者で就職する者では約90%を占めている
  • ・修士課程修了後に就職するもののうち、製造業に就職する者では約55%であった
  • ・博士課程修了後に製造業に就職する者では約33%であった

 

ものづくり

 

5.高等専門学校の人材育成の状況について

高等専門学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-5)

 

  • 高等専門学校は、中学校卒業後から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とする高等教育機関として、57校が設置されており、 5万3,662人の学生が在籍している(2021年度現在)
  • 2020年度の卒業生、9,710 人のうち約6割が就職しており、近年はAI、ロボティクス、データサイエンスなどにも精通した人材を輩出している
  • 産業別では、製造業に就職する者が約5割となっている

 

ものづくり

 

6.専門高校の人材育成の状況について

高等専門学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-6)

 

  • 高等学校における産業教育に関する専門学科(農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報及び福祉の各学科)を設置する学校は、1,488校設置されており、53万1,327 人の生徒が在籍している。(2021年度現在)
  • 工業に関する学科は526校に設置されており、22万357人の生徒が在籍している。(2021 年度現在)
  • 2020年度の卒業生、7万6,281人のうち約65%が就職している
  • 産業別では、製造業に就職する者が約51%を占めている

 

ものづくり

 

7.専修学校の人材育成の状況について

専修学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-7)

 

  • 高等学校卒業者を対象とする専修学校の専門課程(専門学校)では、工業分野の学科を設置する学校は471校となっており、10万539人の生徒が在籍している。(202年度時点で)
  • 2020年度の卒業生3万4,108 人のうち78%が就職している

 

ものづくり

 

8.社会人の学び直しについて

社会人の学び直しとして、リカレントプログラムの課題と対策について説明します。

 

【リカレント教育の課題】

  • 休日や夜間などの開講時間の配慮
  • 学費の負担に対する経済的な支援の問題
  • 社会人のニーズにあった実践的なリカレントプログラムが少ない
  • 企業等の評価や支援環境が十分でない

 

【対策】

  • 実務家教員育成に関するプログラムの開発・実施
  • 産学共同による人材育成システムを構築する取組の推進

 

【専修学校におけるリカレント教育機能の強化策】

  • リカレント教育プログラムの開発や、eラーニングを活用した講座の開催手法の実証
  • リカレント教育の実施運営体制の検証
  • 新たに非正規雇用者などのキャリアアップを目的とした産学連携によるプログラムの開発・実証(2020年度からは)
  • 実践的かつ専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム(BP)」として文部科学大臣が認定(2022年3月現在で357課程を認定)
  • 実践的・専門的なプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として文部科学大臣が認定(2022年3月現在で13校、17課程)

 

9.女性の活躍推進について

ものづくりにおける女性の活躍促進の内、女性研究者の統計データについて説明します。(図 823-1・2)

 

【女性研究者の統計データのポイント】

  • 女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、2021年3月時点で17.5%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準
  • 2025年までに、理学系20%、工学系15%、農学系 30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%、人文科学系45%、社会科学系30%という成果目標が掲げられている(「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」及び「第6期科学技術・イノベーション基本計画」)

 

ものづくり

 

10.研究開発の推進

第8章では、研究開発施設が数多く紹介されています。今回は、その中から5つほどピックアップして説明いたします。

 

【大型放射光施設(SPring-8)の整備・共用】

大型放射光施設(SPring-8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能の解析が可能な世界最高性能の研究基盤施設です。2021年度には生み出された累計論文数が19,000報を超えるなど、産学官の広範な分野の研究者などによる利用及び成果の創出が着実に進んでいます。

 

ものづくり

 

【X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用】

X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持った究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化 瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設です。2006年度より国内の300 以上の企業の技術を結集して開発・整備を進め、2012年3月に 共用を開始、2017年度からは3本のビームラインの同時共用の実現によって利用機会が拡大しました。2021年度には、世界で初めて鉄系超伝導体において超高速の光誘起結晶構造変化を捉えることに成功し、光による超伝導体の結晶構造や機能制御の新しい操作方法を実証するなど、画期的な成果が着実に生まれてきています。

 

【スーパーコンピュータ「富岳」の整備・共用】

文部科学省では、社会的・科学的課題の解決に貢献するため、 2014年...

ものづくり白書

 

【この連載の前回:ものづくり白書を5分で読む。(その7)へのリンク】

全274ページにわたる「ものづくり白書:2022年度版」の各章を5分の内容に要約して解説します。

 

本連載では、次のような悩みを解決できます。

  • 「ものづくり白書を読みたいけど、膨大過ぎて時間がない」
  • 「国内産業の状況や技術の動向を知りたい」
  • 「カーボンニュートラル、人権尊重、DX等に関する事例を知りたい」

本連載は、このような悩みを解決できるように、「ものづくり白書:2022年度版」をまとめたものです。

 

1.ものづくり白書とは

ものづくり白書は、政府が作成する国内産業の状況や技術の動向をまとめた資料です。2022年度版は、2022年5月に経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で、取りまとめた資料です。ページ数は、274ページになります。この連載では、各章ごとに重要なポイントを抜粋して、5分で読める内容で解説します。今回は、第1部第8章を説明します。これで第1部が完結しますので、この連載も最終回となります。※第2部は、法律や制度の説明のため、要約分は割愛いたします。

 

2.「第8章 教育・研究開発」の内容

第8章の「教育・研究開発」では、人材育成データとして学校教育や研究開発の統計、研究機関の開設が述べられています。今回は、この中から学生の統計データや研究機関の事例をご紹介いたします。

 

3.DX等成長分野を中心とした人材育成の推進について

DX人材の育成のために、数理・データサイエンス・AI教育の推進を行っています。その具体的な活動事例を以下で説明します。

 

【具体的な活動】

  • 2019年6月、統合イノベーション戦略推進会議決定で、「AI 戦略 2019」が策定
  • 130校を超える大学等によるコンソーシアムを形成し、モデルカリキュラムの策定や教材等の開発を行い、それを全国の大学等へ展開
  • 大学等の数理・データサイエンス・AI 教育に関する正規課程教育のうち、一定の要件を満たした優れた教育プログラムを政府が認定する制度を2020 年度に創設
  • 産業界と連携した実社会における先端課題解決型演習や国際競争力のある博士課程教育プログラムの構築等に取り組む大学院への支援

 

4.大学の人材育成の状況について

大学や大学院における人材育成の統計データを以下に示します。(表821-1、2、3)

 

【ポイント】

  • ・工学関係学科には、38万1,554人(2021年度現在)の学生が在籍している
  • ・卒業生8万6,796人(2020年度)のうち約57%が就職し、約37%が大学院などに進学している
  • ・職業別では、機械・ 電気分野を始めとする専門的・技術的職業従事者となる者が約81%を占めており、製造業に就職する者が約25%であった
  • ・工学系の大学院においては、専門的・技術的職業従事者となる者が、修士課程修了者で就職する者では約91%、博士課程修了者で就職する者では約90%を占めている
  • ・修士課程修了後に就職するもののうち、製造業に就職する者では約55%であった
  • ・博士課程修了後に製造業に就職する者では約33%であった

 

ものづくり

 

5.高等専門学校の人材育成の状況について

高等専門学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-5)

 

  • 高等専門学校は、中学校卒業後から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴とする高等教育機関として、57校が設置されており、 5万3,662人の学生が在籍している(2021年度現在)
  • 2020年度の卒業生、9,710 人のうち約6割が就職しており、近年はAI、ロボティクス、データサイエンスなどにも精通した人材を輩出している
  • 産業別では、製造業に就職する者が約5割となっている

 

ものづくり

 

6.専門高校の人材育成の状況について

高等専門学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-6)

 

  • 高等学校における産業教育に関する専門学科(農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報及び福祉の各学科)を設置する学校は、1,488校設置されており、53万1,327 人の生徒が在籍している。(2021年度現在)
  • 工業に関する学科は526校に設置されており、22万357人の生徒が在籍している。(2021 年度現在)
  • 2020年度の卒業生、7万6,281人のうち約65%が就職している
  • 産業別では、製造業に就職する者が約51%を占めている

 

ものづくり

 

7.専修学校の人材育成の状況について

専修学校における人材育成の統計データを以下に示します。(表 821-7)

 

  • 高等学校卒業者を対象とする専修学校の専門課程(専門学校)では、工業分野の学科を設置する学校は471校となっており、10万539人の生徒が在籍している。(202年度時点で)
  • 2020年度の卒業生3万4,108 人のうち78%が就職している

 

ものづくり

 

8.社会人の学び直しについて

社会人の学び直しとして、リカレントプログラムの課題と対策について説明します。

 

【リカレント教育の課題】

  • 休日や夜間などの開講時間の配慮
  • 学費の負担に対する経済的な支援の問題
  • 社会人のニーズにあった実践的なリカレントプログラムが少ない
  • 企業等の評価や支援環境が十分でない

 

【対策】

  • 実務家教員育成に関するプログラムの開発・実施
  • 産学共同による人材育成システムを構築する取組の推進

 

【専修学校におけるリカレント教育機能の強化策】

  • リカレント教育プログラムの開発や、eラーニングを活用した講座の開催手法の実証
  • リカレント教育の実施運営体制の検証
  • 新たに非正規雇用者などのキャリアアップを目的とした産学連携によるプログラムの開発・実証(2020年度からは)
  • 実践的かつ専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム(BP)」として文部科学大臣が認定(2022年3月現在で357課程を認定)
  • 実践的・専門的なプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として文部科学大臣が認定(2022年3月現在で13校、17課程)

 

9.女性の活躍推進について

ものづくりにおける女性の活躍促進の内、女性研究者の統計データについて説明します。(図 823-1・2)

 

【女性研究者の統計データのポイント】

  • 女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、2021年3月時点で17.5%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準
  • 2025年までに、理学系20%、工学系15%、農学系 30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%、人文科学系45%、社会科学系30%という成果目標が掲げられている(「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」及び「第6期科学技術・イノベーション基本計画」)

 

ものづくり

 

10.研究開発の推進

第8章では、研究開発施設が数多く紹介されています。今回は、その中から5つほどピックアップして説明いたします。

 

【大型放射光施設(SPring-8)の整備・共用】

大型放射光施設(SPring-8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能の解析が可能な世界最高性能の研究基盤施設です。2021年度には生み出された累計論文数が19,000報を超えるなど、産学官の広範な分野の研究者などによる利用及び成果の創出が着実に進んでいます。

 

ものづくり

 

【X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用】

X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持った究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化 瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設です。2006年度より国内の300 以上の企業の技術を結集して開発・整備を進め、2012年3月に 共用を開始、2017年度からは3本のビームラインの同時共用の実現によって利用機会が拡大しました。2021年度には、世界で初めて鉄系超伝導体において超高速の光誘起結晶構造変化を捉えることに成功し、光による超伝導体の結晶構造や機能制御の新しい操作方法を実証するなど、画期的な成果が着実に生まれてきています。

 

【スーパーコンピュータ「富岳」の整備・共用】

文部科学省では、社会的・科学的課題の解決に貢献するため、 2014年度より「京」の後継機である「富岳」(ふがく)の開発プロジェクトを開始しました。2021年3月には、ものづくり・創薬・エネ ルギーなどの9分野におけるアプリケーションとシステムを協調的に開発し、共用を開始しました。

 

【革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築】

HPCI(High Performance Computing Infrastructure)は、スーパーコンピュータ「富岳」と、高速ネットワークでつながれた国内の大学及び研究機関のスーパーコンピュータやストレージから構成されており、多様な利用者のニーズに対応した計算環境を提供するものです。文部科学省は、HPCIの効果的かつ効率的な運営に努めつつ、その利用を促進することで、ものづくりを含む様々な分野における我が国の産業競争力の強化に貢献しています。

 

【次世代の人工知能(AI)に関する研究開発】

AI 技術に関する教育改革、研究開発、社会実装などの観点からの総合的な政策パッケージとして、2019年6月に政府は「AI戦略2019」を統合イノベーション戦略推進会議決定しました。同戦略に基づく取組が関係府省の連携の下で一体的に進められており、研究開発については、AI関連中核センター群を中核とし、大学・公的研究機関をつなぐ「人工知能研究開 発ネットワーク」が2019年12月に設立されました。

 

【参考文献】

経済産業省「令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策」(ものづくり白書)
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531002/20220531002.html
閲覧日:2022年6月5日

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この記事の著者

清岡 大輔

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