中国食品工場の問題点 中国企業の壁(その3)

投稿日

1. 中国食品工場の問題点~床に落とした食材を使ったのは従業員が悪いのか

  中国食品工場で起きた問題は、次の2つの事象に分けられます。
 
(1) 期限が過ぎた食材(材料)を恒常的に使用していたこと。
(2) 加工中に床などに落ちた食材を元に戻して使用していたこと。
 
 以前起きた毒入り餃子事件を教訓として、工場の作業については、その手順や方法、工場内への出入りなど細かいところまでルールを決めて運用させていた。工場監査もそれらルールに基づいて行っていたと報道されていました。
 
 ただし、ルールを細かく決めたとしても実際に働いている従業員の意識やモラルは、簡単に変わるものではありません。ここが日本の工場との大きな違いであり問題点と言ってよいでしょう。
 
 2つ目の問題を従業員の意識やモラルの問題として片付け、従業員の責任とすることには同意できません。今回の問題は、会社ぐるみの組織的犯行とも報道されていたことが同意できない理由です。
 
 「床に落ちた食材をそのまま元に戻す、例え上からの命令でも日本ではやらない」このようにお考えの方もいると思います。しかし、中国では上からの命令には逆らえません。逆らえば給料を減らされる、最悪の場合、職を失うことにもなるからです。
 
 最近は日本でもアルバイトが会社の命令に逆らうことができず、24時間連続勤務とか、授業があるにも関わらず出勤を強要され単位を落としたなどの報道がありました。アルバイトなのだから学業を優先する、場合によっては辞めればいいと思うのですが、働かないと生活していけない学生は、逆らえずに従っていた現実があるのです。
 
 問うべきは、実際に床に落ちた食材をそのまま元に戻した従業員ではなく、それを指示した会社、経営者のモラルなのです。では、なぜ経営者はそのような指示を出したのでしょうか。そうせざるを得ないほど経営が逼迫していたのでしょうか。なぜ?なぜ?なぜ?とここでもなぜなぜ5回をやって、真因を探り出すことが大事なことだと思います
 
 生産マネジメント
 

2. 中国工場での教育

 中国工場を継続的に指導・支援をする場合、工場管理者への教育も併せて行うケースがよくあります。この場合の工場管理者とは、生産現場の科長と組長、生産技術スタッフ、品管部科長と検査員を指しています。これらの人たちに対して、毎回の訪問時に教育を行っています。
 
 教育の目的は、これらの人たちに品質管理の基礎知識を修得してもらうことと、管理者・検査員としての仕事に対する意識を高めることです。工場の品質は、生産現場を管理する科長や組長(班長)さんたちが支えており、彼ら彼女らがQCDを支えるキーパーソンですから、そのレベルが工場のレベルになると考えています。
 
 教育では、毎回冒頭に前回の内容に関するテストを実施します。テストがあるので参加者の多くは、一生懸命ノートを取ってくれます。やる側として、とてもうれしいことです。教育を実施して感じたのは、管理者や検査員たちの多くは、系統だった教育を受けたことがないということ。日系の工場で働いた経験のある人は、品質教育を受けたことがある割合が比較的高いのですが、中国企業から転職してきた人の多くは教育を受けた経験はありません。
 ...

1. 中国食品工場の問題点~床に落とした食材を使ったのは従業員が悪いのか

  中国食品工場で起きた問題は、次の2つの事象に分けられます。
 
(1) 期限が過ぎた食材(材料)を恒常的に使用していたこと。
(2) 加工中に床などに落ちた食材を元に戻して使用していたこと。
 
 以前起きた毒入り餃子事件を教訓として、工場の作業については、その手順や方法、工場内への出入りなど細かいところまでルールを決めて運用させていた。工場監査もそれらルールに基づいて行っていたと報道されていました。
 
 ただし、ルールを細かく決めたとしても実際に働いている従業員の意識やモラルは、簡単に変わるものではありません。ここが日本の工場との大きな違いであり問題点と言ってよいでしょう。
 
 2つ目の問題を従業員の意識やモラルの問題として片付け、従業員の責任とすることには同意できません。今回の問題は、会社ぐるみの組織的犯行とも報道されていたことが同意できない理由です。
 
 「床に落ちた食材をそのまま元に戻す、例え上からの命令でも日本ではやらない」このようにお考えの方もいると思います。しかし、中国では上からの命令には逆らえません。逆らえば給料を減らされる、最悪の場合、職を失うことにもなるからです。
 
 最近は日本でもアルバイトが会社の命令に逆らうことができず、24時間連続勤務とか、授業があるにも関わらず出勤を強要され単位を落としたなどの報道がありました。アルバイトなのだから学業を優先する、場合によっては辞めればいいと思うのですが、働かないと生活していけない学生は、逆らえずに従っていた現実があるのです。
 
 問うべきは、実際に床に落ちた食材をそのまま元に戻した従業員ではなく、それを指示した会社、経営者のモラルなのです。では、なぜ経営者はそのような指示を出したのでしょうか。そうせざるを得ないほど経営が逼迫していたのでしょうか。なぜ?なぜ?なぜ?とここでもなぜなぜ5回をやって、真因を探り出すことが大事なことだと思います
 
 生産マネジメント
 

2. 中国工場での教育

 中国工場を継続的に指導・支援をする場合、工場管理者への教育も併せて行うケースがよくあります。この場合の工場管理者とは、生産現場の科長と組長、生産技術スタッフ、品管部科長と検査員を指しています。これらの人たちに対して、毎回の訪問時に教育を行っています。
 
 教育の目的は、これらの人たちに品質管理の基礎知識を修得してもらうことと、管理者・検査員としての仕事に対する意識を高めることです。工場の品質は、生産現場を管理する科長や組長(班長)さんたちが支えており、彼ら彼女らがQCDを支えるキーパーソンですから、そのレベルが工場のレベルになると考えています。
 
 教育では、毎回冒頭に前回の内容に関するテストを実施します。テストがあるので参加者の多くは、一生懸命ノートを取ってくれます。やる側として、とてもうれしいことです。教育を実施して感じたのは、管理者や検査員たちの多くは、系統だった教育を受けたことがないということ。日系の工場で働いた経験のある人は、品質教育を受けたことがある割合が比較的高いのですが、中国企業から転職してきた人の多くは教育を受けた経験はありません。
 
 もうひとつ感じたことは、言葉は知っていてもその中身や本当のところまでは理解していないということです。例えば、「記録を付けるのには、いくつか理由がありますので、その理由を書いてください」という問題を出すと、書くことが出来る人の方が少ないですね。
 
 記録を付けることは必要だというのは、なんとなくわかっていても、その理由まできちんと説明できる人は多くありません。テストをやってみると、しっかり覚えてくれた人とそうでない人がいることもわかりました。やる前から「1回の教育だけで身に付くのは難しい」ことはわかっていましたが、それが実証された形となりました。中国工場の場合、何事も一足飛びにはよくなりませんので、一歩一歩前進できるように継続することが大事だと、自分自身に言い聞かせています。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改...


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
情報の停滞は機会損失を増幅 中小メーカ向け経営改革の考察(その26)

1、情報伝達に関する留意点  前回のその25に続いて解説します。 (1)情報伝達に際しての注意事項 a.指示事項には自分の考えを折り込む   ...

1、情報伝達に関する留意点  前回のその25に続いて解説します。 (1)情報伝達に際しての注意事項 a.指示事項には自分の考えを折り込む   ...


デザインによる知的資産経営:企業理念の具体化(その1)

 具体性のある企業理念の策定(見直し)と、企業理念を具体的な規範に落とし込む手法について解説します。今回は、企業理念と具体的な規範についてです。 &nb...

 具体性のある企業理念の策定(見直し)と、企業理念を具体的な規範に落とし込む手法について解説します。今回は、企業理念と具体的な規範についてです。 &nb...


普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その5)

   前回の3Mのイノベーションの定義に引き続き、今回はドラッカーによるイノベーションの定義について解説します。 ◆関連解説『事業戦略と...

   前回の3Mのイノベーションの定義に引き続き、今回はドラッカーによるイノベーションの定義について解説します。 ◆関連解説『事業戦略と...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
請負企業と価値創造

 今回は、生産財メーカーの価値創造、商品企画について解説します。生産財メーカーに商品企画の課題を伺うと、多くの企業から商品企画は行っていない。顧客から...

 今回は、生産財メーカーの価値創造、商品企画について解説します。生産財メーカーに商品企画の課題を伺うと、多くの企業から商品企画は行っていない。顧客から...


【ものづくりの現場から】年間200社以上が見学に訪れる3S工場が生み出した現場管理ツールとは(山田製作所)

【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組...

【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組...


ものづくり中小企業のTPP利用

 TPPは、2015年10月に大筋で合意されました。これは、Trans-Pacific Partnershipの略称で「環太平洋パートナーシップ協定」を意...

 TPPは、2015年10月に大筋で合意されました。これは、Trans-Pacific Partnershipの略称で「環太平洋パートナーシップ協定」を意...