生産工程標準化による製造性設計と原価の最適化 製品データ管理の導入 (その6)

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【目次】


 この連載では、PDM/PLM(以下、PDM:製品データ管理)の導入・運用をシステムベンダー主導ではなく、自社の設計・製造をデータで「リンク」することで設計、製造、保守といった開発の全体最適を実現する仕組みを設計し、PDM を使って実装するためのポイントを解説しています。
 
 前回は、部品表の活用という視点から、CAD での設計図面作成と部品表作成の際には、購買や製造のことも考えて適切な範囲(基本単位)は何かを明確にした上で、その単位と一致した部品表を作成できるようにしておく必要性を解説しましたが、今回も引き続き部品表の活用の視点での設計および製造の全体最適化の仕組みについて解説します。

1.標準化を前提とした工程設計

 設計図面や部品表を作成した後に、実際に生産ラインで加工や組立を行う製造のことを考えてみましょう。生産ラインには下記のように
  • プリント基板に部品を載せる
  • 板金を切ったり曲げたりして板金部品を作る
  • 自動加工機で機械部品を作る
  • 継手やパイプを加工して配管を作る
  • 最終的に製品を組み立てる
 といった生産ラインがあります。
 アセンブリは、その種類に応じて対応する生産ラインでいくつかの工程を経て生産されます。プリント基板生産ラインであれば表面実装工程、アキシャル部品実装工程、ラジアル部品実装工程、手挿入工程、調整工程、検査工程というような工程からなり、板金部品生産ラインであれば切断工程、曲げ工程、溶接工程、塗装工程、検査工程というような工程から成り立っています。
               PDM
図1. 生産ラインと工程

 アセンブリの種類によって処理する生産ラインが決まることに加えて同じ生産ラインであっても、アセンブリを構成する部品によって必要となる工程やその処理順序が変わります。例えばプリント基板生産ラインの場合、部品によって自動機で表面実装されるものもあれば、手挿入で実装されるものもあり処理される工程やその順序が変わります。板金生産ラインの場合も部品によって切断だけのものもあれば、切断し曲げた後に表面加工が必要なものなどいろいろです。
 したがって、アセンブリごとにどの生産ラインで処理するのか、そしてその生産ライン上でどの工程をどの順番で処理するのかを設計する必要があります。これが工程設計ということなのですが、設計図面ごとに個別に製作指示や作業指示を書き込んだり、アセンブリごとに個別に作業手順書を作成したりしているような製造現場では、生産準備に手間が掛かったり、手作業によるミスの発生、修正や流用に時間がかかかるなど非効率なことが多く発生しています。
 全体最適を狙うには、工程設計をこのような属人的で個別の手作業ではなく、データで自動処理できるものに変えることが大切です。そのためにはアセンブリの種類ごとにどの生産ラインを使うのかを定義し、生産ラインごとに処理される工程や順序のパターンを分析、整理してケース分けする必要があります。
 図1のプリント基板生産ラインであれば、すべての部品はどこか一つの工程で処理されるので、処理パターンは工程数と同じ4通りになります。板金生産ラインであれば、すべての部品は切断工程で処理された後、曲げ工程だけ、曲げ工程と溶接工程、そして曲げ工程と溶接工程と塗装工程のすべてで処理されるという3通りになります。そして例外的なケースや手間の掛かる段取りや準備が必要なケースなどはやめてしまう決断をするのです。製造工程の標準化を進めるということです。
 こうやって製造工程の標準化を行うことで、アセンブリの種類とその部品の種類によってどの生産ラインでどのような工程パターンで処理されるのかを特定できるようになります。工程設計を部品と関連づけることができるということです。すなわち、基本単位となるアセンブリの設計図面を描いて部品表を自動作成した時点で、そのアセンブリの製造工程が自動的に決まるわけです。設計から製造までをデータでリンクすることで、設計するとほぼ同時に生産準備ができるのです。また、設計変更や流用による派生設計なども生産準備まで簡単に処理できるようになります。
 これが、設計から製造までの全体最適を実現する設計・製造リンクです。実際には、設計から製造までを完全に自動化するのは簡単ではありませんが、標準化できない個別対応の部分や手作業をできるだけなくす仕組み構築を目指すべきです。

2.製造性設計による原価管理の充実

 標準化した上で工程設計に関係するデータも PDM で一元管理することで、設計段階でかなり正確な製造コストを見積もることができるようになります。部品ごとにどのような生産工程で処理されるのかが決まり、その処理に必要な製造コストが決まるからです。
 通常、材料費は設計段階から使っている部品の購入価格を使って見積もるものの、労務費(製造費)は製造段階で検討することが多く、生産準備や実際に生産することになってから製造コストを下げるための設計手戻りが発生しています。原価管理において重要なことは、製造コストを設計の早い段階で正確に見積もるということです。
 今回解説している工程設計の仕組みと購入部品の材料費とを合わせると、アセンブリ単位で材料費と労務費(製造費)を合わせたトータルの原価をかなり正確に見積もることができるようになります。CAD で設計をしながら、同時に製品を構成するアセンブリごとに材料費、労務費を合わせた原価を把握することができるので、不要な設計手戻りをなくすことができます。これが製造性設計(Design for Manufacturability; DFM)ができているということです。

         PDM
図2. 原価計算
 
 もし、設計段階で労務費まで見積もるのが難しいという...

 

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 この連載では、PDM/PLM(以下、PDM:製品データ管理)の導入・運用をシステムベンダー主導ではなく、自社の設計・製造をデータで「リンク」することで設計、製造、保守といった開発の全体最適を実現する仕組みを設計し、PDM を使って実装するためのポイントを解説しています。
 
 前回は、部品表の活用という視点から、CAD での設計図面作成と部品表作成の際には、購買や製造のことも考えて適切な範囲(基本単位)は何かを明確にした上で、その単位と一致した部品表を作成できるようにしておく必要性を解説しましたが、今回も引き続き部品表の活用の視点での設計および製造の全体最適化の仕組みについて解説します。

1.標準化を前提とした工程設計

 設計図面や部品表を作成した後に、実際に生産ラインで加工や組立を行う製造のことを考えてみましょう。生産ラインには下記のように
  • プリント基板に部品を載せる
  • 板金を切ったり曲げたりして板金部品を作る
  • 自動加工機で機械部品を作る
  • 継手やパイプを加工して配管を作る
  • 最終的に製品を組み立てる
 といった生産ラインがあります。
 アセンブリは、その種類に応じて対応する生産ラインでいくつかの工程を経て生産されます。プリント基板生産ラインであれば表面実装工程、アキシャル部品実装工程、ラジアル部品実装工程、手挿入工程、調整工程、検査工程というような工程からなり、板金部品生産ラインであれば切断工程、曲げ工程、溶接工程、塗装工程、検査工程というような工程から成り立っています。
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図1. 生産ラインと工程

 アセンブリの種類によって処理する生産ラインが決まることに加えて同じ生産ラインであっても、アセンブリを構成する部品によって必要となる工程やその処理順序が変わります。例えばプリント基板生産ラインの場合、部品によって自動機で表面実装されるものもあれば、手挿入で実装されるものもあり処理される工程やその順序が変わります。板金生産ラインの場合も部品によって切断だけのものもあれば、切断し曲げた後に表面加工が必要なものなどいろいろです。
 したがって、アセンブリごとにどの生産ラインで処理するのか、そしてその生産ライン上でどの工程をどの順番で処理するのかを設計する必要があります。これが工程設計ということなのですが、設計図面ごとに個別に製作指示や作業指示を書き込んだり、アセンブリごとに個別に作業手順書を作成したりしているような製造現場では、生産準備に手間が掛かったり、手作業によるミスの発生、修正や流用に時間がかかかるなど非効率なことが多く発生しています。
 全体最適を狙うには、工程設計をこのような属人的で個別の手作業ではなく、データで自動処理できるものに変えることが大切です。そのためにはアセンブリの種類ごとにどの生産ラインを使うのかを定義し、生産ラインごとに処理される工程や順序のパターンを分析、整理してケース分けする必要があります。
 図1のプリント基板生産ラインであれば、すべての部品はどこか一つの工程で処理されるので、処理パターンは工程数と同じ4通りになります。板金生産ラインであれば、すべての部品は切断工程で処理された後、曲げ工程だけ、曲げ工程と溶接工程、そして曲げ工程と溶接工程と塗装工程のすべてで処理されるという3通りになります。そして例外的なケースや手間の掛かる段取りや準備が必要なケースなどはやめてしまう決断をするのです。製造工程の標準化を進めるということです。
 こうやって製造工程の標準化を行うことで、アセンブリの種類とその部品の種類によってどの生産ラインでどのような工程パターンで処理されるのかを特定できるようになります。工程設計を部品と関連づけることができるということです。すなわち、基本単位となるアセンブリの設計図面を描いて部品表を自動作成した時点で、そのアセンブリの製造工程が自動的に決まるわけです。設計から製造までをデータでリンクすることで、設計するとほぼ同時に生産準備ができるのです。また、設計変更や流用による派生設計なども生産準備まで簡単に処理できるようになります。
 これが、設計から製造までの全体最適を実現する設計・製造リンクです。実際には、設計から製造までを完全に自動化するのは簡単ではありませんが、標準化できない個別対応の部分や手作業をできるだけなくす仕組み構築を目指すべきです。

2.製造性設計による原価管理の充実

 標準化した上で工程設計に関係するデータも PDM で一元管理することで、設計段階でかなり正確な製造コストを見積もることができるようになります。部品ごとにどのような生産工程で処理されるのかが決まり、その処理に必要な製造コストが決まるからです。
 通常、材料費は設計段階から使っている部品の購入価格を使って見積もるものの、労務費(製造費)は製造段階で検討することが多く、生産準備や実際に生産することになってから製造コストを下げるための設計手戻りが発生しています。原価管理において重要なことは、製造コストを設計の早い段階で正確に見積もるということです。
 今回解説している工程設計の仕組みと購入部品の材料費とを合わせると、アセンブリ単位で材料費と労務費(製造費)を合わせたトータルの原価をかなり正確に見積もることができるようになります。CAD で設計をしながら、同時に製品を構成するアセンブリごとに材料費、労務費を合わせた原価を把握することができるので、不要な設計手戻りをなくすことができます。これが製造性設計(Design for Manufacturability; DFM)ができているということです。

         PDM
図2. 原価計算
 
 もし、設計段階で労務費まで見積もるのが難しいという場合でも、設計手戻りを抑えた上で適切な原価管理を行うためには、何らかの製造性設計の仕組みを用意する必要があります。製品の生産工程の特徴から、製造コストに大きく影響する要素が特定できるので、少なくともその要素を設計段階で評価、分析できる仕組みを作ることができます。
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図3. 製造性設計の評価
 
 例えばこの製品の場合は配管と部品の取り付け、そして、配線が製造コストを大きく左右する要因なので、設計段階で配管における継手の個数、配管長、取り付けに必要となるネジの個数、そして配線箇所を設計段階でカウントすることで、製造コストの大小を評価することができます。これらの値は設計図面、あるいは、部品表からカウントすることができるので、アセンブリごとにこれらの値を調べて総合的に製造コストが大きくなるのかどうかを評価できるのです。
 部品表の管理は PDM の重要な機能のひとつですが、設計・製造リンクの構築のためには、生産の単位や生産工程の標準化を考慮した上で、製造性設計や原価管理の仕組みを構築するという観点が大切です。PDM がどんな機能を持っているのかが重要なのではなく、製造における生産パターンを整理し、製造性設計を仕組み化することが重要で、PDM はそのためのツールに過ぎないのです。

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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