海外工場支援者のための「物流指導7つ道具」(その3)

更新日

投稿日

第3回 道具2「物流設計マニュアル」

 

1.工場内物流設計マニュアルの要点

 
 前回のその2に続いて解説します。海外工場を建設する際に効率的な工場内物流を設計することは極めて重要です。この工場内物流はその工場の生産思想に基づいて設計されるのが一般的です。したがって生産技術を担当する部門で行うことが望ましいでしょう。しかし生産技術部門は生産工程内の設計は行うものの、工程間のつなぎの部分まで目が行き届いていない場合があります。その理由として加工工程は加工技術の専門家が行い、組立工程は組立技術の専門家が行うといった、縦割り型の業務プロセスになっていることが多いからです。その場合、物流部門にこの工程間の設計を行うことが求められる可能性があるのだが、このような工程設計に慣れていない物流担当者も多いと思われるのでその留意点について解説します。図1を参照して下さい。
 
  物流
図1.工場内物流設計マニュアルの要点
 
(1)工程間のコーディネート
 
 プレス工程は2日ロットで生産し、加工工程は1日ロット生産、そして組立工程は1個送り生産するということになると工程間在庫が発生し保管エリアが必要になります。各工程での生産方法が調整されていれば良いが、もし考え方が合っていないのであれば立ち上がり後の物流運用も苦労することになります。まずはこの工程間の考え方の合意がとられているかを確認し、場合によってはコンセンサスをとるための調整を行っておきましょう。
 
(2)工程間運搬方法の確認
 
 工程間の運搬をどのような機器を使って、どれくらいの頻度で行っていくのかを決めます。部品を供給する際に容器に入ったまま届けるのか、順番に並べて容器を外して供給するのかといった条件を定めることが必要です。納入荷姿から供給荷姿へ変換する方式を採用すればその作業のためのエリアが必要になります。フォークリフトによる運搬を行うのであれば一定の幅の通路を設置する必要があります。物流は「生まれ」で決まるところが大きいので初期条件を間違えると後々苦労することになります。物流エリア、運搬方法、荷姿条件などについて慎重に検討を行いましょう。
 
(3)工場内物流の役割の確認
 
 工場内物流には①「サービス業としての役割」、②「生産統制の役割」、③「自ら効率化する役割」の3つがあることは以前の連載で解説させていただいた通りです。新たに建設する海外工場ではこの3つがすべて網羅できるように設計を行いましょう。①では生産ライン作業者には余分な作業をさせないように、②では部品と生産指示のタイムリーな運搬を行うことで、③ではそもそもムダな物流が発生しないようにすることで、工場内物流がその工場に価値を与えられるようにします。
 
(4)受入場・出荷場の確認
 
 工場の受入場・出荷場の設計には注意が必要です。工場の物流担当者は工場内の物流には詳しくても輸送に代表される外回りの物流には疎い場合があります。また国内の外回り物流には詳しくても海外物流を知らないことも多いようです。したがってこの外回りの物流との接点である受入場・出荷場の設計時には「勝手な思い込み」を捨てて現地物流をしっかりと調査した上で行うことが重要です。特に注意すべきポイントは現地で使うトラックのタイプです。両サイド荷役が可能なウイング車タイプなのか、リヤゲート荷役が中心なのか、トラックの全長は最大でどれくらいかなどをきっちりと調査をしたうえで「プラットフォーム」や「ドック」設置の必要性について判断します。
 

2.外回り物流設計マニュアルの要点

 
 主として部品や資材などの調達物流、製品の販売物流などの外回り物流の設計は物流部門の業務です。これらについて調達リードタイムや販売リードタイムをどれくらいにするかによって物流条件が決まってきます。リードタイムに余裕があれば船舶や鉄道による輸送を選択することになりますが、それが短ければトラックや航空機による輸送が必要になります。この選択を輸送モードの選択といいます。輸送モードが決まればそれに見合った荷姿設計を行うことになります。トラック輸送を行う場合には道路条件によっても荷姿は変わってきます。また現地の荷扱いの状況によっても変えていかなければなりません。
 
 調達物流や販売物流では一定の荷量があれば調達先や販売先との間を直送できますが、荷...

第3回 道具2「物流設計マニュアル」

 

1.工場内物流設計マニュアルの要点

 
 前回のその2に続いて解説します。海外工場を建設する際に効率的な工場内物流を設計することは極めて重要です。この工場内物流はその工場の生産思想に基づいて設計されるのが一般的です。したがって生産技術を担当する部門で行うことが望ましいでしょう。しかし生産技術部門は生産工程内の設計は行うものの、工程間のつなぎの部分まで目が行き届いていない場合があります。その理由として加工工程は加工技術の専門家が行い、組立工程は組立技術の専門家が行うといった、縦割り型の業務プロセスになっていることが多いからです。その場合、物流部門にこの工程間の設計を行うことが求められる可能性があるのだが、このような工程設計に慣れていない物流担当者も多いと思われるのでその留意点について解説します。図1を参照して下さい。
 
  物流
図1.工場内物流設計マニュアルの要点
 
(1)工程間のコーディネート
 
 プレス工程は2日ロットで生産し、加工工程は1日ロット生産、そして組立工程は1個送り生産するということになると工程間在庫が発生し保管エリアが必要になります。各工程での生産方法が調整されていれば良いが、もし考え方が合っていないのであれば立ち上がり後の物流運用も苦労することになります。まずはこの工程間の考え方の合意がとられているかを確認し、場合によってはコンセンサスをとるための調整を行っておきましょう。
 
(2)工程間運搬方法の確認
 
 工程間の運搬をどのような機器を使って、どれくらいの頻度で行っていくのかを決めます。部品を供給する際に容器に入ったまま届けるのか、順番に並べて容器を外して供給するのかといった条件を定めることが必要です。納入荷姿から供給荷姿へ変換する方式を採用すればその作業のためのエリアが必要になります。フォークリフトによる運搬を行うのであれば一定の幅の通路を設置する必要があります。物流は「生まれ」で決まるところが大きいので初期条件を間違えると後々苦労することになります。物流エリア、運搬方法、荷姿条件などについて慎重に検討を行いましょう。
 
(3)工場内物流の役割の確認
 
 工場内物流には①「サービス業としての役割」、②「生産統制の役割」、③「自ら効率化する役割」の3つがあることは以前の連載で解説させていただいた通りです。新たに建設する海外工場ではこの3つがすべて網羅できるように設計を行いましょう。①では生産ライン作業者には余分な作業をさせないように、②では部品と生産指示のタイムリーな運搬を行うことで、③ではそもそもムダな物流が発生しないようにすることで、工場内物流がその工場に価値を与えられるようにします。
 
(4)受入場・出荷場の確認
 
 工場の受入場・出荷場の設計には注意が必要です。工場の物流担当者は工場内の物流には詳しくても輸送に代表される外回りの物流には疎い場合があります。また国内の外回り物流には詳しくても海外物流を知らないことも多いようです。したがってこの外回りの物流との接点である受入場・出荷場の設計時には「勝手な思い込み」を捨てて現地物流をしっかりと調査した上で行うことが重要です。特に注意すべきポイントは現地で使うトラックのタイプです。両サイド荷役が可能なウイング車タイプなのか、リヤゲート荷役が中心なのか、トラックの全長は最大でどれくらいかなどをきっちりと調査をしたうえで「プラットフォーム」や「ドック」設置の必要性について判断します。
 

2.外回り物流設計マニュアルの要点

 
 主として部品や資材などの調達物流、製品の販売物流などの外回り物流の設計は物流部門の業務です。これらについて調達リードタイムや販売リードタイムをどれくらいにするかによって物流条件が決まってきます。リードタイムに余裕があれば船舶や鉄道による輸送を選択することになりますが、それが短ければトラックや航空機による輸送が必要になります。この選択を輸送モードの選択といいます。輸送モードが決まればそれに見合った荷姿設計を行うことになります。トラック輸送を行う場合には道路条件によっても荷姿は変わってきます。また現地の荷扱いの状況によっても変えていかなければなりません。
 
 調達物流や販売物流では一定の荷量があれば調達先や販売先との間を直送できますが、荷量が少なければ複数の調達先や販売先の荷の混載を行って輸送効率を高める必要があります。この混載の方法として、輸送経路の中間に倉庫を設けてそこで方面別の荷を混載するクロスドック方式、複数の調達先や販売先を一台のトラックで巡回しながら集荷・配送を行うミルクラン方式、その組み合わせなどが考えられます。もし工場の外にクロスドックや倉庫を設けるのであればその場所や倉庫仕様の決定、倉庫間の輸送設計業務が発生することを忘れてはなりません。またその倉庫や輸送業務をアウトソースするパートナーの選定も物流部門の重要業務となります。事前に必要なデータや知識を入手しておきましょう。図2を、参照して下さい。
 
 物流
図2.調達・販売物流設計マニュアルの要点
 
  この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人...


「サプライチェーンマネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
サプライチェーンの戦略的経営モデル -人間系と情報技術(ICT)の融合-

 生産財メーカーの今後の経営モデルをサプライチェーンの原理原則からみると、熟練をベースとした人間系と情報技術(ICT)の融合といえます。「BTB(ビジネス...

 生産財メーカーの今後の経営モデルをサプライチェーンの原理原則からみると、熟練をベースとした人間系と情報技術(ICT)の融合といえます。「BTB(ビジネス...


第3のSCM: 複雑系・安定・利益

1. 既存のSCMと第3のSCM  既存のSCM:サプライチェーンマネジメントでは資金最大化をねらい、調達を、需要や制約、つまり販売と同期させて在庫...

1. 既存のSCMと第3のSCM  既存のSCM:サプライチェーンマネジメントでは資金最大化をねらい、調達を、需要や制約、つまり販売と同期させて在庫...


顧客と競合と市場のサプライチェーン三角関係

 重要なのは顧客のデマンドチェーンやバリューチェーンである、と説くまでならよいですが、サプライチェーンは供給者の論理にすぎないとの行き過ぎた説を見かけるこ...

 重要なのは顧客のデマンドチェーンやバリューチェーンである、と説くまでならよいですが、サプライチェーンは供給者の論理にすぎないとの行き過ぎた説を見かけるこ...


「サプライチェーンマネジメント」の活用事例

もっと見る
  ワンウエイとリターナブル:荷姿改善の重要性(その2)

  ◆ワンウエイ荷姿とリターナブル荷姿 荷姿は物流のためにあり、ユーザーにとっては無用のものです。そこでできるだけ荷姿はシンプルなもので...

  ◆ワンウエイ荷姿とリターナブル荷姿 荷姿は物流のためにあり、ユーザーにとっては無用のものです。そこでできるだけ荷姿はシンプルなもので...


物流アウトソースにあたっての留意点 (その1)

1. 物流アウトソースのメリットとデメリット  皆さんの会社では何かしらの物流業務のアウトソース(外注化)を行っているのではないでしょうか。この物流...

1. 物流アウトソースのメリットとデメリット  皆さんの会社では何かしらの物流業務のアウトソース(外注化)を行っているのではないでしょうか。この物流...


物流とタイミング

  1. 調達部品と先行時間  ジャスト・イン・タイムという手法は今や常識となりつつあります。ちょうど間に合うタイミングのことを指します。これを「...

  1. 調達部品と先行時間  ジャスト・イン・タイムという手法は今や常識となりつつあります。ちょうど間に合うタイミングのことを指します。これを「...