第2回 道具1「現地物流診断シート」
1.工場立地と物流
工場が海外に進出する際にはさまざまなフィージビリティ・スタディを行う必要があります。人材の採用、税金を含めた現地の優遇政策、道路やエネルギーなどの社会インフラ、自社の生産をサポートする協力企業の有無など数多くの課題を事前に調査しておかなければなりません。この中のどれもが優先度が高いといえますが、特に物流については工場で生産する限り付いてまわる案件であるため、慎重に調査を進めていく必要があります。そこで、ここでは工場立地を決定する際に必要となる物流インフラについて考えていきましょう。
まず自社がどのようなビジネスを行うかで検討の仕方が変わってきます。食品や日用品をその国向けに生産するのであれば消費地に近い所、たとえば大都市郊外の立地を考えることになるでしょう。一方で生産品を国内のみならず他国に輸出するとなると港に近い場所での立地を検討する必要があります。陸路を通って輸出するのであれば、国境近くの立地を考慮することが望ましいかもしれません。いずれを検討するに際しても、物流インフラの検討は欠くことはできません。その項目例を示すので、図1の現地物流診断シートに載せて実際にチェックしてみましょう。
図1.現地物流インフラ診断シート(例)
(1)道路インフラ
①現有の道路を使って納品場所までの所要時間は目標以内であるか。
②高速道路のインターチェンジまで目標時間以内で行けるか
③道路は舗装されているか
④特に混雑するネック(橋や交差点など)はないか
⑤大型トラックが走行できる道路であるか
⑥時間帯による大型トラックの通行規制はないか
(2)鉄道インフラ
①鉄道を利用した輸送は可能か
②近隣に貨物輸送に適した鉄道駅はあるか
③鉄道は旅客優先になっていないか
④自工場に鉄道の引き込み線はつくれるか
(3)港湾インフラ
①港湾まで目標時間内で行けるか
②港湾利用時間に制限はないか
③大型船舶が入港できるようになっているか
④ガントリークレーンの整備状況は十分か
⑤荷役に必要以上の時間を要しないか
こういった項目について海外工場支援者の物流担当者は一つひとつ検討していくことが求められます。これらの診断を行うことなくして工場立地を決定づけることはできません。
2.物流インフラの将来について
物流インフラは何も現状ですべて満足していなければならないという訳ではありません。工場稼働時あるいは稼働後2年以内に条件を満たしていれば問題がないということもあるでしょう。たとえば1年後には道路が拡張されるとか、5年後には目的納品地まで高速道路が建設される予定があるといった、「将来像」も考慮する必要があります。こういった「将来像」については地元政府と話をすることで聞き出すことができます。特に工業団地をつくって外資企業を誘致しようと考えている場合には必ずと言ってよいほど物流インフラの「将来像」が描かれているものです。これらを見越したかたちで工場立地を決めることは十分ありうることです。
一方、現状で自社の条件を満たす土地であったとしても、将来を考えると別の土地の方が有利になる可能性もあります。したがって、物流インフラを検討する際には現状の満足度とともに、将来の満足度もあわせて検討しておきましょう。
3.現地物流の調達可能性
工場立地検討に際し、物流インフラとともに現地物流の調達可能性についても調査をしておきましょう。これについてもいくつかの例を挙げて考えていきましょう。
(1)物流会社
①その地域に自社の輸送を担える会社はあるか
②その地域に自社の構内物流を担える会社はあるか
③物流会社の現場マネジメントの水準はどれくらいか
④物流会社の価格水準はどれくらいか
(2)物流機器
①ウイングタイプトラックの調達は可能か
②フォークリフトの調達は可能か
③容器の調達は可能か
④保管棚の調達は可能か
(3)物流人材
①物流業務経験者の採用は可能か
②物流戦略を立案できるレベルの人材はいるか
これらの物流調達の可能性を検討する際には実際に他企業を見学させてもらったり、物流会社を訪問したりすることが効果的です。もし近くに日系企業があればその会社に聞きに行くことも考えてみましょう。現地で調達できる範囲で物流業務をできるに越したことはありませんが、もしどうしても日本で使っている機器が必要であるなら...