「気づき」の仕組み 擦り合わせ型開発 基本の仕組み (その2)

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【目指すべき開発体制 連載目次】

1. 気づきとは

 
 今回は、擦り合わせ型開発に必要なもう一つの仕組みである「気づき」について解説したいと思います。前回、技術者自らが現場で起きている問題を把握しその重要性を判断し解決に向けて行動を起こすことが重要であり、このような自立性を産むのが「気づき」であること、その結果として様々な「擦り合わせ」が可能になると説明しました。
 
 トヨタ生産方式の考え方のひとつである「自働化」の中でも人の「気づき」の重要性を説いています。「見える化」によって様々な問題が見えるようになったとしても、その問題の中から対処すべき問題を選択する必要が生じること、そして、この対処すべき問題(解決の優先順位が高い問題)を選別する処理を「自動化」するのではなく、人の知恵を持った目で選別することがにんべんのついた「自働化」だということです。つまり、「自働化」とは、人の創造性を活かした問題への対応行動であり、見える化されたものの中から重要なものを選別する能力が「気づき」の能力だといっています。
 
 「気づき」は基本的な能力であり、だからこそ、その能力開発は難しいと言えます。効果的な集合教育もほとんどないと思います。同様に、「気づき」を促す仕組みも難しいものになりますが、重要なことは、実際の製品開発に結びつけることと、技術者本人に開発における自分の振る舞いをフィードバックすることだと考えます。
 
  人的資源マネジメント
 

2. 振る舞いのフィードバック

 
 振る舞いのフィードバックとはどういうことでしょうか?
 
 開発期間が約1年の製品開発を行っているある事業部で、それぞれ別のプロジェクトを担当している設計部門のリーダーについて、1年間どのような作業を行っていたのかを見てみると、プロジェクト管理、開発実務(製作と評価)、上流設計(企画とシステム設計)に注目すると、同じリーダーという立場で同じような製品を開発しているにもかかわらず、人によってその振る舞いには大きな違いがあることがわかります。
 
 リーダーの下には5~10人程度のメンバーがついており、リーダーはメンバー(担当者)に仕事を割り振り、メンバーの仕事をレビュー、フォローすることと、製品全体の企画・設計を行うことを最優先するようにといわれています。たぶん、多くのところで同じようにいわれていることでしょう。したがって、会社の期待に応えると、リーダーは、「企画」「システム設計」「プロジェクト管理」が主業務となるはずです。
 
 リーダーは誰でも必要だと思うから色々な作業をやっているのであり、たとえ自分の行動を振り返ったとしても、最近やっていたことや精神的に大変だったことを思い出すだけで精一杯です。それほど、客観的に自分の行動を知り、振る舞いのフィードバックをすることは困難なことです。
 

3. 振る舞いのバラツキ

 
 先ほどの開発組織とは別のある事業部の設計部門のリーダー(主任クラス)に対して見てみると、彼らの振る舞いは人によって大きく違うことがわかります。振る舞いのバラツキです。
 
 この事業部では、開発する製品数を増やしたいために以前からプロジェクト管理ができるリーダーを増やす取り組みを行っています。プロジェクト管理のトレーニングを行ったり、プロジェクトにおける役割定義の明確化など様々なことを行っており、主任クラスはまさにその対象となる人たちです。しかし現実は、プロジェクト管理の割合は人によって大きく異なりますし、製作や評価などの開発実務に多くの時間を使い、プロジェクト管理どころではないような人も少なくありません。
 
 開発現場のリーダーにこれだけの振る舞いのばらつきがあると、プロジェクト管理の集合教育を行ったり、リーダーの役割定義を行ったり、各種ツールを導入したりしても、すでに活用できるリーダーもいるでしょうが、まだその段階には至っていないリーダーもいるということになります。
 
 したがって、トレーニングや仕組み作りなどの集合的、標準的な対策と並行して、プロジェクト管理業務ができてない、あるいは、製作や評価などの実作業に追われているリーダーに対しては、個別に振る舞いのバラ...

【目指すべき開発体制 連載目次】

1. 気づきとは

 
 今回は、擦り合わせ型開発に必要なもう一つの仕組みである「気づき」について解説したいと思います。前回、技術者自らが現場で起きている問題を把握しその重要性を判断し解決に向けて行動を起こすことが重要であり、このような自立性を産むのが「気づき」であること、その結果として様々な「擦り合わせ」が可能になると説明しました。
 
 トヨタ生産方式の考え方のひとつである「自働化」の中でも人の「気づき」の重要性を説いています。「見える化」によって様々な問題が見えるようになったとしても、その問題の中から対処すべき問題を選択する必要が生じること、そして、この対処すべき問題(解決の優先順位が高い問題)を選別する処理を「自動化」するのではなく、人の知恵を持った目で選別することがにんべんのついた「自働化」だということです。つまり、「自働化」とは、人の創造性を活かした問題への対応行動であり、見える化されたものの中から重要なものを選別する能力が「気づき」の能力だといっています。
 
 「気づき」は基本的な能力であり、だからこそ、その能力開発は難しいと言えます。効果的な集合教育もほとんどないと思います。同様に、「気づき」を促す仕組みも難しいものになりますが、重要なことは、実際の製品開発に結びつけることと、技術者本人に開発における自分の振る舞いをフィードバックすることだと考えます。
 
  人的資源マネジメント
 

2. 振る舞いのフィードバック

 
 振る舞いのフィードバックとはどういうことでしょうか?
 
 開発期間が約1年の製品開発を行っているある事業部で、それぞれ別のプロジェクトを担当している設計部門のリーダーについて、1年間どのような作業を行っていたのかを見てみると、プロジェクト管理、開発実務(製作と評価)、上流設計(企画とシステム設計)に注目すると、同じリーダーという立場で同じような製品を開発しているにもかかわらず、人によってその振る舞いには大きな違いがあることがわかります。
 
 リーダーの下には5~10人程度のメンバーがついており、リーダーはメンバー(担当者)に仕事を割り振り、メンバーの仕事をレビュー、フォローすることと、製品全体の企画・設計を行うことを最優先するようにといわれています。たぶん、多くのところで同じようにいわれていることでしょう。したがって、会社の期待に応えると、リーダーは、「企画」「システム設計」「プロジェクト管理」が主業務となるはずです。
 
 リーダーは誰でも必要だと思うから色々な作業をやっているのであり、たとえ自分の行動を振り返ったとしても、最近やっていたことや精神的に大変だったことを思い出すだけで精一杯です。それほど、客観的に自分の行動を知り、振る舞いのフィードバックをすることは困難なことです。
 

3. 振る舞いのバラツキ

 
 先ほどの開発組織とは別のある事業部の設計部門のリーダー(主任クラス)に対して見てみると、彼らの振る舞いは人によって大きく違うことがわかります。振る舞いのバラツキです。
 
 この事業部では、開発する製品数を増やしたいために以前からプロジェクト管理ができるリーダーを増やす取り組みを行っています。プロジェクト管理のトレーニングを行ったり、プロジェクトにおける役割定義の明確化など様々なことを行っており、主任クラスはまさにその対象となる人たちです。しかし現実は、プロジェクト管理の割合は人によって大きく異なりますし、製作や評価などの開発実務に多くの時間を使い、プロジェクト管理どころではないような人も少なくありません。
 
 開発現場のリーダーにこれだけの振る舞いのばらつきがあると、プロジェクト管理の集合教育を行ったり、リーダーの役割定義を行ったり、各種ツールを導入したりしても、すでに活用できるリーダーもいるでしょうが、まだその段階には至っていないリーダーもいるということになります。
 
 したがって、トレーニングや仕組み作りなどの集合的、標準的な対策と並行して、プロジェクト管理業務ができてない、あるいは、製作や評価などの実作業に追われているリーダーに対しては、個別に振る舞いのバラツキの原因を明らかにして、個別の対応を取ることが必要になるでしょう。個人のバラツキは想像以上に大きいことを認識しておくことが大切です。
 

4. 一人ひとりに注目する

 
 このように、技術者一人ひとりのバラツキが大きいことを認識し、各々に個別にアプローチすることが「気づき」を促す仕組みの基本になります。今回は、自分がやってきた作業を自分にフィードバックするという例を紹介しましたが、もっといろいろな仕組みを考えることができると思います。
 
 設計のカギを握っているリーダーの振る舞いは開発のパフォーマンスやメンバー育成に大きな影響を及ぼします。リーダーに対して自らの振る舞いを知る手段を提供し、より多くの「気づき」を促すことできれば、製品開発のパフォーマンスを大きく改善できることは間違いありません。ぜひ、ご検討ください。
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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