進捗の可視化は必要最小限にするのがポイント(その1)

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1. メトリクスによる進捗管理サイクル

 
 進捗管理とは、作成した計画にもとづいて現在の状況を把握することと、計画と実績に乖離を生じたときに適切な行動をとるための管理です。このように書くと単純なものにも思えるのですが、プロジェクトの進捗がわからない、進捗を正しく把握するために何をやればいいのかわからない、という悩みはなくなっていません。今回はこのような課題を解決するための進捗管理の仕組みについて紹介したいと思います。進捗を可視化(見える化)することが基本ですが、口で言うほど簡単ではありませんが、まずは考え方を理解することが大切です。
 
 可視化(見える化)とは成果物や振る舞いを定量化してデータで見えるようにするということです。ものごとを定量化して管理することことをメトリクス管理といいます。複数の人たちで何かものごとを進めるときには非常に重要な考え方です。
 
 ものごとを進めるとはプロジェクトということです。本題に入る前に、メトリクス管理の基本的な考え方を紹介しておきたいと思います。
 
 技術マネジメント
 
 この図で示すように、(1) 見積もり式を使って見積もりを作成する (2) 活動の実績データを収集・加工する (3) 見積もりと実績を比較して予実差(予定と実績の違い)を管理する (4) プロジェクトが終わった段階で見積もり式を改善する、そして最初に戻り、その改善した見積もり式を使って見積もりを作成するというサイクルを繰り返すのが、メトリクスを使ったプロジェクト管理の流れになります。図中にキーワードが書いていますが、それぞれのステップを実施する際に使う手法・技法です。何回かに分けて紹介していきたいと思っています。
 
 このメトリクス管理サイクルですが、製品開発などのいわゆるプロジェクトだけでなく、個人でも使える考え方です。たとえば、ドライブに行くというとき。気ままにあてもなくドライブするときは別ですが、行きたいところ、見たいところがあって、時間やお金が限られているというときは、まさにプロジェクトですし、メトリクス管理を取り入れるのは、その実行力を磨くことに役立ちます。
 
 まず、目的地までどのくらいの時間がかかるのか、どのルートで行くのか、どこで休憩を取るのかなどを計画しますね。このとき、経験や仕入れた情報をもとに計画すると思いますが、頭の中で何となくではなく、これまでのドライブしたときの記録や公開されている渋滞情報などが、目に見える形でそろっていると計画しやすいものです。これらは、計算式の形にはなっていませんが、見積もり式ということができます。
 
 実際にドライブしているときは、今どこにいるのか、何時なのかという実績データを把握した上で、このペースでいいのかなとか、思ったよりも疲れたので休憩しようかなとか、実際の状況に合わせて、常に何かしらの状況判断をします。このとき、計画がしっかりしているほど、的確な判断が可能ですよね。これが、実績データの収集や予実差管理です。このとき、どういうデータを見ていれば判断しやすいのか、今の時点でどのくらいの時間的余裕があるのか、などを定量的に判断できると安心感は大きく変わります。
 
 前置きが長くなりましたが、メトリクス管理は生活や仕事のいろいろな場面で使えるものです。今回の記事はいわゆるプロジェクトを対象にした内容になっていますが、何かしら参考にしていただければと思います。
 

2. 基本メトリクスセット

 
 では、本題の進捗管理について解説をはじめましょう。進捗管理は簡単に言うと次の2つのことを実施することです。
 
  1. 計画に照らしてプロジェクトを監視する
  2. 計画との乖離に対する是正措置の実施を管理する
 
 技術マネジメント
 
 まず、最初の「計画に照らしてプロジェクトを監視する」について考えてみます。「計画に照らして」というところが大切です。当たり前ですが、進捗は現状を計画と比較することでしか把握できません。計画ができていないときには進捗管理することはできないということですね。ところがおかしなことに、進捗がわからないという悩みを持った人に、では「計画を見せてください」と聞くと、「出荷などの日程はあるけど、見せられるよなスケジュールは・・・」というようなことがあります。まず、関係者が見ることができる計画を作成することが、進捗管理の最初のステップです。
 
 では、進捗管理に適した計画とはどのようなものでしょうか。これを考えることは進捗管理そのものを考えることにあります。つまり、進捗管理に使う指標は何かということです。
 
 進捗管理とは進捗をコントロールすることですから、ここでちょっと、コントロールの基本概念を復習しておきましょう。
 
 技術マネジメント
 
 つまり、進捗管理対象であるプロジェクトを測定すること、そして、プロジェクトの何を測定するのかが進捗管理の良し悪しを決めることになります。手間さえかければ測定対象はいくらでも増やすことができますが、プロジェクトの効率を落としてしまっては元も子もありません。必要最小限の測定項目(指標)を決めることが大切です。
 
 以下に説明する「基本メトリクスセット」とは、この進捗管理のための必要最小限の測定項目(指標)です。図に示しているように、プロジェクトへの入力である工数と、プロジェクトから出力されるタスク(作業要素)、作業成果物、不具合・課題、という4つの項目を測定すれば、プロジェクトの進捗を効率よく、効果的に把握することができます。
 
 技術マネジメント
 
 工数は、メンバーがどのような作業にどのくらい時間を使ったのかを測定したものです。多くのプロジェクトでの主要なリソースはプロジェクト・メンバーです。したがって、メンバーがどのような時間の使い方をしているのかがプロジェクトに対する最も重要な入力になり、これを測定することが重要になります。
 
 タスク(作業要素)は必要となる開発作業のことで、スケジュールでは矢印などであらわさ...
 

1. メトリクスによる進捗管理サイクル

 
 進捗管理とは、作成した計画にもとづいて現在の状況を把握することと、計画と実績に乖離を生じたときに適切な行動をとるための管理です。このように書くと単純なものにも思えるのですが、プロジェクトの進捗がわからない、進捗を正しく把握するために何をやればいいのかわからない、という悩みはなくなっていません。今回はこのような課題を解決するための進捗管理の仕組みについて紹介したいと思います。進捗を可視化(見える化)することが基本ですが、口で言うほど簡単ではありませんが、まずは考え方を理解することが大切です。
 
 可視化(見える化)とは成果物や振る舞いを定量化してデータで見えるようにするということです。ものごとを定量化して管理することことをメトリクス管理といいます。複数の人たちで何かものごとを進めるときには非常に重要な考え方です。
 
 ものごとを進めるとはプロジェクトということです。本題に入る前に、メトリクス管理の基本的な考え方を紹介しておきたいと思います。
 
 技術マネジメント
 
 この図で示すように、(1) 見積もり式を使って見積もりを作成する (2) 活動の実績データを収集・加工する (3) 見積もりと実績を比較して予実差(予定と実績の違い)を管理する (4) プロジェクトが終わった段階で見積もり式を改善する、そして最初に戻り、その改善した見積もり式を使って見積もりを作成するというサイクルを繰り返すのが、メトリクスを使ったプロジェクト管理の流れになります。図中にキーワードが書いていますが、それぞれのステップを実施する際に使う手法・技法です。何回かに分けて紹介していきたいと思っています。
 
 このメトリクス管理サイクルですが、製品開発などのいわゆるプロジェクトだけでなく、個人でも使える考え方です。たとえば、ドライブに行くというとき。気ままにあてもなくドライブするときは別ですが、行きたいところ、見たいところがあって、時間やお金が限られているというときは、まさにプロジェクトですし、メトリクス管理を取り入れるのは、その実行力を磨くことに役立ちます。
 
 まず、目的地までどのくらいの時間がかかるのか、どのルートで行くのか、どこで休憩を取るのかなどを計画しますね。このとき、経験や仕入れた情報をもとに計画すると思いますが、頭の中で何となくではなく、これまでのドライブしたときの記録や公開されている渋滞情報などが、目に見える形でそろっていると計画しやすいものです。これらは、計算式の形にはなっていませんが、見積もり式ということができます。
 
 実際にドライブしているときは、今どこにいるのか、何時なのかという実績データを把握した上で、このペースでいいのかなとか、思ったよりも疲れたので休憩しようかなとか、実際の状況に合わせて、常に何かしらの状況判断をします。このとき、計画がしっかりしているほど、的確な判断が可能ですよね。これが、実績データの収集や予実差管理です。このとき、どういうデータを見ていれば判断しやすいのか、今の時点でどのくらいの時間的余裕があるのか、などを定量的に判断できると安心感は大きく変わります。
 
 前置きが長くなりましたが、メトリクス管理は生活や仕事のいろいろな場面で使えるものです。今回の記事はいわゆるプロジェクトを対象にした内容になっていますが、何かしら参考にしていただければと思います。
 

2. 基本メトリクスセット

 
 では、本題の進捗管理について解説をはじめましょう。進捗管理は簡単に言うと次の2つのことを実施することです。
 
  1. 計画に照らしてプロジェクトを監視する
  2. 計画との乖離に対する是正措置の実施を管理する
 
 技術マネジメント
 
 まず、最初の「計画に照らしてプロジェクトを監視する」について考えてみます。「計画に照らして」というところが大切です。当たり前ですが、進捗は現状を計画と比較することでしか把握できません。計画ができていないときには進捗管理することはできないということですね。ところがおかしなことに、進捗がわからないという悩みを持った人に、では「計画を見せてください」と聞くと、「出荷などの日程はあるけど、見せられるよなスケジュールは・・・」というようなことがあります。まず、関係者が見ることができる計画を作成することが、進捗管理の最初のステップです。
 
 では、進捗管理に適した計画とはどのようなものでしょうか。これを考えることは進捗管理そのものを考えることにあります。つまり、進捗管理に使う指標は何かということです。
 
 進捗管理とは進捗をコントロールすることですから、ここでちょっと、コントロールの基本概念を復習しておきましょう。
 
 技術マネジメント
 
 つまり、進捗管理対象であるプロジェクトを測定すること、そして、プロジェクトの何を測定するのかが進捗管理の良し悪しを決めることになります。手間さえかければ測定対象はいくらでも増やすことができますが、プロジェクトの効率を落としてしまっては元も子もありません。必要最小限の測定項目(指標)を決めることが大切です。
 
 以下に説明する「基本メトリクスセット」とは、この進捗管理のための必要最小限の測定項目(指標)です。図に示しているように、プロジェクトへの入力である工数と、プロジェクトから出力されるタスク(作業要素)、作業成果物、不具合・課題、という4つの項目を測定すれば、プロジェクトの進捗を効率よく、効果的に把握することができます。
 
 技術マネジメント
 
 工数は、メンバーがどのような作業にどのくらい時間を使ったのかを測定したものです。多くのプロジェクトでの主要なリソースはプロジェクト・メンバーです。したがって、メンバーがどのような時間の使い方をしているのかがプロジェクトに対する最も重要な入力になり、これを測定することが重要になります。
 
 タスク(作業要素)は必要となる開発作業のことで、スケジュールでは矢印などであらわされています。作業成果物は、プロジェクトの活動を通じて作成される文書や何かしらのアウトプットのことです。そして、不具合・課題は開発中に発生した不具合や課題です。タスクは作業規模を、作業成果物は開発規模を、そして、不具合・課題は品質レベルをあらわす指標です。全体としてバランスのとれた指標になっていることがわかると思います。
 
 時間や手間をかければもっとたくさんの指標を収集・管理することもできますが、開発そのものが高い効率性や生産性を求められているのですから、プロジェクト管理についても効率良く実施することが要求されます。基本メトリクスセットで示している4つの指標だけでもしっかりと収集できる仕組みを作ることができれば、効率のよい進捗管理が可能になります。
 
 先に、進捗管理とは計画(予定)に照らし合わせて実績を把握すること、すなわち「予実差管理」ということを言いました。つまり、基本メトリクスセットの4指標はそれぞれ計画として明確にしておくことが必要不可欠です。
 
 次回は、アクティビティとプロダクトの2軸管理から解説を続けます。
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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