今回は、私が金型メーカーでよくお話しをさせていただく「多能工化」の本当の目的についてまとめてみたいと思います。まず前提として、金型メーカーでよく言われるのは、下図のように、依頼される仕事量について山谷があるという事です。
「仕事量に山谷がある」とは、忙しいときにはまとめて一気に仕事が来ることが多く、仕事が無い時期が交互に来て、平準してコンスタントに自社にとって適度な量で仕事が来るという状態には、なかなかならないという意味です。
そして、これもよくあることですが、図中に示す、社内で対応できるキャパ量を超えると、外注の金型メーカーに協力を仰ぎ、一般的には社内で作る原価よりも、外注に支払う金型費の方が高くつき、損益における利益率が低下することになります。
1. 具体的な多能工化の方法
そこでどのような対応をとっていくかの方法として「多能工化」が出てきます。
多能工化を行うことで、下図のように対応できる製造キャパを引き上げることができれば、山谷における「山」の状態、つまり引き合いが多く来たときに、できるだけ多くの型数を受注する、もしくは外注に出す金型を少なくするという対策ができます。
具体的な多能工化として、次のような例があります。
- 設計工程では、機械加工や金型組み立て担当者であっても、自分の工程が忙しくなる前に、設計アシスタントとして、金型設計を手伝ったり、部品図バラシなどを行う。
- 機械加工では、組み立てや仕上げ担当者であっても、自分の工程が忙しくなる前に、マシニング加工や放電加工の機械オペレーターとして、少しでも機械稼働率を高めるサポートを行う。また、設計担当者がCAMでデータ作成を行うなどもあります。
- 組み立てや仕上げ作業では、機械オペレーターが無人運転の最中に、加工後の仕上げを行ったり、サブアセンブリ状態までの組み立てを行うなどがあります。
2. 多能工化、隙間時間を制した者が勝つ
山谷における谷の状態のときに、しっかりOJTやOFF-JTによる準備を整えておき、山の状態が来た時に「多能工」という瞬発力を発揮して、来た仕事をできるだけたくさんこなすことが、金型メーカーにおける「多能工化」の真の目的になります。
これについては、私自身実際に、設計・CAM・機械加工・組み立て・仕上げ・トライ・保全などを、いつでも実務レベルで参画できるよう実践しておりましたので、自信を持って実現できると思っています。
金型を製造できるキャパは、設計や機械加工、組み立てなど工程ごとに分解し、投入できる人工や工数を使って計算されますが、それによれば、多能工化を行うことで、完全な分業体制をとっている金型メーカーよりも、各工程にフレキシブルに人工を投入でき...