金型メーカーにおける3次元設計がうまくいかなかった事例(その1)

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【目次】

◆ 3次元設計導入がうまくいかなかった要因は何だったのか

 1.1、金型モデリング後、さらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生
 1.2、投影した図面の線要素に問題がある
 1.3、パラメトリック方式のCADが合っていない

 以下、-----< 事例、その2で記述 >---------------------------------------

   1.4、現場が3Dデータを扱えない(上流工程が問い合わせの嵐になる)
 1.5、組図が読みにくい
 1.6、モデリングスキルの問題
 1.7、事前の情報収集

◆ 3次元設計導入がうまくいかなかった要因は何だったのか

 今回は金型メーカーにおいて、3次元CADを導入したがうまくいかず運用を断念してしまった、また運用しているが明らかに他社と比べ設計工数が多く掛かり過ぎるなど、上手く進められていないという事例を紹介します。上手くいかなかったという結果にはいくつかの要因があります。その要因は何だったのか、それを順番に見ていきます。

 1.1、金型モデリング後、さらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生 

 設計者のスキルにもよりますが、一般的に2次元での金型設計よりも3次元で設計する方が工数は多く掛かることが多いのです。理由は、2次元図面では注記や省略図などにより省ける詳細部も、3次元になると忠実にモデリングしなければならないこと、また2次元であれば断面図などで指示しておくことで、後工程のCAMや機械加工で対応してもらえるような穴、ワイヤーカット形状なども忠実に形状としてモデリングしなければならないためです。

 会社さんによっては、すり合わせやはめ合い・摺動面など、部品間のクリアランス(隙間)も全てモデリングしているところもあります。しかしせっかく工数を掛けて、部品ごと細部までモデリングされたものを、後工程であるCAMオペレーターに3次元データとしてそのまま渡すのではなく、さらに1個1個の部品ごと2次元図面を描いて渡しているという会社さんがおられます。3次元設計をやっている会社さんのCAM作業については、次の2つのパターンがあります(主に穴加工や2D切削加工などの構造部を対象としています)。

  • (1) 設計部門は、1個1個の部品の3Dモデルから三角法による寸法の入った2次元図面を作り、CAM工程はそのDXFデータから2次元CAMを使って加工プログラムを作成する。
  • (2) CAM工程は、1個1個の部品の3Dモデルから直接3次元CAMを使って加工プログラムを作成する。

 この(1)と(2)を比較しますと、リードタイムと工数において(1)のやり方を行っている会社さんの方が分が悪くなっています。

 リードタイムについては、設計者による金型全体のモデリングが完了した後、後工程であるCAMオペレーターが作業に入ろうとしても、個々の2次元図面ができてくるまで待たなければいけません。また工数についても(2)のようにダイレクトに3Dモデルから加工プログラムを作成する会社さんと比較して、余分に工数が掛かっています。余分に工数が掛かるということは金型の原価が増えることを意味します。

 大企業や比較的大きな規模の会社さんの金型部門の診断において「サプライヤーである協力会社さんの金型メーカーよりもどうしても原価が高くなるのはどうしてか?」とよく相談されるのですが、そうおっしゃっる会社さんの多くで上記(1)の手順をとっています。

 これはISOや管理体制がしっかりしており、工程間での管理や検査をきちんと行うため、詳細な図面を残す必要があります。そのため、手間を掛けた2次元図面を残すという慣習ができていることが理由だと思われます。またよくある理由として、外注の加工メーカーに仕事をお願いするため図面が必要になるといったこともあります。

 ちなみに、2次元で金型設計を行う場合については、次の2つのパターンがあります。

  • (1) 製品意匠面を3次元CADでモデリングし、その3Dモデルを構造設計用に2次元に投影し、そのDXFデータから2次元図面を作図していく。
  • (2) 金型構造部を先に2次元で設計し、製品意匠部の3次元モデリングは2次元で作図された金型組図の配置に合わせて行う。

 私が2次元で設計する時は、上記(1)のパターンで設計することが多いのですが、一般的に一人で構造部設計と意匠面モデリングを行う場合は上記(1)を、構造部と意匠面それぞれ別の人が行う分業設計の場合は上記(2)の方法をとっていることが多いようです。

 特に(1)の方法では、構造部における高さ方向の注意すべき箇所は3次元CADでの作業時にチェックしておき、2次元CADの設計に移ったら、締結部品などは断面図や側面図に代表的なものを図示していけば済むので、個人差や設計ボリュームにもよると思いますが、結構手早く設計できます。

 3次元設計においては、前述したように、細部まできっちり表現しなければいけない分、工数が掛かるのですが、ルーチン作業的な部品配置の作業などで少しでも効率よく設計するなどの工夫も必要になります。

 いずれにおきましても、3次元設計を導入したが失敗してしまった・断念してしまった・うまくいっていないという会社さんでは、過去に2次元設計をやっていた時や2次元設計している同業他社と比べて、あまりにも工数が多く増えてしまったという原因があったようです。

1.2、投影した図面の線要素に問題がある

 これは3次元設計を行う金型メーカーで、3Dモデルを2次元図面化したDXFデータを後工程に渡す場合、多くの加工現場で問題になっていることです。具体的には、穴形状やポケット加工形状などの円要素や線要素が2重になったり細切れになったりするため、加工現場ではそれをCADを使ってせっせと修正する作業に追われていることがあります。

 上記の「金型モデリング後にさらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生」で挙げた、3次元設計した後にさらに図面化する工数に加え、さらに後工程であるCAMやマシニングのオペレーターで追加の工数が発生してしまうため、結果、3次元設計の導入を断念した、もしくはその工数増加に気づかず原価UPになってしまっていることがあります。

 これについては、やはり3次元設計したものは後工程も3次元のまま作業することが理想です。以上の要因のため、3次元での設計を断念してしまったというケースがあるということです。

1.3、パラメトリック方式のCADが合っていない

 そもそも3次元CADは①パラメトリック方式、②そうではなく履歴を残さないノンヒストリー型のCADがあります。

 例えば金型設計における部品配置においては、個々のパーツのモデリング時ではなく、アセンブリ段階になって初めて作業することが多く、特に締結部品などは複数のプレートや部品をまたぐためアセンブリ段階で配置します。ということは、構造設計ではほとんど、複雑で複数の部品をレイアウトをするようなスケッチを描くことは少ないといえます。したがって設計する金型の種類によっては、パラメトリック方式のCADはいたずらに工数を増やす可能性があるかもしれません。

 特に3次元に慣れていない人や複雑なサーフェースモデリングを含む金型の設計においてパラメトリック方式のCADを使っている場合は私から見て「余計に工数が掛かっているなぁ…」と思うことがあります(レイヤ機能などが使えないとさらにそう思う時があります)。

 本当に自社の金型設計において「スケッチ」の段階から、後から編集したり、再利用設計をしたりする頻度が高いのかよく検討された方が良いと思います。また、部品ファイルとアセンブリファイルが分かれていることが設計をやりにくくしているといった面もあります。

 そもそも設計は金型であり機械設計であっても、部品を設計してからそれを組み上げるというよりは、全体像から構想していき、徐々に細かいところまで仕上げ、最終的に個々の部品に切り分けていくとい...

CAD

【目次】

◆ 3次元設計導入がうまくいかなかった要因は何だったのか

 1.1、金型モデリング後、さらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生
 1.2、投影した図面の線要素に問題がある
 1.3、パラメトリック方式のCADが合っていない

 以下、-----< 事例、その2で記述 >---------------------------------------

   1.4、現場が3Dデータを扱えない(上流工程が問い合わせの嵐になる)
 1.5、組図が読みにくい
 1.6、モデリングスキルの問題
 1.7、事前の情報収集

◆ 3次元設計導入がうまくいかなかった要因は何だったのか

 今回は金型メーカーにおいて、3次元CADを導入したがうまくいかず運用を断念してしまった、また運用しているが明らかに他社と比べ設計工数が多く掛かり過ぎるなど、上手く進められていないという事例を紹介します。上手くいかなかったという結果にはいくつかの要因があります。その要因は何だったのか、それを順番に見ていきます。

 1.1、金型モデリング後、さらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生 

 設計者のスキルにもよりますが、一般的に2次元での金型設計よりも3次元で設計する方が工数は多く掛かることが多いのです。理由は、2次元図面では注記や省略図などにより省ける詳細部も、3次元になると忠実にモデリングしなければならないこと、また2次元であれば断面図などで指示しておくことで、後工程のCAMや機械加工で対応してもらえるような穴、ワイヤーカット形状なども忠実に形状としてモデリングしなければならないためです。

 会社さんによっては、すり合わせやはめ合い・摺動面など、部品間のクリアランス(隙間)も全てモデリングしているところもあります。しかしせっかく工数を掛けて、部品ごと細部までモデリングされたものを、後工程であるCAMオペレーターに3次元データとしてそのまま渡すのではなく、さらに1個1個の部品ごと2次元図面を描いて渡しているという会社さんがおられます。3次元設計をやっている会社さんのCAM作業については、次の2つのパターンがあります(主に穴加工や2D切削加工などの構造部を対象としています)。

  • (1) 設計部門は、1個1個の部品の3Dモデルから三角法による寸法の入った2次元図面を作り、CAM工程はそのDXFデータから2次元CAMを使って加工プログラムを作成する。
  • (2) CAM工程は、1個1個の部品の3Dモデルから直接3次元CAMを使って加工プログラムを作成する。

 この(1)と(2)を比較しますと、リードタイムと工数において(1)のやり方を行っている会社さんの方が分が悪くなっています。

 リードタイムについては、設計者による金型全体のモデリングが完了した後、後工程であるCAMオペレーターが作業に入ろうとしても、個々の2次元図面ができてくるまで待たなければいけません。また工数についても(2)のようにダイレクトに3Dモデルから加工プログラムを作成する会社さんと比較して、余分に工数が掛かっています。余分に工数が掛かるということは金型の原価が増えることを意味します。

 大企業や比較的大きな規模の会社さんの金型部門の診断において「サプライヤーである協力会社さんの金型メーカーよりもどうしても原価が高くなるのはどうしてか?」とよく相談されるのですが、そうおっしゃっる会社さんの多くで上記(1)の手順をとっています。

 これはISOや管理体制がしっかりしており、工程間での管理や検査をきちんと行うため、詳細な図面を残す必要があります。そのため、手間を掛けた2次元図面を残すという慣習ができていることが理由だと思われます。またよくある理由として、外注の加工メーカーに仕事をお願いするため図面が必要になるといったこともあります。

 ちなみに、2次元で金型設計を行う場合については、次の2つのパターンがあります。

  • (1) 製品意匠面を3次元CADでモデリングし、その3Dモデルを構造設計用に2次元に投影し、そのDXFデータから2次元図面を作図していく。
  • (2) 金型構造部を先に2次元で設計し、製品意匠部の3次元モデリングは2次元で作図された金型組図の配置に合わせて行う。

 私が2次元で設計する時は、上記(1)のパターンで設計することが多いのですが、一般的に一人で構造部設計と意匠面モデリングを行う場合は上記(1)を、構造部と意匠面それぞれ別の人が行う分業設計の場合は上記(2)の方法をとっていることが多いようです。

 特に(1)の方法では、構造部における高さ方向の注意すべき箇所は3次元CADでの作業時にチェックしておき、2次元CADの設計に移ったら、締結部品などは断面図や側面図に代表的なものを図示していけば済むので、個人差や設計ボリュームにもよると思いますが、結構手早く設計できます。

 3次元設計においては、前述したように、細部まできっちり表現しなければいけない分、工数が掛かるのですが、ルーチン作業的な部品配置の作業などで少しでも効率よく設計するなどの工夫も必要になります。

 いずれにおきましても、3次元設計を導入したが失敗してしまった・断念してしまった・うまくいっていないという会社さんでは、過去に2次元設計をやっていた時や2次元設計している同業他社と比べて、あまりにも工数が多く増えてしまったという原因があったようです。

1.2、投影した図面の線要素に問題がある

 これは3次元設計を行う金型メーカーで、3Dモデルを2次元図面化したDXFデータを後工程に渡す場合、多くの加工現場で問題になっていることです。具体的には、穴形状やポケット加工形状などの円要素や線要素が2重になったり細切れになったりするため、加工現場ではそれをCADを使ってせっせと修正する作業に追われていることがあります。

 上記の「金型モデリング後にさらに追加で2次元で部品図を描く工数が発生」で挙げた、3次元設計した後にさらに図面化する工数に加え、さらに後工程であるCAMやマシニングのオペレーターで追加の工数が発生してしまうため、結果、3次元設計の導入を断念した、もしくはその工数増加に気づかず原価UPになってしまっていることがあります。

 これについては、やはり3次元設計したものは後工程も3次元のまま作業することが理想です。以上の要因のため、3次元での設計を断念してしまったというケースがあるということです。

1.3、パラメトリック方式のCADが合っていない

 そもそも3次元CADは①パラメトリック方式、②そうではなく履歴を残さないノンヒストリー型のCADがあります。

 例えば金型設計における部品配置においては、個々のパーツのモデリング時ではなく、アセンブリ段階になって初めて作業することが多く、特に締結部品などは複数のプレートや部品をまたぐためアセンブリ段階で配置します。ということは、構造設計ではほとんど、複雑で複数の部品をレイアウトをするようなスケッチを描くことは少ないといえます。したがって設計する金型の種類によっては、パラメトリック方式のCADはいたずらに工数を増やす可能性があるかもしれません。

 特に3次元に慣れていない人や複雑なサーフェースモデリングを含む金型の設計においてパラメトリック方式のCADを使っている場合は私から見て「余計に工数が掛かっているなぁ…」と思うことがあります(レイヤ機能などが使えないとさらにそう思う時があります)。

 本当に自社の金型設計において「スケッチ」の段階から、後から編集したり、再利用設計をしたりする頻度が高いのかよく検討された方が良いと思います。また、部品ファイルとアセンブリファイルが分かれていることが設計をやりにくくしているといった面もあります。

 そもそも設計は金型であり機械設計であっても、部品を設計してからそれを組み上げるというよりは、全体像から構想していき、徐々に細かいところまで仕上げ、最終的に個々の部品に切り分けていくといった進め方が多いと思います。

 その流れでいくと、パラメトリック方式CADの初心者向け説明書で書かれているような、まず部品を一つずつモデリングしていき全部揃ったら、それを合致拘束で組み上げていくという進め方は、すでに図面で設計が済んでいるものを3次元でそのまま立体化するという作業では相性が良いと思いますが、構想段階で「考えながら設計をする」という作業においては、うまくCADを応用して使っていかないといけないと思います。

 ちょうど、SolidWorks[1]でいうMFDのような手法です。逆にパラメトリック方式でないCADであれば、それを気にせずに3次元設計ができるともいえます。私は、今どきのCADのようにサーフェース機能とソリッド機能が共存しているような3次元CADではなく、サーフェース機能しかない3次元CADでガッツリモデリング業務をしていた時期もありました。あの頃は、フィレットRの大きさを変えるだけで、元の面をひたすら伸ばして元の状態を復元し、またフィレットを貼り直すなど地道で根気のいる作業を余儀なくされていました。

 そのため、パラメトリック方式のCADを使った時、寸法値で形状を変更できる機能が大変便利で効率的に感じましたが、最近のサーフェースとソリッドが共存している3次元CADは、パラメトリック方式でなくても、フィレットを変えてもバンバン自動で面は元に戻りますし、パラメトリック方式と遜色ない操作でモデル編集ができます。こう考えると、モデル編集のしやすさの基準だけでパラメトリック方式を選ぶ必要もないように感じます。このように、これまで私が見てきた事例では、CADの選定が合わなかったために、3次元設計の導入を断念してしまったケースがあります。

 これ以降は、目次の通り次回の事例(その2)で解説します。

 [1]SolidWorks(ソリッドワークス):3次元CADソフト

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント


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