ものづくりを現場視点で理解する「ものづくりの現場から」では現場の課題をはじめ、課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けします。前回は堀田カーペット株式会社の動画解析を使い、課題解決に取り組んだ事例をご紹介しましたが、今回は多拠点製造における課題と解決法などについて解説いたします。
◉この記事で分かること
- 中小工場の多拠点製造における課題と解決に向けたアクション
- 自社の強みを見つけ、伸ばすマネジメント
多拠点製造(大阪・和歌山)で顧客ニーズに対応する
大阪和泉市で三代続く堀田カーペットは、国内有数のカーペットメーカーです。最高級品カーペットの分野では国内だけでなく、世界レベルで有数の工場であり、伝統のウィルトン織を当時の製造方法を守りながら、世代を超え持続的な国内生産を続けています。そんな同社ですが、顧客ニーズの変化に対する対応にも力を入れています。そのことがよく分かる例として本社工場(大阪)、和歌山工場(和歌山)の多拠点体制が挙げられます。
【写真説明】堀田カーペット和歌山工場:風光明媚(ふうこうめいび)な環境で独創的な製造が行われている
同社の多拠点生産体制は大企業のものと比べとてもユニークであり、中小製造業の強みを生かしたマネジメントに大きなヒントを与えてくれます。
中小製造業の強みを生かした多拠点製造でそれぞれが主役に
効率を考えれば製造拠点を一か所に集約し、ロジスティクス[1]のロスを削減することが考えられますが、実施するには物理的制約やコストの問題が発生します。ここでは取材を通じて感じた、中小製造業における多拠点製造の利点について紹介します。
以下に中小製造業での多拠点製造実現に向けた導入の特徴・メリットを挙げました。それぞれの項目について解説します。
中小製造業における多拠点製造の特徴・メリット
- 拠点ごとのカルチャーの違いが、イノベーションを生む(人材育成の観点)
- 異なる視点とそれぞれの取り組み、ナレッジ活用で生産性向上(生産性の観点)
①拠点ごとのカルチャーの違いがイノベーションを生む(人材育成の観点)
製造拠点が多拠点になれば、拠点ごとに慣習や風土といったカルチャーが育っていきます。大工場に多くみられる、金太郎飴(あめ)のような統一されたカルチャー構築ではなく、それぞれのカルチャーを尊重し生かして行く姿勢が、特に中小製造業の人材育成や管理において大きな効果を発揮しています。
【写真説明】和歌山工場㊧と本社工場:製造品目の違いから生産設備(機械)、製造環境(生産・製造工程など)が大きく異なるが、製造現場同士の人材交流は盛んに行われている
生産拠点間の違いを分かりやすく例えると本社工場は「伝統的」であり、和歌山工場は「現代的」といえます。異なる顧客ニーズに対応し、異なる仕事を行うスタッフが存在することの最大のメリットは“普通”ととらえている事に違いがあるということ。普通の事とは言い換えると気づきや疑問がない日常の事といえますが、この普通こそ、従業員同士のコミュニケーションや連携を通じて気づきを生み出し、イノベーティブな活動につながってゆきます。
②良質な競争とナレッジ活用で生産性向上(生産性の観点)
異なる製品の顧客ニーズに対応し生産を続ける両拠点では、製造に関する工夫や改善、取り組みに特徴があります。それぞれの拠点の知見をそれぞれが活用することで、より顧客ニーズに応える生産が可能となります。
【写真説明】和歌山工場㊧と本社工場:製造に必要な自動生産設備のほとんどを拠点内で開発、メンテナンスする和歌山工場では電子制御、センサー活用が盛んですが、それらのノウハウは従来工法を行う本社工場での自動化、省力化に生かされています。
それぞれの拠点が自主性を持ちながら、会社のミッションである「カーペットの“ものづくり”を維持発展させること」に取り組む姿勢は、まさにそれぞれが主役といえるのではないでしょうか。
全スタッフに浸透するビジョン、ミッションには納得できる見える化が必要
多拠点での生産現場を支える多くのスタッフが、会社のビジョンとミッションを理解し、行動できるのは同社のコミュニケーションの姿勢にあります。それは仕事を作業にせず、常に考え創造的に製造に取り組めるよう、同社が長年取り組んでいる「ものづくりの心」を尊重したクラフトマンシップの刃具組であるとともに、具体的かつ客観的に事象をとらえ共有...