【ものづくりの現場から】他産業技術を農業へ転用。研究・実証を重ねる中小企業の発想とは(ラジアント)

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ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けしています。今回は農業設備の研究開発を行う株式会社ラジアントの取り組みについて紹介します。

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◉この記事で分かる事
・既存技術の横展開による新商品・サービス開発
・農業の課題と、科学的な農業による展望

 

1.農業の課題解決に他産業の技術を活用

農業の目指す事は収穫物の質と量の向上、すなわち生産性の向上であると言えます。しかし農業は自然を相手にする営みであり、人間がコントロールできない事象も数多く発生するのも事実です。

そんな中、様々な挑戦が世界各地で行われており、新たな農業機器の開発、新品種の開発、新農法の開発などにより生産性の向上が図られています。スマート農業の取り組みや、野菜工場など最先端の取り組みをニュースなどで目にした方も多いのではないでしょうか。

[関連記事]スマート農業の目的、課題 

まさに変革の渦中にある農業の中でも私たちが身近で目にすることができる農業の生産性向上の取り組みにハウス栽培があります。

ハウスを使わない露地栽培と比較して、人間がコントロールできる要素が増えることが大きな特徴で、収穫量の増大や収穫時期をずらすことで収益向上ができる点などから農業大国のアメリカ、オランダはもとより日本でも普及しています。

温室栽培の歴史は古く、日本では400年ほど紙を利用した温室栽培がおこなわれていたと言われており、明治時代にはガラスの温室による栽培技術が海外からもたらされ、それまでの紙を利用した方法と融合し、ペーパーハウスが生まれました。その後1950年代にビニールハウスが普及し始め、現在私たちが目にするようなハウス栽培の形態となりました。

今回紹介する農業設備は、主にハウス栽培での課題の解決を他産業の技術を活用して行うものです。

 

ハウス栽培の例

 

2.住宅用床暖房のノウハウを農業に

ハウス栽培に取り組む農家が抱える課題には収穫量の安定化、高付加価値作物の取り組みなどがあります。

その課題を解決するアイデアとして、住宅用の床暖房システムを農業(ハウス栽培)に転用することで解決できるのはないかと考えて、同社は自社でシステムを開発し特許を取得しています。

[参考記事]アイデア発想の基本とは

もちろん、住宅用の床暖房がそのまま使えるわけではありません。数多くの農家や自治体の協力を得て実証実験を重ね、一つづつ知見を蓄積しシステムのブラッシュアップを図っています。

ハウス栽培の地中を温めるこのシステムは「深層地中加温システム」と呼ばれるもので、作物の根圏域(根の周りの領域)を温めることで作物の育成に最適な環境を作り、育成を促進するものです。

 

深層地中加温システム概要図

 

深層地中加温システムの概要

地中40~60cmと比較的深いところに放熱パイプを埋設し、ボイラーやヒートポンプなどで50℃程度の温水を循環することで、根の周辺の最適温度を維持。作物の生育を促進させ、増収を実現を目指すものです。

[参考記事]ヒートポンプとは

特徴としては温水を生み出す熱源の選択の幅が多い事にあります。ハウス栽培で従来より使われているハウス内設置の石油暖房装置は機器に応じた燃料が必要になりますが、深層地中加温システムでは他の熱源からの排熱を効率よく利用できるので、環境に配慮した省エネ農業と言えます。

果菜類の最適温度、限界温度

 

実験結果より

・千葉県農業総合研究センターとの共同実験においてはトルコキキョウの収穫期が約10日早まった

・長野県果樹試験場でのオウトウの収穫期が6日早まった

・宮城県農業・園芸総合研究所でのイチゴ栽培では23~30%の増収となった。

 

地中加温のメリット

・経営安定化(反収が増え、秀品率が向上)

長く多くの根が養分・水分を容易に汲み上げるため体(茎)が太く丈夫にできる。花芽がつき実ができる間隔が短くなり収穫が増える。

 

・省エネ化(温風暖房だけに比較し燃費が良い)

根圏域を最適温度に維持すればハウス内温度を3~5℃下げられると米国の文献に記載されている。
岩手県のユリ栽培では30%、群馬県のキュウリ栽培では17℃を13℃、高知県のショウガ栽培では20℃を16℃に下げ大幅な省エネ効果が確認されている。

 

・リスク管理(停電・機械の故障でも土壌の蓄熱が作物を守る)

長野県の青木村で大雪のため停電が約1週間続いたが作物には影響なかった。もし温風煖房機のみの場合は作物への影響は避けられない。

 

・差別化(農薬を使わない土壌消毒で有機栽培を実現)

深層地中加温システムでは、夏場にハウスを閉め切り土壌消毒を実施。40~60cmの深さに埋設したパイプからの放熱と太陽熱で土壌全体を45℃に加温。化学農薬を一切使用せずに有害病原菌を殺菌するクリーンな土壌消毒で、有機農業を実現します。なお、パイプを60cmに埋設した場合、80cmの深さまで消毒効果が確認されており、雑草も生えません。気象条件により異なりますが、10~14日間で完了。手間がかからずかつ効果的な消毒法です。

 

3.安全でおいしい日本農業の再生を目指す

同社が目指すのは「安全でおいしい」日本農業の再生。

一例として、日本は戦後近代農法を取り入れてから化学農薬・化学肥料の多用により土壌が疲弊し土壌微生物相のバランスがくずれ農産物中のミネラル含有量が大幅に減り、ほうれん草の例では、1953年時と比較して2001年に鉄分は1/7に減少したという論文もあるとのこと。

安全でおいしい日本農業を目指す同社が開発する深層地中加温システムは現在、各所で取り組みが進むIoTの活用やスマート農業との相性も良いことから今後さらなる発展が期待されます。

純日本産有機作物を世界へ輸出を実現するために日々研究を続ける同社の今後に注目です

 

【会社概要】

・名称 株式会社ラジアント

・代表取締役 杉浦武雄

・所在:東京都品川区 

  HP http://www.radiant.co.jp/

 

 

 

 

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

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