品質工学で寿命信頼性を確保した事例(自動止水栓)

投稿日

 風呂の水を設定量で自動的に止める止水栓を開発して、1億回の寿命試験をして 出荷したところ、市場では半年足らず(約200 回)で故障してしまいました。 原因は,スリップ機構(図1)の摩擦トルクが劣化により増大して、機能限界を超えたため、 プラスチックの伝達歯車が破壊して止水ができなくなったためです。寿命試験では標準の使い 方で連続の繰り返し試験を行っていたのですが、市場における使い方は、高温でしかも一日に1 回の間欠的な使い方しかしていなかったのです。すなわち、摩擦スリップ機構の摩擦トルクが、温度や使用条件のノイズで大きく変化してしまったのです。

 品質工学の機能性評価とパラメータ設計は、以下のような手順で進めました。

1.問題を起こしたスリップ機構の「理想機能」を「皿ばねの締め付け量M と回転つまみの回転力y との比例関係」がyβMであることと考える。(図2)

 ・信号因子:締め付け量M(皿ばねの撓み量mm)

 ・出力特性:回転力y(トルク計で測る kg・cm)

2.ノイズ(誤差因子)は,理想機能を乱す使用条件として最も影響が大きいと思われる温水を劣化条件として選ぶ。

 ・N1( 25℃の水で,0 時間) N2(100℃温水で24 時間放置)

 3. 機能性を評価するために,SN比と感度を求める。

 4. 機能性を改善するために,制御因子(皿ばね,摩擦板の材質や寸法)を選んで直交表に割り付け て,パラメータ設計を行い,ノイズの影響を受けない最適条件を...

 風呂の水を設定量で自動的に止める止水栓を開発して、1億回の寿命試験をして 出荷したところ、市場では半年足らず(約200 回)で故障してしまいました。 原因は,スリップ機構(図1)の摩擦トルクが劣化により増大して、機能限界を超えたため、 プラスチックの伝達歯車が破壊して止水ができなくなったためです。寿命試験では標準の使い 方で連続の繰り返し試験を行っていたのですが、市場における使い方は、高温でしかも一日に1 回の間欠的な使い方しかしていなかったのです。すなわち、摩擦スリップ機構の摩擦トルクが、温度や使用条件のノイズで大きく変化してしまったのです。

 品質工学の機能性評価とパラメータ設計は、以下のような手順で進めました。

1.問題を起こしたスリップ機構の「理想機能」を「皿ばねの締め付け量M と回転つまみの回転力y との比例関係」がyβMであることと考える。(図2)

 ・信号因子:締め付け量M(皿ばねの撓み量mm)

 ・出力特性:回転力y(トルク計で測る kg・cm)

2.ノイズ(誤差因子)は,理想機能を乱す使用条件として最も影響が大きいと思われる温水を劣化条件として選ぶ。

 ・N1( 25℃の水で,0 時間) N2(100℃温水で24 時間放置)

 3. 機能性を評価するために,SN比と感度を求める。

 4. 機能性を改善するために,制御因子(皿ばね,摩擦板の材質や寸法)を選んで直交表に割り付け て,パラメータ設計を行い,ノイズの影響を受けない最適条件を求める。

 以上の結果により、対策前の200 時間に対して、対策後は1000 時間と寿命を改善できました。(図3)

 機能性評価とパラメータ設計のメリットをまとめてみます。

1.従来の寿命試験では市場の品質が分からない

2.僅か24 時間で品質評価ができる(SN比と直交表の活用)

3.感度の変化率から寿命の推定ができる

   続きを読むには・・・


この記事の著者

原 和彦

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます

品質工学を通して製品開発、設計の真髄を伝えます


「機能性評価」の他のキーワード解説記事

もっと見る
「信頼性試験」と「機能性評価」の違いとは

 品質工学では、CAEを活用して「試作レス」「試験レス」「検査レス」で市場に出てからの商品の品質評価を行うことを提唱しています。 具体的には、「機能性評価...

 品質工学では、CAEを活用して「試作レス」「試験レス」「検査レス」で市場に出てからの商品の品質評価を行うことを提唱しています。 具体的には、「機能性評価...


機能性評価の使いどころと効果 超実践 品質工学  (その6)

  【超実践 品質工学、連載記事へのリンク】 未来の品質  機能性評価  機能定義  ばらつき要因、...

  【超実践 品質工学、連載記事へのリンク】 未来の品質  機能性評価  機能定義  ばらつき要因、...


機能定義 超実践 品質工学  (その3)

  【超実践 品質工学、連載記事へのリンク】 未来の品質  機能性評価  機能定義  ばらつき要因、...

  【超実践 品質工学、連載記事へのリンク】 未来の品質  機能性評価  機能定義  ばらつき要因、...


「機能性評価」の活用事例

もっと見る
フォトカプラの新規品を合理的に判定した安川電機の事例

2012年の品質工学会研究発表大会で株式会社安川電機の平林和也さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電...

2012年の品質工学会研究発表大会で株式会社安川電機の平林和也さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電...


フォトカプラのコストダウンと市場トラブル防止を同時に達成した事例

2007年の品質工学会研究発表大会で株式会社ナナオの中西貴志さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電子...

2007年の品質工学会研究発表大会で株式会社ナナオの中西貴志さんが発表した「フォトカプラの機能性評価」の概要を掲載します。   1.はじめに  電子...


ボーイング787機のトラブル続出に思う

 最新鋭機のボーイング787の相次ぐトラブルは、大事故につながる恐れがあることが分かってきました。787機は鳴り物入りで登場して2年、日本製の国産部品が3...

 最新鋭機のボーイング787の相次ぐトラブルは、大事故につながる恐れがあることが分かってきました。787機は鳴り物入りで登場して2年、日本製の国産部品が3...