私はこれまで、国内、海外のものづくり現場のクリーン化診断・指導を多数実施して来ました。日本国内ではいまだに東南アジア諸国に対し、上から目線、単なる工数という意識が根強いと感じます。ところが、アジアの国々の現場を見る度に、日本の企業(現場)を追い越していると感じる場面に多々遭遇しました。
その度に国内、特に中小企業のものづくり現場の基盤、体質に危機感を感じました。日々生産活動だけに終始し、積極的な現場の改善、あるべき姿に休むことなく向かう姿勢に不足を感じます。もう少し具体的に記しましょう。
1.情報が入りにくい
例えば大手から注文が来ても、QCDの要求がされるだけで、その製品をいかに効率よく、低コストで作り出すか。現場をどのように改善するかというノウハウの提供や指導はないのが実情ではないでしょうか。また、現状で良しとしている。あるいは問題と感じていないのではないかと思います。
例え問題を意識したり、改善を重ねていく必要性を感じても、工数的に現状維持が精いっぱいという理由もあると思います。 仕事の受注という縦の流れからは指導や情報はあまり入って来ない。また同業者との連携や情報交換という横の連携も希薄、つまり、どの企業も孤軍奮闘という感じがします。技術の流出や、企業間の競争など考えると、難しいことではありますが、この縦、横の連携がうまく行けば、日本のものづくりの現場の体質は向上すると考えます。
2.情報交換・開示の例
クリーン化ということではありませんが、異業種の現場を見たいと思い、山形県のある酒造会社の工場見学をさせていただいたことがありました。この会社は全国品評会で最優秀、あるいは上位入賞の常連です。入賞するような美味しいお酒を造るノウハウを持ち、また常に研究を重ねているということを見学時の説明から感じました。単に伝統を守るだけでなく、日々進歩しているんです。
この会社をはじめ、その地方のいくつかの酒造会社が集まり、それぞれのノウハウを公開しながらさらに良いお酒を造ろうと、定期的に交流していました。ノウハウを開示したくない会社は参加していませんが、集まっている会社は、日常的に危機感を感じ、共存・共栄を目指しているとのことでした。
3.大手がノウハウの公開、指導を積極的にしない理由(クリーン化側面)
例えばゴミ、異物による品質問題、クレーム等が頻発すると、取引先から製造現場の環境改善やクリーンルーム(以下CR)化を要求されることがあると思います。しかし、実際にCR化しても、その取引先から管理方法など技術面の指導はほとんどなされないのが実情です。この理由には、以下の2つが挙げられます。
1つ目は、技術を公開したり、指導することは、自社のクリーン化技術が流出することであり、同時にその技術を使うことで、他の取引先の品質や歩留まりも向上する。つまり、他社は何もしないでも恩恵を受けられることになります。
これを避けるため、クリーン化技術は他社には教えない、手の内を見せないと言う閉鎖的な技術でもあります。昔から“クリーン化は経営に直結する。ゆえに企業の競争力である”と言われて来ました。このことをよくわかっているからです。今でこそ表面的、部分的には公開されるようになって来ましたが、泥臭い本当のノウハウは各社とも公開していません。
2つ目は、CRにすると歩留まりや品質が向上すると言う神話や先入観です。技術を指導しないのにCR化を要求し、受け手側の経営者や管理職の方も、それを鵜呑みにするケースです。そして“言われるままCRにしたが、お金ばかりかかり肝心の品質や歩留まりが向上しない”と言うことになります。
どちらにしても、品質、歩留まりの向上は期待できません。クリーン化技術は、大きな技術が存在するのではなく、小さな技術の積み重ねです。その一つ一つに“なぜ”があります。それらを理解、標準化し、正しい使い方をしないと投資に対して効果は薄いと言うことです。それを教えてもらえないので仕方ないとか、それで良しとせず積極的に情報を取りに行く、絶えず研究、改善を怠らないことが大切です。
4.人財育成の仕組みを作り機能させる
セミナーや講習会の受講者を見ても、大手企業の方が圧倒的に多いです。大手では教育、人財育成の体制がしっかりしており、そのための費用、時間も確保されています。自社のノウハウはきちんと確立し、しかも日々進歩しているのですが、さらに充実させるためにその機会を設けています。人が育ち、事業が成長するサイクルが機能しているのです。しかし、中小企業の中には、工数的に厳しい上に教...