国際生産成功のための基本的要点(その6)

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 前回のその5に続いて解説します。この事例を読んだある方から、「私のような零細企業は、国内生産に拘ります。地元を愛し、・・・、日本を愛する気持ちから、国内の産業が発展する事を望みます。」というコメントを頂きました。全くその通りで、国内で発展できるのが一番です。しかしながら、多くの企業が(大企業・中小企業を問わず)十分な認識と準備のないまま海外に出て行って想定外の苦労をしている実情を見るにつけ、この事例は20年以上も前のものですが「転ばぬ先の杖」として「温故する」に値するノウハウがあり、何かのお役に立てるのではないかとの思いで載せております。

 

(話は後半に入ります)

 シンガポールのプロジェクトSPDPで、このようにして新しい体制が一応軌道に乗ったところで新しいリーダーにバトンタッチし、以後2年間着実に成果を上げて、1988年6月無事に当初のプロジェクトを終了した。現在は2年間のフォローアップが進行中である。

 このプロジェクトは先のラテンアメリカのケースとは比較にならないほど膨大でかつ困難なものであったが、やはり文化・社会構造を理解するに至った段階からスムースな運営が可能になった。日本側リーダーの強力なリーダーシップ(双方の国家レベルの人々を説得できる力)と相手側トップの人事がカギになった点に極めて共通するものがある。

 それにしてもSPDPは、発足の前に2年間掛けて何と74人・週もの調査員を派遣していながら、なぜこのようなムチャクチャな初期計画になってしまったのだろうか?それは日中関係に尽くしてこられ、最近92歳で物故された岡崎嘉平太氏が戦後100回訪中し、「中国は100回位行ったって分るものじゃないよ」と言っておられたというが、どんな国でも「その地に長く住んでいなければ実情は分らないし、また、たとえその地で会社の経営を5年間やった人でも、SPDPのような政府の仕事となると半年間は様子が分らないものだ」といった基本的なことを(ぜんぜん)身にしみて理解していなかったからだと思う。この理解があっれば、初年度は有力な長期専門家を数名派遣し、戦術的なトライアルをしつつ戦略を練って、2年目以降の本格的プロジェクトに結び付けるといった計画ができるはずである。といっても、このやり方を説得する相手は頭の良すぎる役人なので、それほど簡単ではないだろう。やはり押しも押されもしない実戦経験を持った人が、強力なアドバイスをすることにより、「最初の設定を間違えないようにする仕組みを作る」ことが必要である。それが今後ますます増えるこの種のソフトプロジェクトをスムースに行うために欠かすことのできない条件である。

 

3.溶け込みと混じり合い

 ここでまたSさんのシンガポール体験譚に耳を傾けたい。

 『造船所の建設を始めるに当って、日本と違い弁当を持参する習慣のない土地柄、食堂をつくることが必要であった。この食堂は、豚を不浄としてさわることもしない回教徒のために、華人とは全く別に調理場まで用意する必要があった。

 このような暮らし向きの違いから、古い市街地では民族別、出身地別の住み分けが出来ていて、マーケットから学校までそれぞれ違っていた。しかし最近では国の住宅政策の進展とともに、近代的な公団住宅がどんどん建てられ、現在ではシンガポール市民の7割が公団住宅に住んでいる。それへの入居は旧来の住み分けをなくし、抽選による割当てになっているので、食事に豚を欠かせない華人と、豚には触ることも出来ないマレイ人とが高層アパートに隣り合って住んでいるようなことがどこでも起っている。

 ここでは互いに異質な自分達の生活様式をそのまま維持しながら、一方では隣人と平和に暮らすための妥協と折合いが必要である。このようなことは単に隣り合って住むときだけでなく、日常の取り引き、一緒に働く場合、その他あらゆるところで起っている。

 常に異質の人々と触れ合いながら、しかも自分の主体性をなくさずに生きるためには、まず自分がどんな人間で、何を欲し、何をしたいか、どう考えているか等の自己主張をはっきりして、そこに他の人の自己主張を受け入れ、必要な範囲での妥協と折合いがあって、取り引きも成立し一緒に働くことにもなるわけである。

 このように自分と他人とは違うということをベースにした生き方は、溶け合っているとは言えず、混じり合っていると言べきであろう。すなわち紅茶に砂糖を入れた場合のような溶け込みではなく、例えば大豆や小豆や黒豆などが混じり合っている状態、それぞれの豆の本質は変らないが、その接点では反撥し合うことなく共存している姿を考えればよい。

 私も日本という均質の溶け込みをよしとする社会からこの混じり合いの世界へ入って、ここでの違うもの同士のかもしだすハーモニー、平和共存を始めて体験した。そしてそのハーモニーを作り出すために、1人1人がかなり努力していることにも気付き、それから色々なことを学んだようにも思う。

 この頃日本人の国際化についての議論が多くあるが、日本人がこのように異質の他人との触れあう場合に、他人が違うのは当り前というベースに立って混じり合いの考え方が出来るようになるといことも、国際化の一要素であると思う。』

 さて日本人が外国へ行った場合に、彼等と同じものを食べ同じように生活することは、彼等に親近感を与えより早く仲間入りができるということで極めて大事なことである。いわゆる「郷に入っては郷に従え」である。それでは、...

 前回のその5に続いて解説します。この事例を読んだある方から、「私のような零細企業は、国内生産に拘ります。地元を愛し、・・・、日本を愛する気持ちから、国内の産業が発展する事を望みます。」というコメントを頂きました。全くその通りで、国内で発展できるのが一番です。しかしながら、多くの企業が(大企業・中小企業を問わず)十分な認識と準備のないまま海外に出て行って想定外の苦労をしている実情を見るにつけ、この事例は20年以上も前のものですが「転ばぬ先の杖」として「温故する」に値するノウハウがあり、何かのお役に立てるのではないかとの思いで載せております。

 

(話は後半に入ります)

 シンガポールのプロジェクトSPDPで、このようにして新しい体制が一応軌道に乗ったところで新しいリーダーにバトンタッチし、以後2年間着実に成果を上げて、1988年6月無事に当初のプロジェクトを終了した。現在は2年間のフォローアップが進行中である。

 このプロジェクトは先のラテンアメリカのケースとは比較にならないほど膨大でかつ困難なものであったが、やはり文化・社会構造を理解するに至った段階からスムースな運営が可能になった。日本側リーダーの強力なリーダーシップ(双方の国家レベルの人々を説得できる力)と相手側トップの人事がカギになった点に極めて共通するものがある。

 それにしてもSPDPは、発足の前に2年間掛けて何と74人・週もの調査員を派遣していながら、なぜこのようなムチャクチャな初期計画になってしまったのだろうか?それは日中関係に尽くしてこられ、最近92歳で物故された岡崎嘉平太氏が戦後100回訪中し、「中国は100回位行ったって分るものじゃないよ」と言っておられたというが、どんな国でも「その地に長く住んでいなければ実情は分らないし、また、たとえその地で会社の経営を5年間やった人でも、SPDPのような政府の仕事となると半年間は様子が分らないものだ」といった基本的なことを(ぜんぜん)身にしみて理解していなかったからだと思う。この理解があっれば、初年度は有力な長期専門家を数名派遣し、戦術的なトライアルをしつつ戦略を練って、2年目以降の本格的プロジェクトに結び付けるといった計画ができるはずである。といっても、このやり方を説得する相手は頭の良すぎる役人なので、それほど簡単ではないだろう。やはり押しも押されもしない実戦経験を持った人が、強力なアドバイスをすることにより、「最初の設定を間違えないようにする仕組みを作る」ことが必要である。それが今後ますます増えるこの種のソフトプロジェクトをスムースに行うために欠かすことのできない条件である。

 

3.溶け込みと混じり合い

 ここでまたSさんのシンガポール体験譚に耳を傾けたい。

 『造船所の建設を始めるに当って、日本と違い弁当を持参する習慣のない土地柄、食堂をつくることが必要であった。この食堂は、豚を不浄としてさわることもしない回教徒のために、華人とは全く別に調理場まで用意する必要があった。

 このような暮らし向きの違いから、古い市街地では民族別、出身地別の住み分けが出来ていて、マーケットから学校までそれぞれ違っていた。しかし最近では国の住宅政策の進展とともに、近代的な公団住宅がどんどん建てられ、現在ではシンガポール市民の7割が公団住宅に住んでいる。それへの入居は旧来の住み分けをなくし、抽選による割当てになっているので、食事に豚を欠かせない華人と、豚には触ることも出来ないマレイ人とが高層アパートに隣り合って住んでいるようなことがどこでも起っている。

 ここでは互いに異質な自分達の生活様式をそのまま維持しながら、一方では隣人と平和に暮らすための妥協と折合いが必要である。このようなことは単に隣り合って住むときだけでなく、日常の取り引き、一緒に働く場合、その他あらゆるところで起っている。

 常に異質の人々と触れ合いながら、しかも自分の主体性をなくさずに生きるためには、まず自分がどんな人間で、何を欲し、何をしたいか、どう考えているか等の自己主張をはっきりして、そこに他の人の自己主張を受け入れ、必要な範囲での妥協と折合いがあって、取り引きも成立し一緒に働くことにもなるわけである。

 このように自分と他人とは違うということをベースにした生き方は、溶け合っているとは言えず、混じり合っていると言べきであろう。すなわち紅茶に砂糖を入れた場合のような溶け込みではなく、例えば大豆や小豆や黒豆などが混じり合っている状態、それぞれの豆の本質は変らないが、その接点では反撥し合うことなく共存している姿を考えればよい。

 私も日本という均質の溶け込みをよしとする社会からこの混じり合いの世界へ入って、ここでの違うもの同士のかもしだすハーモニー、平和共存を始めて体験した。そしてそのハーモニーを作り出すために、1人1人がかなり努力していることにも気付き、それから色々なことを学んだようにも思う。

 この頃日本人の国際化についての議論が多くあるが、日本人がこのように異質の他人との触れあう場合に、他人が違うのは当り前というベースに立って混じり合いの考え方が出来るようになるといことも、国際化の一要素であると思う。』

 さて日本人が外国へ行った場合に、彼等と同じものを食べ同じように生活することは、彼等に親近感を与えより早く仲間入りができるということで極めて大事なことである。いわゆる「郷に入っては郷に従え」である。それでは、すべて彼等と同じ振る舞いをするようになったらどうだろう。良い物を作り、良いサービスを提供するための基本は職場の規律にある。日本人幹部は、最初は規律が乱れていると気になって仕方なくうるさく言うが、これはそう簡単に直るものではない。しばらくすると諦めて、そのうちに慣れっこになって何も思わなくなる。こうなってしまっては何のために日本人幹部がいるのか分らなくなってしまう。やはり「混じり合い」で日本人としての主体を堅持しつつ、相手の文化・宗教を損ねない範囲でより発展するために必要な日本の良い点を移転していくようにすることが必要である。

 最近、急速に重視されてきた5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)等はそのいい例であり、シンガポールでは先に述べたSPDPの一環として始め、今では国をあげて取り組む体制を作って推進している。混じり合いの世界では、各人の価値観が違うため生産性向上のような目に見えないものの推進は容易ではないが、これを5S(Good Housekeeping)として目に見える形で推進することは、特に未だレベルの低い地元中小企業の改善、生産性向上には極めて有効なアプローチである。

5S推進ロゴ(参考)500人が会場を埋め尽くした「日本への5S視察団報告会」を取材したシンガポール有力紙「STRAITS TIMES」の記事タイトル と 当時の5S推進のロゴ

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この記事の著者

鈴木 甫

「生き残る」のは “強いもの” でも “賢いもの”でもなく「変化に対応できるもの」!「ポストコロナ『DX』の激変する環境に対応する企業支援」に真剣に取り組んでいます!            E-mail: h.suzuki@dr-practice.com

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