『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その28)

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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『プロジェクトや人の評価方法』の章です。プロジェクト活動の成果を、どういう観点から評価するか。プロジェクトの成功や失敗とは、何を基準にするか。組織の中で敗者をつくらないために、どのように人の評価をするか。この章で解説しています。
 
 人的資源マネジメント
 

5. 人の評価は個別的に

 
 秋山真之と同じく海軍兵学校を卒業し、彼のよきライバルと言われていた広瀬武夫という人物がいました。広瀬武夫は、ゼネラルマネジャーとしては、部下がかわいくて仕方がないという人だったようです。部下の長所ばかり見ているから、かわいくて仕方がないということだったのでしょう。部下にはいろいろなタイプがいたはずだが、彼が艦長を務めた鑑はどんどん士気が上がって成績が上がったから、短所を見つけようとしていないのです。
 
 『坂の上の雲』の中には、「長所を見た」とは書いていないのですが、部下がかわいくて仕方がないという傾向は長所ばかり見ていることを想像させるのです。ロシア艦隊のロジェストウェンスキー提督や陸軍大臣の寺内正毅とは対照的です。ロジェストウェンスキーは何かというと、部下を怒鳴ったり双眼鏡で殴りつけたりしました。
 
 寺内正毅は創造的というよりも整理的な人物で、整理整頓ができていないともう気に入らず士官学校の生徒隊長をやっていたときは生徒がきちんとしているかどうか遠くから双眼鏡で監視していたというエピソードが『坂の上の雲』に書いてあります。
 
 ところが、広瀬武夫という人物は、規律よりもみんながどうやったら伸び伸びとやれるかを考えたので、結果的に成績も大いに上がったと書かれています。したがって、評価はその人その人ごとに個別的に行うべきもので、全員を対象として同一項目で評価するチェックリストで、おまえはチェックリストに書かれているこの項目が悪いと指摘するのではなかなかうまくいかないのです。
 
 評価の基本は、その人その人の長所を見つけ出すことであり、個別的な評価にならざるを得ないものです。極めてシンプルに、その人はどのような仕事をさせると生き生きと働くのかが役割分担するときの決め手になります。人は適所にあってこそ適材に成長するのです。軍隊にあっても広瀬武夫のような人物がいたことが、明治時代の「勝つ組織」の特徴ではないかと思います。
 

6. 評価指標は自分でつくる

 
 評価は、人物の評価にせよプロジェクトの評価にせよ、独自の指標によるものでなければならないのです。独自の指標をつくるには、組織の役割やミッションに合わせてつくり上げていくしかないでしょう。実は、役割やミッションが組織の大きな「資産」なのです。このことの認識ができるかどうかにかかっています。そして、組織を構成する豊かな人材は目に見えない資産です。見えないものが値打ちのある資産であることを認識しておかなければならないでしょう。現預金がいくらある、建物をいくつ持っているということ以上に価値のあるものです、との認識ができるかどうかです。
 
 組織とは、何らかのバリューを生み出す仕組みや仕掛けです。そう考えると自分なりの何らかの評価指標ができてくるのです。もし、その評価指標がなければ、やれ現預金や不動産がいっぱいあるのがいい会社であるというつまらないことが指標になってしまいます。日本という国の資産はどう考えても、この目に見えない資産をつくりだす仕組みと人材であると言えるのではないでしょうか。
 
 次に、評価指標は自分でつくるのが一番よい、という典型的な事例を示します。海軍大臣の山本権兵衛が、予備役に入る寸前だった東郷平八郎を、「東郷は運のいい男ですから」と言って連合艦隊司令長官に任命したエピソードです。
 
 「運のいい」という変わった言い方が非常に面白い。東郷は国際法に非常にも明るく、いざというときに冷静沈着で果断な決断がすぐにできる男であり、何よりも上の指示に対して忠実で独走しない男であるとの理由もあったようですが、決め手は「運のいい男だ」でした。この点は絶対に人に説明できないが、重要なところです。
 

7. 評価指標は明確に

 
 評価指標は明確であれば他人にはわかりやすい、みんなにわかりやすいでしょう。わかりやすい評価指標があるのはまだその入り口であり、評価指標がないのは論外です。評価指標がころころ変わるのは最悪です。明確なものがよく見えるところから始まるのです。
 
 初級のマネジャーならみんなにわかりやすい評価指標を示さなければいけないでしょう。明確なものがよく見えることはマネジメント...
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『プロジェクトや人の評価方法』の章です。プロジェクト活動の成果を、どういう観点から評価するか。プロジェクトの成功や失敗とは、何を基準にするか。組織の中で敗者をつくらないために、どのように人の評価をするか。この章で解説しています。
 
 人的資源マネジメント
 

5. 人の評価は個別的に

 
 秋山真之と同じく海軍兵学校を卒業し、彼のよきライバルと言われていた広瀬武夫という人物がいました。広瀬武夫は、ゼネラルマネジャーとしては、部下がかわいくて仕方がないという人だったようです。部下の長所ばかり見ているから、かわいくて仕方がないということだったのでしょう。部下にはいろいろなタイプがいたはずだが、彼が艦長を務めた鑑はどんどん士気が上がって成績が上がったから、短所を見つけようとしていないのです。
 
 『坂の上の雲』の中には、「長所を見た」とは書いていないのですが、部下がかわいくて仕方がないという傾向は長所ばかり見ていることを想像させるのです。ロシア艦隊のロジェストウェンスキー提督や陸軍大臣の寺内正毅とは対照的です。ロジェストウェンスキーは何かというと、部下を怒鳴ったり双眼鏡で殴りつけたりしました。
 
 寺内正毅は創造的というよりも整理的な人物で、整理整頓ができていないともう気に入らず士官学校の生徒隊長をやっていたときは生徒がきちんとしているかどうか遠くから双眼鏡で監視していたというエピソードが『坂の上の雲』に書いてあります。
 
 ところが、広瀬武夫という人物は、規律よりもみんながどうやったら伸び伸びとやれるかを考えたので、結果的に成績も大いに上がったと書かれています。したがって、評価はその人その人ごとに個別的に行うべきもので、全員を対象として同一項目で評価するチェックリストで、おまえはチェックリストに書かれているこの項目が悪いと指摘するのではなかなかうまくいかないのです。
 
 評価の基本は、その人その人の長所を見つけ出すことであり、個別的な評価にならざるを得ないものです。極めてシンプルに、その人はどのような仕事をさせると生き生きと働くのかが役割分担するときの決め手になります。人は適所にあってこそ適材に成長するのです。軍隊にあっても広瀬武夫のような人物がいたことが、明治時代の「勝つ組織」の特徴ではないかと思います。
 

6. 評価指標は自分でつくる

 
 評価は、人物の評価にせよプロジェクトの評価にせよ、独自の指標によるものでなければならないのです。独自の指標をつくるには、組織の役割やミッションに合わせてつくり上げていくしかないでしょう。実は、役割やミッションが組織の大きな「資産」なのです。このことの認識ができるかどうかにかかっています。そして、組織を構成する豊かな人材は目に見えない資産です。見えないものが値打ちのある資産であることを認識しておかなければならないでしょう。現預金がいくらある、建物をいくつ持っているということ以上に価値のあるものです、との認識ができるかどうかです。
 
 組織とは、何らかのバリューを生み出す仕組みや仕掛けです。そう考えると自分なりの何らかの評価指標ができてくるのです。もし、その評価指標がなければ、やれ現預金や不動産がいっぱいあるのがいい会社であるというつまらないことが指標になってしまいます。日本という国の資産はどう考えても、この目に見えない資産をつくりだす仕組みと人材であると言えるのではないでしょうか。
 
 次に、評価指標は自分でつくるのが一番よい、という典型的な事例を示します。海軍大臣の山本権兵衛が、予備役に入る寸前だった東郷平八郎を、「東郷は運のいい男ですから」と言って連合艦隊司令長官に任命したエピソードです。
 
 「運のいい」という変わった言い方が非常に面白い。東郷は国際法に非常にも明るく、いざというときに冷静沈着で果断な決断がすぐにできる男であり、何よりも上の指示に対して忠実で独走しない男であるとの理由もあったようですが、決め手は「運のいい男だ」でした。この点は絶対に人に説明できないが、重要なところです。
 

7. 評価指標は明確に

 
 評価指標は明確であれば他人にはわかりやすい、みんなにわかりやすいでしょう。わかりやすい評価指標があるのはまだその入り口であり、評価指標がないのは論外です。評価指標がころころ変わるのは最悪です。明確なものがよく見えるところから始まるのです。
 
 初級のマネジャーならみんなにわかりやすい評価指標を示さなければいけないでしょう。明確なものがよく見えることはマネジメントの基本であるから、ここはしっかりと心得ておかなければならないでしょう。これには望んでいることの最終の姿を描いていなければ評価指標はつくれないのです。人は、何が求められているか明確であれば、それに向かって行動するからです。
 
 また、経営のレベルになると評価指標は自分でつくるしかないのです。しかし、吉と出るか、凶と出るかは結果で判断せざるを得ないでしょう。『坂の上の雲』を読むと、その評価指標そのものが適切だったのかは、結果で評価せざるを得ないのです。「東郷は運のいい男ですから」という理由で選んだ結果が良かったというのは、山本権兵衛はいい評価指標を持っていたことになるわけです。
 
 次回も、プロジェクトや人の評価方法の章を続けます。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

津曲 公二

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