書評検索結果

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「シンギュラリティは近い」レイ・カーツワイル著

投稿日 2016/11/01

本書は、技術者、発明家であり人工知能の世界的権威である著者による、一種の未来予言書といえます。

ムーアが予言した半導体の集積度が2年で2倍になるという法則は、いずれどこかで停滞すると言われながら、その都度技術的なブレークスルーを生み出して継続しています。

これに限らず、人類がこれまで生み出したテクノロジーの進化は、本質的に加速度がついて発達してきたと著者は分析します。

この法則が継続すると、2020年には人脳の能力を超えるハードが1000ドルで手に入るようになり、2030年には人脳の機能を模写するソフトが現れ、2050年には1000ドルのPCの処理能力が全人類のそれを超えることになります。

単なる予言ではなく、全ての分析に根拠となる事実と数値的計算が付いているため、反論は「そんなはずはない」といった極めて主観的で空虚なものにならざるを得ません。

原著は2005年に出版されて、ごく一部で注目を集めていましたが、ご存知のように、まさにその後10年で加速度的にAIが発展しあたかも予言が的中していく中で次第にその認知度を上げています。

ITだけでなくバイオなどあらゆる技術進化が加速度を持つため、シンギュラリティ(特異点)を超えた世界を描写する本書の後半はSFを超えた予言に満ち溢れるため、信じるか信じないかは個人の判断に委ねられますが、わずか十数年後にこうなる「かもしれない」と身構えつつ日々の活動を考えることは、無駄ではないように思います。

目前の堕落した現実から遠いどこかに逃避してしまいたいあなたはもちろんのこと、全技術者に絶賛おススメの一冊です。

「価値づくり経営の論理」延岡健太郎著

投稿日 2016/10/18

本書は、MOT界の第一人者である著者による、日本製造業の課題分析書であり、躍進のための指南書です。
「ものづくりからことづくり」と言わて久しくなります。
延岡氏はそれを「価値づくり」と呼び変えることで単なるスローガンから具体的行動指針になると主張します。
顧客にとっての価値は、機能的価値と意味的価値の合計で前者が日本製造業が得意とするものづくりに相当しますが、新興国の技術力向上やデジタル革命、情報伝達が容易になったことなどで、差別化が難しくなってきました。
そこで後者の意味的価値を生み出すために消費財では自己表現価値とこだわり価値、産業財においては潜在的な課題解決に焦点をあてて、製品企画することを提案しています。
忘れてならないのは、模倣されにくい積み重ね技術を持っている日本製造企業だからこそ実現できる価値があり、それが市場から強く求められているという点です。
中堅企業で新事業、新製品の企画、開発を担当して、お悩み中のあなたに絶賛おススメの一冊です。

「タグチメソッド入門」田口伸著

投稿日 2016/10/04

本書は、タグチメソッドをほぼ独力で築いた故田口玄一氏の実子である筆者による初めての単著です。

何度か繰り返していますが、タグチメソッドは設計者に留まらずあらゆる産業人にとって極めて強力なツールですが、その革新性があだとなって、理解に多大な時間と労力を要求されます。何とかその障壁を下げることが、産業界における大きな課題なのです。

先日本書出版を記念した著者の講演会に参加しましたが、聴講している一般の人たちに分かりやすく話そうと工夫している様子が印象に残りました。
自分が考えたこと、思うことをそのまま表現していた父親の話しぶりとは好対照です。

本書の中にもその工夫の跡は明らかです。エキスパートにとって、さほど目新しい項目はないかもしれませんが、初学者が多くの実例に触れながらタグチメソッドに慣れるには、ちょうど良いように思われます。

父田口玄一の著書に打ち砕かれて、リベンジを誓う初学者の参考書としておススメです。

「開発・設計におけるQの確保」 品質管理学会中部支部産学連携研究会編

投稿日 2016/09/22

 本書は、トヨタ自動車技監の渡邉浩之氏が産側、早稲田大学の永田靖教授が学側のリーダーとなって、2006年に立ち上げた産学連携研究会の、2010年におけるアウトプットです。

 新製品開発における技術の高度化/複雑化、開発期間の短縮、長期信頼性、低コスト要求など、矛盾する環境の中で「Q(品質)を確保」するために、業務の仕組みやプロセスと考え方を産学共同で検討した経過と結果が示されています。

 13人の共同執筆ですが、うち12人がトヨタ自動車の現役社員であり、担当ページ数で言えば半分以上ですから、本書の内容はトヨタの開発設計プロセスと強くリンクしていると言えるでしょう。

 ツールで言えばSQC(統計的品質管理)と品質工学、デザインレビューが取り上げられ、その中でも品質工学は90ページに渡り中心的に扱われています。

 最終章の図10.2は「全体マップ」なのですが、ここまでやれば「Qの確保」ができるだろうと思われる精緻さで、さすがトヨタと唸らざるを得ません。
 並みの技術者がこれを見ると、頭がクラクラして絶望感に陥ると思いますので、見なかった事にした方が良いでしょう。

 日本最大企業の開発・設計プロセスをのぞいてみたい人におススメです。