海外工場支援者のための「物流指導7つ道具」(その8)
2016-06-16
前回のその7に続いて解説します。
... 海外で工場を建設する際には、これから経費として日々発生する物流費が極力少なくなるように物流設計をする必要があります。図1のように、この評価シートは工場の物流設計を行う際に活用すべき評価シートという位置づけになります。物流設計のポイントは「物流を発生させない」「物流が発生してもそれが極小化されている」の2点と考えられます。そこで次のような評価項目を入れることが必要になります。2つほど例を挙げます。
図1.物流設計評価項目(例)
この項目では工程間を運搬しなければならない部品をゼロにするために設定するものです。工程間は直結することで運搬を無くすことができ、一方、工程間運搬があることが前提の場合、物流費が延々と発生し続けるので注意が必要です。
工程間運搬が発生してしまう場合でも、それが極小化されていれば物流費は小さくて済むでしょう。そこでフォークリフトや連結牽引台車による「大きな運搬」ではなく、手押し台車で運搬できる程度の「小さな運搬」にとどめたいものです。距離のイメージは10m以内と考えましょう。
工場が無事立ち上がりオペレーションがスタートした後は、図2の例のように、日々発生する物流業務を評価できる項目を設定してチェックしてきます。ここでも2つほど例を挙げます。
図2.日々の物流業務評価項目(例)
構内物流の重要機能に「供給作業」があります。供給作業のポイントは生産ライン作業者に部品だけをタイムリーに渡すことです。つまり輸送や運搬のために容器に入れられている部品は物流側で容器から取り出し、使う順番でラインサイドに並べて供給することが求められます。これが実現できている部品比率がどれくらいかを示すための指標を設定し、この比率を高めることで生産ライン作業者の効率と品質向上に寄与していきます。
構内物流は工程で使う部品と完成品を入れる容器、そして生産指示情報を生産ラインに届けることで工場の生産統制を行うことが可能です。部品も容器も生産計画に見合った必要数だけをタイムリーに生産ラインに届けることがどこまでできているかを把握します。そしてこの比率を高めていくことで、つくりすぎのムダを排除し、工場の秩序ある生産に寄与することを目指していきましょう。
海外では構内物流や輸送業務をアウトソースすることが一般的だと考えられます。物流会社がしっかりと物流をマネジメントできない場合には工場の生産にも悪影響を及ぼす可能性があります。そこで、図3の例のように物流会社を評価し、是正すべき点は指導していくことが海外支援者のタスクです。物流会社評価についても2つほど例を挙げます。
図3.物流会社評価項目(例)
輸送会社にトラック輸送を委託する場合、そのトラックが指定された時刻通りに運行することが重要になります。この時刻が守られない場合、得意先に迷惑をかけることも想定されるため支援者は、現地スタッフにトラック定時発車・定時到着を評価させるよう指導して下さい。
物流業務委託は物流のプロである物流会社にその会社が持つノウハウを提供してもらうという側面があります。つまり単なる業務委託にとどまらず、物流改善につながる提案を物流会社に求めていることになるのです。業務委託費にはこのような提案も含まれているということになるため、常にプロの視点からの改善提案をしてもらい物流効率化に貢献して欲しいところです。そこで物流会社が契約時に約束した改善提案を実施してくれているか否かについてチェックして下さい。
物流評価シートを作成することの成果として各スタッフが物流のポイントを認識する機会になるとともに、改善の糸口も見えてくるようになります。この評価シートはぜひ海外に行かれる前に作成し、工場設計の段階でより良い物流の構築に役立てて下さい。また日常の運用については定期的に評価することで改善点をあぶり出し、よりレベルの高い物流につなげて下さい。
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。