デザインによる知的資産経営:知的資産の活用事例と進め方(その4)

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4.「当たり前」のことを集める

  前回のその3に続いて解説します。 (1)集めることが出発点からの続きです。
 

(2)具体的な情報を集める

 
 集めるべき「当たり前のこと」は、具体的な情報でなければなりません。以前、筆者がお手伝いした商品開発の研修で、その参加企業に自社の知的資産を提示してもらいましたが、そのほとんどが具体性に欠けるものでした。例えば、「商品ジャンルごとに専任者がいるので、案件により適した商品を提供できる」とか「技術を継承している技師が、常に一定品質の商品をお客さまに提供できる」といった記述でした。このような情報を集めても、情報をつなげることはできません。具体性がなければ新しい製品・商品を開発するための「資産」としては機能しないのです。
 
 専任者や技師の存在が資産だというのではなく、彼らがどのような情報を持っている、どのような技能を持っていると具体的に列挙しなければ、開発のために価値を持つ資産とはいえません。知的資産を把握するためには、全従業員から情報を集めなければならないのです。そうしなければ、なかなか新商品の開発につなげることはできないだろうと思います。もちろん、「初めから全従業員を対象として情報を集めるべし」ということではありません。初めは管理職レベルでスタートしてもいいでしょう。
 
 しかし、最終的には全従業員から情報を集めなければなりません。なぜなら、従業員の中に特定の趣味を持っている人がいて、その趣味に関する情報が商品開発に寄与するかもしれないからです。従業員から集まった知的資産を整理する際、図3のような分類が参考になると思います。
 
                知的資産
                     図3.知的資産の分類
 
【人的資産】
 
 「人的資産」は個々の従業員が保有する資産です。その従業員が退職すれば企業はその資産を失ってしまいます。したがって、このような資産については「誰が」その情報を保有しているのかを特定しなければなりません。そして、その資産を継承する必要があるとするならば、「継承する仕組み」も資産となります。
 
 人的資産は、技術的な部門に限られないことに注意してください。例えば、ある従業員Aが協力会社の社長Bと極めて良好な関係を築いているというような事情も人的資産となります。AやBが退職すれば、その関係はなくなってしまうのです。
 
【構造資産】
 
 「構造資産」は、企業として保有している資産です。図3には難しい言葉が並んでいますが、自社商品が、誰に、どのように使われていて、どのような問題点が指摘されているか、というような情報もここに含まれます。図3に示されている経営理念や企業文化は、経営層が明確に分かりやすく発信すべきものだと思います。また、営業部門が持つ顧客からのクレーム情報も重要な知的資産です。
 
【関係資産】
 
 「関係資産」は、企業の対外関係に付随したすべての資産と説明されています。しかし、対外関係が個人の活動により築かれ、その人でなければ成立しないものであれば、「人的資産」になることに注意してください。
 
 また、「顧客関係」や「顧客満足度」は、しばしば自己中心的な評価になりがちです。顧客からの評価によって裏づけられていなければ資産ではありません。図3にはありませんが、企業の事業とは無関係であったとしても、従業員が保有する知見(例えば、趣味の情報)も収集の対象となります。個人情報との関係がありますので、個人が特定されない形で、可及的に広範な情報を集めることが重要です。
 
 小説『ローカル線で行こう』(真保裕一著、2013年、講談社)では、赤字鉄道会社の新任社長が、大々的な発表会をしようと提案しますが、社員が大きな会場を借りる費用がないと渋ります。社長は、手持ちの財産である「車両(列車)」を発表会の会場にしてしまいます。このような発想力も、もちろん大きな知的資産です。
 

(3)情報(知的資産)の可視化

 
 集めた情報は、従業員全員が利用できるようにしなければいけません。中小企業においては、営業担当者自身がアイデアを出して、顧客に対して商品案を提案する場面も多いと思います。したがって、集めた情報は従業員がいつでも利用できるように、データベース化しておくことが必要でしょう。
 
 他方、これは企業秘密として扱う必要のある情報です。個々の情報...

4.「当たり前」のことを集める

  前回のその3に続いて解説します。 (1)集めることが出発点からの続きです。
 

(2)具体的な情報を集める

 
 集めるべき「当たり前のこと」は、具体的な情報でなければなりません。以前、筆者がお手伝いした商品開発の研修で、その参加企業に自社の知的資産を提示してもらいましたが、そのほとんどが具体性に欠けるものでした。例えば、「商品ジャンルごとに専任者がいるので、案件により適した商品を提供できる」とか「技術を継承している技師が、常に一定品質の商品をお客さまに提供できる」といった記述でした。このような情報を集めても、情報をつなげることはできません。具体性がなければ新しい製品・商品を開発するための「資産」としては機能しないのです。
 
 専任者や技師の存在が資産だというのではなく、彼らがどのような情報を持っている、どのような技能を持っていると具体的に列挙しなければ、開発のために価値を持つ資産とはいえません。知的資産を把握するためには、全従業員から情報を集めなければならないのです。そうしなければ、なかなか新商品の開発につなげることはできないだろうと思います。もちろん、「初めから全従業員を対象として情報を集めるべし」ということではありません。初めは管理職レベルでスタートしてもいいでしょう。
 
 しかし、最終的には全従業員から情報を集めなければなりません。なぜなら、従業員の中に特定の趣味を持っている人がいて、その趣味に関する情報が商品開発に寄与するかもしれないからです。従業員から集まった知的資産を整理する際、図3のような分類が参考になると思います。
 
                知的資産
                     図3.知的資産の分類
 
【人的資産】
 
 「人的資産」は個々の従業員が保有する資産です。その従業員が退職すれば企業はその資産を失ってしまいます。したがって、このような資産については「誰が」その情報を保有しているのかを特定しなければなりません。そして、その資産を継承する必要があるとするならば、「継承する仕組み」も資産となります。
 
 人的資産は、技術的な部門に限られないことに注意してください。例えば、ある従業員Aが協力会社の社長Bと極めて良好な関係を築いているというような事情も人的資産となります。AやBが退職すれば、その関係はなくなってしまうのです。
 
【構造資産】
 
 「構造資産」は、企業として保有している資産です。図3には難しい言葉が並んでいますが、自社商品が、誰に、どのように使われていて、どのような問題点が指摘されているか、というような情報もここに含まれます。図3に示されている経営理念や企業文化は、経営層が明確に分かりやすく発信すべきものだと思います。また、営業部門が持つ顧客からのクレーム情報も重要な知的資産です。
 
【関係資産】
 
 「関係資産」は、企業の対外関係に付随したすべての資産と説明されています。しかし、対外関係が個人の活動により築かれ、その人でなければ成立しないものであれば、「人的資産」になることに注意してください。
 
 また、「顧客関係」や「顧客満足度」は、しばしば自己中心的な評価になりがちです。顧客からの評価によって裏づけられていなければ資産ではありません。図3にはありませんが、企業の事業とは無関係であったとしても、従業員が保有する知見(例えば、趣味の情報)も収集の対象となります。個人情報との関係がありますので、個人が特定されない形で、可及的に広範な情報を集めることが重要です。
 
 小説『ローカル線で行こう』(真保裕一著、2013年、講談社)では、赤字鉄道会社の新任社長が、大々的な発表会をしようと提案しますが、社員が大きな会場を借りる費用がないと渋ります。社長は、手持ちの財産である「車両(列車)」を発表会の会場にしてしまいます。このような発想力も、もちろん大きな知的資産です。
 

(3)情報(知的資産)の可視化

 
 集めた情報は、従業員全員が利用できるようにしなければいけません。中小企業においては、営業担当者自身がアイデアを出して、顧客に対して商品案を提案する場面も多いと思います。したがって、集めた情報は従業員がいつでも利用できるように、データベース化しておくことが必要でしょう。
 
 他方、これは企業秘密として扱う必要のある情報です。個々の情報自体は「公知」であるとしても、多数の情報の集合としては公知とはいえないので、不正競争防止法における「営業秘密」に該当すると思われます。「秘密」として管理する必要があります。
 
 そのためには、データベース名を特定した守秘義務契約を全従業員と締結し、アクセスのためにパスワードを付与する程度の管理は必須と考えます。なお、個別の情報としても営業秘密に当たるものもあると思いますので、情報ごとにランクづけした管理が望まれます。
 
 今回で、知的資産の活用事例と進め方の解説を終了します。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。


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