デザインによる知的資産経営:「知的資産」の保護(その4)

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 今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的に解説します。
 

4.契約

 
 営業秘密は不正競争防止法で保護されることになっていますが、個別の契約も重要です。これが存在するということは、不正競争止法による保護を受けやすくするだけでなく、契約当事者が「秘密」を意識することになります。なお、「契約」は当事者の合意によって成立するものなので、詳細な契約書は不要です。詳細な契約書があるに越したことはありませんが、さまざまな場面に応じて簡易な方法で「当事者の合意」が明確になる方法で対処することが必要です。以下、「営業秘密」に関しての契約が必要な場面について解説します。
 

(1)普通の社員

 
 本稿では、社員の趣味に関する情報も経営資産になり得ると話してきましたが、だからといって、これらも「秘密」とすることは妥当でないでしょう。社員が職務以外で知得した情報は、集積されて初めて「秘密情報」になるのだと思います。他方、営業担当の社員が得た取引先の情報は「秘密」とする必要があると思います。
 
 多くの企業では、就業規則などで業務上知った情報についての守秘義務が定められています。しかし、就業規則を熟読することは期待できず、多くの社員は「秘密は自分には関係ない」と思っているのではないでしょうか。そのため、まずは「秘密」が意外と身近なものであることを社員に自覚してもらう必要があります。技術職においても、開発の成果は秘密(特許出願のために)と理解していても、開発のテーマや中間の成果を秘密と認識していない場合もあるように思います。そこで、「職務上知った情報は社外秘である」ことを記した以下のような書面を作り、全社員(パートやアルバイト、派遣を含む)の捺印を求めてみてはいかがでしょうか。
 
         知的資産
 
 また、営業情報を「見える化する必要がある」という場合、「営業情報はデータベースに記録せよ」というメッセージを追記すべきでしょう。ここで留意すべきは、「秘密」に拘泥して社内での情報流通が疎外されることです。そのような弊害が生じないように配慮する必要があります。
 

(2)社内のプロジェクトメンバー

 
 社内で新商品や新事業開発のためにプロジェクトチームが編成される場合、そのメンバーは種々の情報を収集し、自己またはプロジェクトで分析してアイデア出しをすることになります。プロジェクトの最終結果だけでなく、中間で生じる情報は、すべて企業にとっての経営資産です。もし、そのプロジェクトの結果が事業に反映されなかったとしても、次の展開で利用可能な資産となります。したがって、プロジェクトの場で各メンバーから提起される情報はすべて秘密にすべき資産になるはずです。そして、その情報は秘密性が高く、プロジェクトメンバー以外には秘密とする必要があるものが多いと思います。最低限、以下のような書面を用意する必要があります。
 
        知的資産
 

(3)社外の人たち

 
新商品・新事業の開発プロジェクトにおいては、社外のデザイナー、プランナー等が参加する場合が多々あります。彼らは、自己の持つ知見に企業が提供する情報を加味して新たな提案を行います。ここで問題になることは、どこまでが「自己の持つ知見」であり、どこからが「企業が提供した情報」なのかという区別が難しいことです。しかし、仮に区別が難しい情報だったとしても、企業が「営業秘密」として管理している情報も提供するのですから、その扱いには制約を付けなければなりません。デザイナーやプランナーは、弁理士や弁護士と異なり、法律で守秘義務が課されていないことに留意してください。彼らに情報を提供する際には、「秘密情報」を特定する必要があるのです。また、彼らからの提案は他の企業では使われたくないはずですから、最低限、以下のような書面を用意する必要があります。
 
         知的資産   
 

(4)開発の検証

 
 開発の検証は、① 開発途上と、② ほぼ開発が終わった段階で行われます。①の多くは「想定需要者」を集めたなかで「守秘義務」を課して行われるので、秘密管理上はあまり問題にならないと思います。次に②の段階を迎えると、売れるかどうかが大きなテーマになってきます。そして、...
 今回は、特許権等の「産業財産権」としては保護されない「知的資産」をどのように守ったらいいのかについて、不正競争防止法による保護を中心として、連載で具体的に解説します。
 

4.契約

 
 営業秘密は不正競争防止法で保護されることになっていますが、個別の契約も重要です。これが存在するということは、不正競争止法による保護を受けやすくするだけでなく、契約当事者が「秘密」を意識することになります。なお、「契約」は当事者の合意によって成立するものなので、詳細な契約書は不要です。詳細な契約書があるに越したことはありませんが、さまざまな場面に応じて簡易な方法で「当事者の合意」が明確になる方法で対処することが必要です。以下、「営業秘密」に関しての契約が必要な場面について解説します。
 

(1)普通の社員

 
 本稿では、社員の趣味に関する情報も経営資産になり得ると話してきましたが、だからといって、これらも「秘密」とすることは妥当でないでしょう。社員が職務以外で知得した情報は、集積されて初めて「秘密情報」になるのだと思います。他方、営業担当の社員が得た取引先の情報は「秘密」とする必要があると思います。
 
 多くの企業では、就業規則などで業務上知った情報についての守秘義務が定められています。しかし、就業規則を熟読することは期待できず、多くの社員は「秘密は自分には関係ない」と思っているのではないでしょうか。そのため、まずは「秘密」が意外と身近なものであることを社員に自覚してもらう必要があります。技術職においても、開発の成果は秘密(特許出願のために)と理解していても、開発のテーマや中間の成果を秘密と認識していない場合もあるように思います。そこで、「職務上知った情報は社外秘である」ことを記した以下のような書面を作り、全社員(パートやアルバイト、派遣を含む)の捺印を求めてみてはいかがでしょうか。
 
         知的資産
 
 また、営業情報を「見える化する必要がある」という場合、「営業情報はデータベースに記録せよ」というメッセージを追記すべきでしょう。ここで留意すべきは、「秘密」に拘泥して社内での情報流通が疎外されることです。そのような弊害が生じないように配慮する必要があります。
 

(2)社内のプロジェクトメンバー

 
 社内で新商品や新事業開発のためにプロジェクトチームが編成される場合、そのメンバーは種々の情報を収集し、自己またはプロジェクトで分析してアイデア出しをすることになります。プロジェクトの最終結果だけでなく、中間で生じる情報は、すべて企業にとっての経営資産です。もし、そのプロジェクトの結果が事業に反映されなかったとしても、次の展開で利用可能な資産となります。したがって、プロジェクトの場で各メンバーから提起される情報はすべて秘密にすべき資産になるはずです。そして、その情報は秘密性が高く、プロジェクトメンバー以外には秘密とする必要があるものが多いと思います。最低限、以下のような書面を用意する必要があります。
 
        知的資産
 

(3)社外の人たち

 
新商品・新事業の開発プロジェクトにおいては、社外のデザイナー、プランナー等が参加する場合が多々あります。彼らは、自己の持つ知見に企業が提供する情報を加味して新たな提案を行います。ここで問題になることは、どこまでが「自己の持つ知見」であり、どこからが「企業が提供した情報」なのかという区別が難しいことです。しかし、仮に区別が難しい情報だったとしても、企業が「営業秘密」として管理している情報も提供するのですから、その扱いには制約を付けなければなりません。デザイナーやプランナーは、弁理士や弁護士と異なり、法律で守秘義務が課されていないことに留意してください。彼らに情報を提供する際には、「秘密情報」を特定する必要があるのです。また、彼らからの提案は他の企業では使われたくないはずですから、最低限、以下のような書面を用意する必要があります。
 
         知的資産   
 

(4)開発の検証

 
 開発の検証は、① 開発途上と、② ほぼ開発が終わった段階で行われます。①の多くは「想定需要者」を集めたなかで「守秘義務」を課して行われるので、秘密管理上はあまり問題にならないと思います。次に②の段階を迎えると、売れるかどうかが大きなテーマになってきます。そして、主に営業担当がターゲットとなりそうな企業へ売り込みを兼ねた営業をする――これが問題になります。
 
 営業担当者としては、新商品の市場性を確認するための行為であるとしても、新商品を具体的に提示しています。すなわち、ほっておいたら「秘密」ではなくなるのです。この場合、営業担当者に「相手と守秘義務契約を結べ」と命令しても、それは無理でしょう。「ウチでは新商品を考えている。どう思うか、扱ってくれるか?」といった「営業」をしているとき、「契約してくれ」と言うと相手にされない。でも、「秘密」にはしておきたい。こういうときは、「契約」なんてウルサイことを言わずに、「この提案、見たよね!」を証拠にしましょう。提案書に、「いつ見た」+「秘密にします」+署名をしてもらう。これで立派な証拠になるのです。
 
 

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この記事の著者

峯 唯夫

「知的財産の町医者」として、あらゆるジャンルの相談に応じ、必要により特定分野の専門家を紹介します。

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