私が専門とするクリーン化を簡単に言うと、生産現場のゴミを如何に減らして、歩留まり、品質を向上させるかと言うことです。 この中で、清掃は非常に重要ですので、事例を含め何回かに分けてお話します。 今回は具体的なノウハウを紹介する前段階として、私達の回りにある一般的な清掃に関係したことを拾い集め紹介します。
1.お掃除とは
いろいろなところへ行きますと、「クリーン化って、お掃除の事ですよね」と良く言われます。それくらいならまだ良いのですが、「たかが掃除じゃないですか」などと言われることもあります。 たかが掃除・・・と言われると、ちょっとがっかりするのですが、実際に現場を見ると、「たかが」と言う清掃はこのことか?と変に納得してしまうことがあります。 清掃は軽視しがちですが、一言で表現できない深み、重みがあります。非常に重要なのです。
ものづくりの会社に勤務すると、ものを作ることだけが仕事だと思ってしまうかも知れません。つまり、仕事と清掃とは別な物、清掃は余計な事と考えている方もいるようです。 従って、こういう発言も出てしまうのですが、私にとっての清掃は仕事と同じくらい大切、というより仕事の一部だと考えています。 徹底してやると、心のようなものを感じることがあります。 ものづくりには、心を込めて作り込むと言う言葉がありますが、清掃も心を込めることが大切だと感じています。これは、理論、理屈だけではわからない事です。
現場を良く観察すると、日頃から清掃しているか、いないのか、今日の現場診断のために慌てて清掃したのかと言うことがわかってしまうものです。
2.日本人の清潔感
私の住む山梨県では、富士山クリーン作戦などと称し、夏の開山前などに大規模なゴミ拾いがされています。日本は、他国に比べ綺麗だと言われますが、それでも何十トンという大量のゴミが回収されます。 また、海開きの前には、海水浴場の清掃も日本各地で行われますね。
私が過去に赴任していた山形県酒田市の工場でも、海水浴場のクリーン活動に参加していました。単に海岸を綺麗にするだけでなく、特に東北の日本海側では、海流に乗って来たハングル文字の書かれた容器も回収されていました。これは強い酸やアルカリなどの毒物、劇物が入っている場合があるので、清掃して綺麗さを求めるだけでなく、安全を確保する目的もあります。
新潟県のある会社に呼ばれた時は、朝6:30に来て欲しいと言われました。 実際に行って見ると、工場に近づくにつれ何か雰囲気が違います。 もう社員が出社し、工場の敷地だけでなく、一般の道路までも清掃していたのです。 説明を聞くと、曜日によっては地域住民も清掃に参加しているとのことで、工場診断前にさわやかな気持ちになりました。 この会社は、夏は海水浴場の清掃、更に近くにあるお城の公園一帯の清掃も定期的にやっていると言うことでした。 もちろん見返りなどと言うことは考えていません。自分たちの心が満たされる喜びで行動しているのです。実際に工場に入っても、表面的な清掃だけでなく、そんな日頃の活動が生かされていると感じました。
3.古来からの習慣、文化
古くから日本の商店では、朝、商売を始める前に店の中を掃いたり、埃が立たないように水を打ったり、そしてお店の外の公共の歩道さえも掃除をすると言う慣習がありました。水を撒くにも、きめ細やかな動作、方法がありますね。ただ撒けばよいのではなく、ほど良い撒き方があり、これらは外国の方から見ると、異常な行動に見えるようです。
商売のマニュアルに書いてある訳ではないのですが、清掃の中に入り込んだ気づかい、心づかいも含め、古くから教わり、伝えられてきた日本の良さでしょう。 お客様が来るか来ないかわからないけれども、来店したお客様を気持ち良くお迎えする、今で言う“おもてなしの心”をも感じます。
余談ですが、昭和39年の東京オリンピックが決まった時に、こんな話があります。 外国のお客様が沢山日本に来る。和式のトイレでは失礼ではないのか、恥ずかしくないのかと一般市民、国民も気にしたようです。これをきっかけに、急速に洋式トイレが浸透しました。 オリンピックを機にこのようなことが沢山積み重ねられ、自然に国際社会に近づき、あるいは仲間入りしたの...
私は若い頃、時計の技師として札幌に赴任していたことがありました。その時は道内の小売店を訪問する機会が多々ありました。技術屋であり、営業の経験がありませんでしたので、営業マンから細かな指導をしてもらいました。 例えば、冬の訪問時、雪が着いた靴も、店頭でトントンして雪を落とさない。どんなに寒くても、手袋やマフラー、コートも店の外で脱ぎなさい。お店では、お客様をお迎えするために綺麗に清掃されている。それを、メーカーの人間が汚すようなことがあってはいけない。メーカーの人間も、お店の人と一緒にお客様をお迎えする気持ちが大切だと言う指導でした。 ここで言う清掃は、心からもてなすと言う意味になります。
また、家庭でも、悪い清掃の仕方を「四角い部屋を丸く掃き」等と言って隅から隅まできちんと掃除することを促した言葉もあります。 置いてあるものも動かして、手抜きせずきちんと掃除しましょう。