顧客フィードバックの重みとは 顧客の声から顧客の価値へ(その3)

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【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占

 ミニクーパー(Mini Cooper: BMW社)事業部の上級管理職がインタビューされている記事をどこかの雑誌で読んだことがあります。その記事によると、ミニクーパーに対して顧客から寄せられる最も多い苦情は「トランクルームが小さ過ぎる!」というものだそうです。写真の中で彼は笑っていましたが、記事の中では顧客フィードバックの扱い方の難しさを語っていました。前回は、「お客様の声」を翻訳して顧客フィードバック情報データベースを作り、さらにパレート図を使って顧客フィードバックの頻度に従って優先順位を決定するということを記しました。しかし、単に顧客フィードバックの頻度だけで優先順位を決定しても良いのでしょうか。もしミニクーパーが顧客フィードバックの頻度だけで車の改善を行ったとしたら、ミニクーパーが大型SUVに変わってしまいます。

1. 顧客フィードバックの重み(重要度)

 顧客フィードバックの頻度は、同じ項目の数を単純に足し算することで求められます。どの項目も一つエントリがあれば1が加算されます。つまりどの項目も同じ重み、同じ重要度です。
しかし実際の顧客フィードバックは全て等しく重要という訳ではありません。重要な顧客フィードバックもあれば、それほど重要ではない顧客フィードバックもあります。例えばミニクーパーのトランクルームの大きさに関する苦情は、信頼性や耐久性に関する苦情に比べれば、それほど重要ではないでしょう。

 そこで顧客フィードバックの重要性に違いを持たせるために、区分や分類に対して「重み付け」をしていきます。企業戦略や製品コンセプト、ターゲット市場に応じて、顧客フィードバックの各区分や各分類に異なる「重み係数」を与えます。

 下の例は、デザインや性能に重点を置き、専門的な知識を使って製品を売っているため、それらに関する顧客フィードバックには高い「重み係数」を付けている企業の例です。(例えばアップルがアップルコンピュータをアップルストアーで販売するような戦略イメージ)

 単純な頻度ではなく、「重み係数」を使ってパレート図を作れば、「重み係数」に従ってそれぞれの項目の重要度が異なってきます。例えば下の例では、デザインに関する顧客フィードバック(0.06 = 0.3 x 0.2)は、時間通りのサービス(0.02 = 0.1 x 0.2)に比べて、3倍の重要度を持っています。単純な頻度だけのパレート図ではそれほど重要でなかったデザインに関する顧客フィードバックも、「重み係数」を使ったパレート図では最優先課題となる可能性があります。パレート図を使って顧客フィードバックの優先順位を決定する場合は、ぜひ区分や項目への「重み付け」を検討してみて下さい。

事業戦略

重み付け

2. 「重み係数」の決定

 「重み係数」を決定する方法はいくつかあります。ミーティングによる決定方法では、製品やサービスごとに

  企業方針や成長戦略
  製品コンセプトやサービス方針
  ターゲット市場やターゲット顧客

 などを、各部署の専門家を集めた ミーティングで検討し、顧客フィードバック区分や項目に「重み係数」を付けていきます。また顧客購買履歴データベース等が利用可能である場合は、過去の顧客データを基に改善点を洗い出し、改善点の重要度に従って「重み係数」を決定することもできます。それでも「重み係数」の決定が難しい場合は、階層分析法(Analytic Hierarchy Process: AHP)などの意思決定ツールを利用する方法もあります。

事業戦略

重み係数の決定方法

3. FMEAによる優先順位の決定

 パレート図による優先順位の決定は手軽に行うことができますが、さらに正確な意思決定が必要な場合はFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)を使います。FMEAは優先順位を決定するための汎用的なツールなので、顧客フィードバックの優先順位を決定する場合にも使えます。

 通常FMEAでは、「影響の厳しさ」、「頻度」、「検出可能性」という3つの指標を使って危険優先指数(RPN: Risk Priority Number)を計算しますが、顧客フィードバックのRPNを評価する場合は、「影響の厳しさ」と「頻度」だけを使います...

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占

 ミニクーパー(Mini Cooper: BMW社)事業部の上級管理職がインタビューされている記事をどこかの雑誌で読んだことがあります。その記事によると、ミニクーパーに対して顧客から寄せられる最も多い苦情は「トランクルームが小さ過ぎる!」というものだそうです。写真の中で彼は笑っていましたが、記事の中では顧客フィードバックの扱い方の難しさを語っていました。前回は、「お客様の声」を翻訳して顧客フィードバック情報データベースを作り、さらにパレート図を使って顧客フィードバックの頻度に従って優先順位を決定するということを記しました。しかし、単に顧客フィードバックの頻度だけで優先順位を決定しても良いのでしょうか。もしミニクーパーが顧客フィードバックの頻度だけで車の改善を行ったとしたら、ミニクーパーが大型SUVに変わってしまいます。

1. 顧客フィードバックの重み(重要度)

 顧客フィードバックの頻度は、同じ項目の数を単純に足し算することで求められます。どの項目も一つエントリがあれば1が加算されます。つまりどの項目も同じ重み、同じ重要度です。
しかし実際の顧客フィードバックは全て等しく重要という訳ではありません。重要な顧客フィードバックもあれば、それほど重要ではない顧客フィードバックもあります。例えばミニクーパーのトランクルームの大きさに関する苦情は、信頼性や耐久性に関する苦情に比べれば、それほど重要ではないでしょう。

 そこで顧客フィードバックの重要性に違いを持たせるために、区分や分類に対して「重み付け」をしていきます。企業戦略や製品コンセプト、ターゲット市場に応じて、顧客フィードバックの各区分や各分類に異なる「重み係数」を与えます。

 下の例は、デザインや性能に重点を置き、専門的な知識を使って製品を売っているため、それらに関する顧客フィードバックには高い「重み係数」を付けている企業の例です。(例えばアップルがアップルコンピュータをアップルストアーで販売するような戦略イメージ)

 単純な頻度ではなく、「重み係数」を使ってパレート図を作れば、「重み係数」に従ってそれぞれの項目の重要度が異なってきます。例えば下の例では、デザインに関する顧客フィードバック(0.06 = 0.3 x 0.2)は、時間通りのサービス(0.02 = 0.1 x 0.2)に比べて、3倍の重要度を持っています。単純な頻度だけのパレート図ではそれほど重要でなかったデザインに関する顧客フィードバックも、「重み係数」を使ったパレート図では最優先課題となる可能性があります。パレート図を使って顧客フィードバックの優先順位を決定する場合は、ぜひ区分や項目への「重み付け」を検討してみて下さい。

事業戦略

重み付け

2. 「重み係数」の決定

 「重み係数」を決定する方法はいくつかあります。ミーティングによる決定方法では、製品やサービスごとに

  企業方針や成長戦略
  製品コンセプトやサービス方針
  ターゲット市場やターゲット顧客

 などを、各部署の専門家を集めた ミーティングで検討し、顧客フィードバック区分や項目に「重み係数」を付けていきます。また顧客購買履歴データベース等が利用可能である場合は、過去の顧客データを基に改善点を洗い出し、改善点の重要度に従って「重み係数」を決定することもできます。それでも「重み係数」の決定が難しい場合は、階層分析法(Analytic Hierarchy Process: AHP)などの意思決定ツールを利用する方法もあります。

事業戦略

重み係数の決定方法

3. FMEAによる優先順位の決定

 パレート図による優先順位の決定は手軽に行うことができますが、さらに正確な意思決定が必要な場合はFMEA(Failure Mode and Effect Analysis)を使います。FMEAは優先順位を決定するための汎用的なツールなので、顧客フィードバックの優先順位を決定する場合にも使えます。

 通常FMEAでは、「影響の厳しさ」、「頻度」、「検出可能性」という3つの指標を使って危険優先指数(RPN: Risk Priority Number)を計算しますが、顧客フィードバックのRPNを評価する場合は、「影響の厳しさ」と「頻度」だけを使います。

 評価基準(つまり影響の厳しさと頻度)は企業や製品、サービスによって異なります。ただしFMEAの目的はあくまでも相対的な優先順位を決めることなので、絶対的な評価基準や評価は必ずしも重要ではありません。それぞれの顧客フィードバックの優先順位さえ区別できればそれで十分です。

「影響の厳しさ」は、顧客フィードバックが示唆する潜在的な損失を金額または相対的基準(1~10)などで評価します。
「頻度」は、顧客フィードバックの潜在的な発生頻度を割合(%)や相対的基準(1~10)などで評価します。
「影響の厳しさ」や「頻度」の評価は、各部署から集められた専門家によるミーティングによって行います。ミーティング参加者の意見が分かれたときは最も評価(つまりリスク)の高い意見を採用します。

 すべての評価が終わり、顧客フィードバックのRPNが計算できたら、RPNが高いものから順に改善アクションを起こしていきます。

事業戦略

FMEAによる優先順位の決定

◆関連解説:サービスマネジメント

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この記事の著者

津吉 政広

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