◆技術力で勝る海外勢が、なぜ、日本の「おもてなし」に負けるのか。
2. 見えるおもてなし、見えないおもてなし
(1) 利休七則に学ぶ
いよいよ、「おもてなし」ですが、まずは、おもてなしという言葉の持つ意味を捉えてみましょう。「おもてなし」には、神に対する感謝の念、対応、手厚い食事・茶菓の提供、お清めの御神酒、山海の珍味(精一杯探し、捧げる)、心を込めたお世話、目に見えないおもてなし(一期一会のその瞬間に身も心も込めて精一杯行なう)などの意味が込められています。
より具体的に示すと、精一杯の心、身体を精一杯駆使して限られた時間内で探し回る(走り回る)、最大の努力を行なう、熟慮する、思いやりの心、気づき、気くばり、気づかい、臨機応変、機転を利かす、知識、技能、教養、知恵、工夫、技能、努力、手を尽くすなどの意味を内包しているのです。
たとえば、私なりの解釈ですが、利休七則にはおもてなしがあふれています。
①「茶は服のよきように」=服とは飲むこと。飲むのにちょうどよい加減にしてもてなす。
②「炭は湯の沸くように」=ほどよい火加減。炭の火力に配慮してもてなす。
③「夏は涼しく、冬は暖かに」=客人の立場に立って心からお出迎え、おもてなしする。
④「花は野にあるように」=まるで自然の中で花が咲いているように。自然の美。自然体。生命力。一所懸命に生きている姿、歓び。
⑤「刻限は早めに」=常にゆとりを持って、後れをとることはもってのほか。
⑥「降らずとも雨の用意」=常に万全の備えをしておく。
⑦「相客に心せよ」=わざとらしくなく、純粋な心と気配りでもてなす。
おもてなしは、余韻・名残感・暗示も大切にします。たとえば、「風情」「味わい」「印象」「感動」「言葉に尽くせないほどの趣」「反響」「こだま」。また、「ためをつくる」という表現が適当ですが、「陰と陽」「表裏一体」「わざとらしくしない」「ムダの排除」「創造力をかきたてる」「作り込み」「糊代部分」「余裕・ゆとり」などがキーワードとなります。
(2) なぜこの動作が大切なのか
・訪問時にコートを脱ぐ(武器を隠し持っていないことを表明する礼儀作法)
・畳の縁を踏まない(床下に潜んでいる武者に縁と縁の隙間から刀で斬られないように)
・座布団を勧める(床下からの攻撃に備える意味があり、一度「いや、もったいない」と少し押し戻す行為は、「私はそんなことはちっとも心配していません」という思いを伝えるため)
日本では基本的な礼儀作法が大切にされてきましたが、時代と共に形骸化し、次第にそれが忘れ去られ、意味がないように捉えられて無視されるような風潮も進んでいるようです。またすでに企業、組織内にそうしたことを伝え、教える風土を持ち合わせない様子を見受ける場合もあります。
しかし所詮は人と人との世界であり、世の中で大半の人々が大切にしている習慣や礼儀作法を身につけていない人がいる場合や、企業の顧客対応で失礼のないようにビジネスマナーとして身につけておかなければならない形や心を蔑ろにしてしまうと、企業として、またそこで働く人たち自身が「お客様を大切にしない」「無礼な社員」「できの悪い組織人」「企業文化の伴わないお粗末な組織」と捉えられてしまうのです。
こうした場合、私は企業・組織の人たちに対して語源、由来、なぜそうすることが大切...