◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか
15. 革新的6次産業の発展:三ヶ日町農業協同組合
前回の(2)に続いて解説します。
(3) 次なる一手は「オフィスみかん」
三ヶ日町農業協同組合は、みかんを通じた新規市場、新規需要、新規顧客の開拓に力を注ぎ続けています。その試みの中核を担っているのが「オフィスみかん」です。みかんを食べる新たなシチュエーション、販売チャネルの創造、新規需要、新規顧客の開拓、潜在消費の掘り起こしを日々行なっています。
たとえば、シチュエーションの創造においては、「会社・オフィスにみかんを置く」という戦略を手掛けています。すでに、オフィスに菓子を置き、食べた分だけ集金する仕組みは民間企業の間で広がっています。その市場に目をつけたのです。
では、みかんをオフィスで食べることのメリットは何でしょうか。わざわざ買いに行く手間が省ける、果物のほうが菓子よりも健康にいいイメージがある、温めたり、冷やしたり、料理したりする必要がない、風邪防止、健康・美容にビタミン摂取が効果的、などです。その結果はどうだったでしょうか。
従業員の健康増進に寄与する食生活改善プログラムを提案し、秀品Mサイズが入ったオフィスみかん専用の箱(3000円)を準備したところ、16力所の事業所の社員食堂で採用があり、3日間で約100kgmのみかんが出荷されることになったのです。
三ヶ日町農業協同組合の取り組みはこれだけでありません。次は、「氷美柑」を紹介します。これは、特殊技術で旨みを凝縮した冷凍みかんで、「夏にもおいしい三ヶ日みかんが食べたい」というニーズに応えるプレミアムみかんです。光センサーで確認した糖度の高いみかん、添加物を一切使用していないカロリー表示のあるみかんを使用しているところがプレミアムの所以です。
しかも外側の皮がむいてあるため、簡単に食べられます。食感はシャーベットのようであり、好みに合った硬さで解凍ができます。さらに、バッケージはまるで和菓子のような高級感漂うデザインで、海外への輸出も視野に入れています。
(4) 次代を担う農業従事者
農業と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。「衰退」「農業人口の減少」「輸入品」などなど、否定的なイメージが浮かぶ人も多いでしょう。しかし、嘆いてばかりはいられないのです。農業従事者の減少は、国土の荒廃、あるいは自給率の低下に結びつくからです。
ではどのような対策が必要か。農業の株式会社化、大規模化も一案ですが、そもそも、農業に魅力を感じる若者を増やさないことには何も始まらないと私は考えます。農業に希望を見いだせるなら、楽しいと思えるだろう。その楽しさは、「食」を通じて消費と結びつくのです。
そこには「顧客を大切にする気持ち」があり、「顧客を大切に思い、そのために顧客に接近し、顧客の心の底に潜んでいる要望を理解し、これを実際の形にして顧客の支持を得る」という農業分野だけでなく、「すべての仕事」に共通する好循環が存在するはずです。
そこで求められるのが、ES(従業員満足)です。三ヶ日農協では、選果場の設備を刷新することで、組合員の負担を大幅に削減したり、画期的なマッピングシステム(地図上に情報を載せる技術)を導入することで戦略を描きやすくしたりと、ES向上のために、さまざまな取り組みを実施しています。
◆東洋一と言われる三ヶ日農協の柑橘選果場
- 1時間に約70トンの処理能力を持つ設備の導入
- 秒速5個の測定能力を有するラインを45本設置
- 糖酸センサー、カラーグレーダーの導入
- 特殊な光で生傷を計る新センサーの追加導入
- トラックアンローダー(自動荷下ろし装置)を採用(組合員の労力を大幅に削減)
◆情報や行動を戦略に活かすためのマッピングシステム(地図上に情報を載せる技術)
- 光センサーのデータをもとに生産指導に活かす(指導能力の強化)
- 光センサーによって生産者別の品質評価などを明確に行なう(データは生産者ヘフイードバック)
- 生産者の所持する樹の種類、樹齢、糖度などの詳細データ、条件データを地図上に掲載。詳細なアドバイスを実施
- 平均糖度の低いエリアの明確化
- 技術員同士の情報の共有化(情報・ノウハウの引継)
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