紹介で次から次へと新規顧客が来店 CS経営(その29)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 
 CSM
 

3. 利用者からの紹介で次から次へと新規顧客が来店:株式会社アンジュ

(1) 顧客も意識していない変化を察知する

 アンジュの創業は1997年3月です。実質3名でヘアアロン(美容サロン)をスタートさせました。現在、主たる店舗は埼玉県の浦和駅の東口、西口にあり、他にも西口のコルソ内にネイル&メイクオーバー店などを展開しています。ヘアサロン業界は、コンビニエンスストアが全国で約5万軒に対して、理・美容店の数はその7倍から8倍、35万軒から40万軒というとてつもない激戦状態のビジネス環境にあります。
 
 一般的な1軒あたりの売上平均は年間で約500万円、月の売上にすると約40万円、1日の売上は約1万4000円(月平均29日営業として)となります。しかし、これはチェーン店を持つ大手も含めた平均であり、通常店は年間売上300万円にも満たないのです。スタッフは1人、多くても2人くらいの規模の店が全体のおよそ90%を占めているのが実態です。そのような店舗は、月平均では25万円、1日の平均売上は8600円程度の大変厳しい環境に置かれています。
 
 そのため、美容サロンは、「低賃金」「長時間労働」という過酷な労働環境に陥りやすいのです。結果として、離職率が高く、定着率が他業界に比べて低いようです。なおかつ、定期的に店を変える顧客も多く、経営は安定していないのです。
 
 さて、理容師・美容師となるには、国家試験に合格する必要があるため、ペースの技術力、知識力に大きな違いはないようです(もちろん、その後の習熟度によって、差は開いていくでしょう)。ではなぜ、顧客は次々と店を変えるのでしょうか。
 
 多くの場合、サービスカの問題を指摘する顧客が多いのです。武田マネジメントシステムズの調査結果によると、顧客離反の60%以上の理由はエチケットーマナー・サービスの悪さです。それに続く要点が技術力、情報力の欠如になります。
 
 「話し方の基本を知らない」「敬語が使えない」「マナーが悪い」「動作が乱暴」「一般常識を知らない」「服装が乱れている」「顧客を人としてではなく、髪の処理対象と捉えている」。もちろん、業界としても対策をとっており、非営利型一般社団法人エチケットーサービス向上協会(通称ESA)による理・美容業で働く人たちのための理・美容師のためのエチケットーマナー検定試験ならびに検定試験付セミナーを実施していています。
 
 全員ではないが、アンジュのスタッフの多くがESAの資格を取得しています。解説をアンジュに戻します。18年目を迎える2015年、アンジュのスタッフは関連事業を含めて70名強であり、右肩上がりの成長を遂げている会社です。
 
 常に変化し続ける顧客の心理を敏感に感じ取り、先取りし、顧客すらいまだ知覚・自覚していない、そして顧客の心の底に潜んでいる潜在ニーズを察知し、「こうしたメニュー、プログラム、システム、サービス、設備がほしかったのではありませんか」と具体的なサービスメニューを提供し続けているからこそ「業績=顧客の支持率」を達成し続けているのです。
 

(2) 美の総合サロンと毎日の反省会

 ではどのようなプログラムーメニューによって、顧客の潜在意識をいち早く捉え、顧客の支持を勝ち得たのでしょうか。ヘアメイク、エステサロン、ネイルサロン、PB(プライベートブランド)の化粧品、そして、顧客の立場、使用者の身になってテストにテストを重ねて導入した特定商品の取り扱い。他にもなんと保育園、技術×知識×情報×顧客第一の心を理念とした教育アカデミー施設、フォトスタジオ(写真館)、一家団槃の場、地域の人たちのコミュニケーションの場としてのレストランーワインバーなどが顧客に喜ばれ、支持を受けています。
 
 「保育園?」と驚かれた方もいると思うが、「アンジュさんに行きたいけど、赤ちゃんがいるので……」「本当はアンジュで働きたいけど……」といった声を聞くようになってから、すぐに県が指定する規格どおりの「保育園」を設立したのです。結果、お客様にも、アンジュで働く人たちにも、大変喜ばれる施設となっています。
 
 列記ばかりで恐縮だが、ヘッドスパ、メディカルビューティスパ、メイクオーバーとしてのヘアメイク、ネイル、アイデザイン、また、融合メニューとして、デトックスコース、アンチストレスコース、アンチエイジングコース、美容ヘアウィッグなどは、いずれも顧客の何気ない二言、「○○があればいいのにね」「△△で困っている」を実現した姿です。
 
 同様にTHEANGEコース(お客様のご要望に合わせたカウンセリングーコーディネートの伴ったオーダーメイド方式のメニューご提供)は、メンスビューティ、赤ちゃんの誕生日・七五三・入学・卒業・成人式・結婚式といった人生の通過儀礼の際の美容一式、衣装の貸与などによるフォトスタジオの設置と写真撮影などの組み合わせサービスの提供であり、これも非常に好評です。
 
 このように美容と理容の融合が喜ばれているために、家族揃ってアンジュに出かけ、その帰りに家族揃っての食事と家族のコミュニケーションが生まれるのです。幸せ感醸成の陰のサポーターでもあり、幸せプレゼント業でもあるのです。
 
 以上、さまざまなメニューに取り組むのは、いくつもの資格を持ち、内容を十分理解し、複数の仕事ができる社員たちです。
 
 そして、いずれの場合も、店舗ごと、拠点ごとに1日の仕事終了時に夕礼を実施し、全員で1日の反省会を開き、顧客に関することであれば、今日入社した新人であっても、部門が異なった担当者同士でも、率直な意見交換に積極的に参加しているのです。
 
 結果として、先輩を非難することになったとしても、それで感情的な静いは起きないというから驚きです。ディペーティング能力などを身につけてきた成果でもあります。
 
 アンジュに...

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 
 CSM
 

3. 利用者からの紹介で次から次へと新規顧客が来店:株式会社アンジュ

(1) 顧客も意識していない変化を察知する

 アンジュの創業は1997年3月です。実質3名でヘアアロン(美容サロン)をスタートさせました。現在、主たる店舗は埼玉県の浦和駅の東口、西口にあり、他にも西口のコルソ内にネイル&メイクオーバー店などを展開しています。ヘアサロン業界は、コンビニエンスストアが全国で約5万軒に対して、理・美容店の数はその7倍から8倍、35万軒から40万軒というとてつもない激戦状態のビジネス環境にあります。
 
 一般的な1軒あたりの売上平均は年間で約500万円、月の売上にすると約40万円、1日の売上は約1万4000円(月平均29日営業として)となります。しかし、これはチェーン店を持つ大手も含めた平均であり、通常店は年間売上300万円にも満たないのです。スタッフは1人、多くても2人くらいの規模の店が全体のおよそ90%を占めているのが実態です。そのような店舗は、月平均では25万円、1日の平均売上は8600円程度の大変厳しい環境に置かれています。
 
 そのため、美容サロンは、「低賃金」「長時間労働」という過酷な労働環境に陥りやすいのです。結果として、離職率が高く、定着率が他業界に比べて低いようです。なおかつ、定期的に店を変える顧客も多く、経営は安定していないのです。
 
 さて、理容師・美容師となるには、国家試験に合格する必要があるため、ペースの技術力、知識力に大きな違いはないようです(もちろん、その後の習熟度によって、差は開いていくでしょう)。ではなぜ、顧客は次々と店を変えるのでしょうか。
 
 多くの場合、サービスカの問題を指摘する顧客が多いのです。武田マネジメントシステムズの調査結果によると、顧客離反の60%以上の理由はエチケットーマナー・サービスの悪さです。それに続く要点が技術力、情報力の欠如になります。
 
 「話し方の基本を知らない」「敬語が使えない」「マナーが悪い」「動作が乱暴」「一般常識を知らない」「服装が乱れている」「顧客を人としてではなく、髪の処理対象と捉えている」。もちろん、業界としても対策をとっており、非営利型一般社団法人エチケットーサービス向上協会(通称ESA)による理・美容業で働く人たちのための理・美容師のためのエチケットーマナー検定試験ならびに検定試験付セミナーを実施していています。
 
 全員ではないが、アンジュのスタッフの多くがESAの資格を取得しています。解説をアンジュに戻します。18年目を迎える2015年、アンジュのスタッフは関連事業を含めて70名強であり、右肩上がりの成長を遂げている会社です。
 
 常に変化し続ける顧客の心理を敏感に感じ取り、先取りし、顧客すらいまだ知覚・自覚していない、そして顧客の心の底に潜んでいる潜在ニーズを察知し、「こうしたメニュー、プログラム、システム、サービス、設備がほしかったのではありませんか」と具体的なサービスメニューを提供し続けているからこそ「業績=顧客の支持率」を達成し続けているのです。
 

(2) 美の総合サロンと毎日の反省会

 ではどのようなプログラムーメニューによって、顧客の潜在意識をいち早く捉え、顧客の支持を勝ち得たのでしょうか。ヘアメイク、エステサロン、ネイルサロン、PB(プライベートブランド)の化粧品、そして、顧客の立場、使用者の身になってテストにテストを重ねて導入した特定商品の取り扱い。他にもなんと保育園、技術×知識×情報×顧客第一の心を理念とした教育アカデミー施設、フォトスタジオ(写真館)、一家団槃の場、地域の人たちのコミュニケーションの場としてのレストランーワインバーなどが顧客に喜ばれ、支持を受けています。
 
 「保育園?」と驚かれた方もいると思うが、「アンジュさんに行きたいけど、赤ちゃんがいるので……」「本当はアンジュで働きたいけど……」といった声を聞くようになってから、すぐに県が指定する規格どおりの「保育園」を設立したのです。結果、お客様にも、アンジュで働く人たちにも、大変喜ばれる施設となっています。
 
 列記ばかりで恐縮だが、ヘッドスパ、メディカルビューティスパ、メイクオーバーとしてのヘアメイク、ネイル、アイデザイン、また、融合メニューとして、デトックスコース、アンチストレスコース、アンチエイジングコース、美容ヘアウィッグなどは、いずれも顧客の何気ない二言、「○○があればいいのにね」「△△で困っている」を実現した姿です。
 
 同様にTHEANGEコース(お客様のご要望に合わせたカウンセリングーコーディネートの伴ったオーダーメイド方式のメニューご提供)は、メンスビューティ、赤ちゃんの誕生日・七五三・入学・卒業・成人式・結婚式といった人生の通過儀礼の際の美容一式、衣装の貸与などによるフォトスタジオの設置と写真撮影などの組み合わせサービスの提供であり、これも非常に好評です。
 
 このように美容と理容の融合が喜ばれているために、家族揃ってアンジュに出かけ、その帰りに家族揃っての食事と家族のコミュニケーションが生まれるのです。幸せ感醸成の陰のサポーターでもあり、幸せプレゼント業でもあるのです。
 
 以上、さまざまなメニューに取り組むのは、いくつもの資格を持ち、内容を十分理解し、複数の仕事ができる社員たちです。
 
 そして、いずれの場合も、店舗ごと、拠点ごとに1日の仕事終了時に夕礼を実施し、全員で1日の反省会を開き、顧客に関することであれば、今日入社した新人であっても、部門が異なった担当者同士でも、率直な意見交換に積極的に参加しているのです。
 
 結果として、先輩を非難することになったとしても、それで感情的な静いは起きないというから驚きです。ディペーティング能力などを身につけてきた成果でもあります。
 
 アンジュにおけるディペーティングは、まずは講師から研修の場で基本的な取り組み方法を学び、そのうえで仕事に関係するテーマを講師が決め、「賛成派」「反対派」にそのテーマを伝える。それぞれ賛成派・反対派は相手との議論に負けないように説得材料、反論材料を準備し、模擬テストを行なうのです。この場合、自分個人としては反対派であっても賛成派に振り分けられれば、どこまでもその役割を任じるといった取り組みです。
 
 こうして決められた日に、社長、役員、幹部と講師が審査員になって、所定の審査表にその様子を点数にして採点するのです。たとえ、感情的な表現、厳しい口調で議論が進行しても、静いが生じないのは、トレーニングの賜物といえます。
 
 さて終礼・反省会では、たとえば、「お客様が『◯◯していただけますか』と尋ねたときに、××さんは『いいですよ』と答えていましたが……」という指摘などがなされる。「お客様の表情は一瞬で固まったように見えたのですが、『仕方ないからやってあげてもいいよ』『面倒だがやってあげましょう』と言われたと感じたのではないでしょうか」「ではどのように対応するのがいいでしょうか」というように、具体策を検討・議論していくのです。
 
 次回は、(3)「サービスを受けるプロ」であるお客様の愚痴、不満に耳を傾ける、から続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載 
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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