この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA) CS経営(その24)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 CSM

1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

(2) 専門分野と専門分野の糊代が生命線

 前回のCS経営:サービスの現場崩壊(その23)に続いて解説します。
 
 ここで、ANAの専門分野についていくつか列記し、顧客満足との関係を考えます。
 

(A)運行管理

 パイロットを地上でサポートする運行管理者は、事前の飛行ルートを把握するために、飛行時間に影響する天候、気流に大きく関係する雲の様子、気流の乱れなどを事前にチェック、把握します。また、出発する空港、途中の上空の状況、到着地の天候などに関しても細部にわたる風の向き、勢い(風速)、雲の種類・高さ、雨、風、雪、雷などの状況把握を行います。
 
 さらには滑走路がその影響をどれだけ受けるか、飛行中の経路ではどうか、現在はどのような状態に陥っているかなどのデータを集め、分析し、判断を下します。つまり、飛行予定ルート、飛行高度などのルート計画を立て、そして決定を下すのです。
 
 また、搭乗する顧客の人数、体調、年齢などにも気を配ります。もちろん離発着時の積み荷と総重量は大切なデータとして把握します。人数に応じた席の設定でバランスよく飛ぶための配慮を行なうのです。ベテランのパイロットの場合、かなりの体重の人がおよそどの位置に座っているかを感知できるといいます。また、重量に応じた燃料もどれほど必要かを算定します。天候などの状況によっては目的地で着陸できない場合もあり、この場合、元の飛行場に引き返すのか、他の離れた飛行場まで行くのかを想定し、燃料を計算する必要があります。
 
 現地の航空管制塔が使用している電波とその状況も大切なチェックポイントです。上空は電波の巣窟であり、電離層は地震で乱れることもあり、ましてや太陽の黒点運動が活発なときは影響を受ける可能性もあるといった、リアルタイムの変化も加味する必要と理解が大切になります。いずれにせよかなり専門性の高い機能、役割を担う仕事なのです。
 

(B)パイロット(航空機の操縦士)

 身近な問題としては、パイロットの健康状態、前日の飲酒などの自己管理、運航上の天候などに関する諸条件の把握は、運行管理者から可能な限りすべてを入手し、また自分たちが気になり、懸念し、想定することに関しては情報の入手と飛行計画などのアドバイスを受けることもあり、事実そうした取り組みで成り立つ仕事であるといえるでしょう。これがいわば「糊代」、そして「シームレス」な状況把握、心のつながる顧客のための「融合」に該当する部分となるのです。
 
 直接的には顧客(搭乗者)と接する仕事ではないのですが、非常に重要な顧客サービスの使命を受け持っていて、とくに搭乗者の安全と快適、満足、幸せ感を創造する大切な役割と機能と能力、感性を担っています。もちろん複雑な機能を組み込んだおよそ300万点にも及ぶ部材・部品・機能などは熟知し、自分の手足や身体のように技術のみならず体験、経験、感覚なども総動員する仕事です。時にはご高齢の搭乗者の健康状態、急病の有無、またそれらの人々の人数を把握することも必要になります。
 
 いわば「人間系サービス」に関わる仕事です。この人間系の定義は、「直接的に顧客と接しないが、間接的に顧客のためのサービスを担っている」ということになります。またもし、天候不順などに直面した際には代替空港の状況も理解しておかなければならないし、燃料の把握は当然です。そしてこれらの情報や飛行ルートなどについては、各地の航空交通管理センターとの情報交換を行なうのです。
 
 パイロットがよく持ち運んでいる四角い鞄の中には、このような情報に関わる取り組み方法が整理して収められているのです。整備士が整備した航空機をパイロットの目で再確認し、時に整備士と会話を交わし、安全性を確認し担保し、それから初めて搭乗者をお迎えし、空管制官の指示に沿って離発着となるのです。
 
 また、着陸時に鋲の形の照明を踏むとドスンドスンと違和感を覚えることから、照明を踏まないようにぎりぎりに車輪を置いて走るなどの配慮もしているらしい。これは乗客を思うパイロットの優しい配慮でもあるのです。
 

(C)整備士

 パイロットが航空機に到着する以前に、整備士による機体点検がなされます。航空機によってその整備...

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 CSM

1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

(2) 専門分野と専門分野の糊代が生命線

 前回のCS経営:サービスの現場崩壊(その23)に続いて解説します。
 
 ここで、ANAの専門分野についていくつか列記し、顧客満足との関係を考えます。
 

(A)運行管理

 パイロットを地上でサポートする運行管理者は、事前の飛行ルートを把握するために、飛行時間に影響する天候、気流に大きく関係する雲の様子、気流の乱れなどを事前にチェック、把握します。また、出発する空港、途中の上空の状況、到着地の天候などに関しても細部にわたる風の向き、勢い(風速)、雲の種類・高さ、雨、風、雪、雷などの状況把握を行います。
 
 さらには滑走路がその影響をどれだけ受けるか、飛行中の経路ではどうか、現在はどのような状態に陥っているかなどのデータを集め、分析し、判断を下します。つまり、飛行予定ルート、飛行高度などのルート計画を立て、そして決定を下すのです。
 
 また、搭乗する顧客の人数、体調、年齢などにも気を配ります。もちろん離発着時の積み荷と総重量は大切なデータとして把握します。人数に応じた席の設定でバランスよく飛ぶための配慮を行なうのです。ベテランのパイロットの場合、かなりの体重の人がおよそどの位置に座っているかを感知できるといいます。また、重量に応じた燃料もどれほど必要かを算定します。天候などの状況によっては目的地で着陸できない場合もあり、この場合、元の飛行場に引き返すのか、他の離れた飛行場まで行くのかを想定し、燃料を計算する必要があります。
 
 現地の航空管制塔が使用している電波とその状況も大切なチェックポイントです。上空は電波の巣窟であり、電離層は地震で乱れることもあり、ましてや太陽の黒点運動が活発なときは影響を受ける可能性もあるといった、リアルタイムの変化も加味する必要と理解が大切になります。いずれにせよかなり専門性の高い機能、役割を担う仕事なのです。
 

(B)パイロット(航空機の操縦士)

 身近な問題としては、パイロットの健康状態、前日の飲酒などの自己管理、運航上の天候などに関する諸条件の把握は、運行管理者から可能な限りすべてを入手し、また自分たちが気になり、懸念し、想定することに関しては情報の入手と飛行計画などのアドバイスを受けることもあり、事実そうした取り組みで成り立つ仕事であるといえるでしょう。これがいわば「糊代」、そして「シームレス」な状況把握、心のつながる顧客のための「融合」に該当する部分となるのです。
 
 直接的には顧客(搭乗者)と接する仕事ではないのですが、非常に重要な顧客サービスの使命を受け持っていて、とくに搭乗者の安全と快適、満足、幸せ感を創造する大切な役割と機能と能力、感性を担っています。もちろん複雑な機能を組み込んだおよそ300万点にも及ぶ部材・部品・機能などは熟知し、自分の手足や身体のように技術のみならず体験、経験、感覚なども総動員する仕事です。時にはご高齢の搭乗者の健康状態、急病の有無、またそれらの人々の人数を把握することも必要になります。
 
 いわば「人間系サービス」に関わる仕事です。この人間系の定義は、「直接的に顧客と接しないが、間接的に顧客のためのサービスを担っている」ということになります。またもし、天候不順などに直面した際には代替空港の状況も理解しておかなければならないし、燃料の把握は当然です。そしてこれらの情報や飛行ルートなどについては、各地の航空交通管理センターとの情報交換を行なうのです。
 
 パイロットがよく持ち運んでいる四角い鞄の中には、このような情報に関わる取り組み方法が整理して収められているのです。整備士が整備した航空機をパイロットの目で再確認し、時に整備士と会話を交わし、安全性を確認し担保し、それから初めて搭乗者をお迎えし、空管制官の指示に沿って離発着となるのです。
 
 また、着陸時に鋲の形の照明を踏むとドスンドスンと違和感を覚えることから、照明を踏まないようにぎりぎりに車輪を置いて走るなどの配慮もしているらしい。これは乗客を思うパイロットの優しい配慮でもあるのです。
 

(C)整備士

 パイロットが航空機に到着する以前に、整備士による機体点検がなされます。航空機によってその整備は異なりますが、微細な諸要素に目を向けます。たとえば機体の電源を入れて各システムの機能が正常な状態にあり、正常な作動がなされるか、動翼の動きは正常な状態にあるか、タイヤの空気圧は正規のレベルを確保しているかどうか、各システムのチェック、たとえば油圧システムはどうか、降雪のときの除雪、凍結などは操縦に大きなマイナスの影響を及ぼすだけに、ことさら神経を使う課題となるのです。すでに航空機に雪が積もっていればこれを除雪し、なお融氷剤の使用作業が伴う。このように身体を使った整備も伴うのです。
 
 また暑い夏は着陸時の熱、滑走路の温度の影響で、時にタイヤの空気が抜ける現象があるため、その状況の配慮も必要であります。とくにこうした配慮をパイロットにもしっかりと伝え、安心して操縦する環境を作ってあげることで、よいハーモニーとなるのです。
 
 次回は、(D)キャビンアテンダントから、解説を続けます。
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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