革新の壁を“超える”トヨタ方式の本質

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 トヨタ方式は一般的に、「なぜなぜ分析、かんばん、アンドン、ジャスト・イン・タイム、自働化」などで知られていますが、これらはあくまでトヨタ方式を構成するサブシステムであり、これらを使うだけでは、壁は超えられません。壁を超えて革新を実現するにはトヨタ方式の本質を知って、それを効果的に応用することです。私はトヨタ方式が一般に知られるようになった30年前からいろいろな業種に応用し成果を上げてきました。

 ここでは、中規模ダンボール箱製造企業を例に、話を進めます。ダンボール箱はあらゆる商品の流通に欠かせないもので、多種多様な小ロット注文をこなす必要があります。小企業では小回りを利かせて小ロット注文に機敏に対応していますが、中規模企業ではある程度の設備投資をし、小ロットの注文をたくさん取って設備稼働率を上げて稼いでいるのが実態です。

1.X社の事例

 高速製函機を2系列持っていて、両系列とも1ロット数十枚から数百枚の注文を毎日何十ロットも製造しているとしましょう。社の幹部は、「お客の言う通りにしないと注文が来ない。“300枚の注文を毎日30枚ずつ出荷して欲しい”と言われれば、毎日30枚ずつ造るのは段取替えが大変なので、300枚を1ロットで製造し毎日30枚ずつ出荷しています。出荷の残りは全部出荷待ち在庫として滞留するが、在庫が山になっていて、あるはずの在庫がなかったり、傷がついてダメになってたりで大変だ。人はみな在庫を減らせというがどうやったら減らせるのか?こんな状態では儲けなんて出ない。トヨタ方式を売りにするコンサルタントに改善の相談をしたがダメだった」と言います。たしかに多種多様な少量ずつの出荷待ち在庫が壁際に積み上げられて、壁から3列(列間の隙間がなく奥の列に何があるか分らない状態)×15区画×10段もあり、大変さを目の当たりにしました。

 X社に立ちはだかるカベは、次のように整理されます。ア)お客さんの毎日きっかり何枚という厳しい出荷要求。イ)毎日出荷するだけ造って即出荷すればいいことは分っているが、今でも毎日何十回もある段取替えをこれ以上増やせない。ウ)出荷待ち在庫が山積みになっていて探すのが大変だしキズ付きロスも多いが、ちゃんとした在庫置場を造るのは金が掛り過ぎて出来ない。エ)お客からは毎年厳しい値下げ要求がくる。大変なカベですが、トヨタ方式の本質を理解し活用することで“超える”ことが出来ます。

◆トヨタ方式の本質と要点

(1)ムダの徹底的な排除

 トヨタでは以下の7つをムダと定義しているが、「つくりすぎのムダ」を一番に上げている点が特徴で、これはつくりすぎて売れずに大損をした苦い経験からきたものです。

 ①つくりすぎのムダ、②手待ちのムダ、③運搬のムダ、④加工そのもののムダ、⑤在庫のムダ ⑥動作のムダ、⑦不良をつくるムダ

(2)あくなき問題意識

 かつてアメリカの自動車産業は巨大で大量生産のコスト安・収益大を謳歌していました。一方、日本の自動車産業のマーケットは小さく、どうしたら多種少量生産で製造コストを安くし消費者ニーズ に応えるかが課題でした。このためトヨタでは7つのムダを問題として意識しあくなく追求してきました。

 今も語り継がれているのは、多種少量生産のカギになる大型プレスの段取替えで当時最先端の フォルクスワーゲン(VW)を半年掛けて追い抜いた(トヨタ4時間、VW 3時間、半年プロジェクトで トヨタ 2時間達成)直後に、大野耐一氏(当時技術担当取締役)が「10分にすべし」という目標を掲げて取組んだといいます。将来を見据えたあくなき問題意識の典型的な例です。

(3)何とかしようという情熱

 問題意識があっても、何とかしようという情熱がなければ現状の立ちはだかる壁を超えることは 出来ません。トヨタでは大野耐一氏のリーダーシップで関係者全員が何とかしようという情熱で壁を超えてきました。典型的な例は、上記の段取替えの挑戦で、大野耐一氏の知恵袋として働いたコン サルタントの新郷重夫の情熱です。大野取締役の「10分にすべし」という目標は、新郷氏とトヨタ 関係者の何とかしようという情熱で、半年後にはモデルマシンで達成することができました。その後この 方法は、新郷氏によって体系化され「シングル段取り」として確立されグローバルに普及しています。

2.X社への“トヨタ方式の本質”の活用

 壁を超えるに必要なことは“何とかしようという情熱とその情熱を喚起する具体的な方法で、下...

 トヨタ方式は一般的に、「なぜなぜ分析、かんばん、アンドン、ジャスト・イン・タイム、自働化」などで知られていますが、これらはあくまでトヨタ方式を構成するサブシステムであり、これらを使うだけでは、壁は超えられません。壁を超えて革新を実現するにはトヨタ方式の本質を知って、それを効果的に応用することです。私はトヨタ方式が一般に知られるようになった30年前からいろいろな業種に応用し成果を上げてきました。

 ここでは、中規模ダンボール箱製造企業を例に、話を進めます。ダンボール箱はあらゆる商品の流通に欠かせないもので、多種多様な小ロット注文をこなす必要があります。小企業では小回りを利かせて小ロット注文に機敏に対応していますが、中規模企業ではある程度の設備投資をし、小ロットの注文をたくさん取って設備稼働率を上げて稼いでいるのが実態です。

1.X社の事例

 高速製函機を2系列持っていて、両系列とも1ロット数十枚から数百枚の注文を毎日何十ロットも製造しているとしましょう。社の幹部は、「お客の言う通りにしないと注文が来ない。“300枚の注文を毎日30枚ずつ出荷して欲しい”と言われれば、毎日30枚ずつ造るのは段取替えが大変なので、300枚を1ロットで製造し毎日30枚ずつ出荷しています。出荷の残りは全部出荷待ち在庫として滞留するが、在庫が山になっていて、あるはずの在庫がなかったり、傷がついてダメになってたりで大変だ。人はみな在庫を減らせというがどうやったら減らせるのか?こんな状態では儲けなんて出ない。トヨタ方式を売りにするコンサルタントに改善の相談をしたがダメだった」と言います。たしかに多種多様な少量ずつの出荷待ち在庫が壁際に積み上げられて、壁から3列(列間の隙間がなく奥の列に何があるか分らない状態)×15区画×10段もあり、大変さを目の当たりにしました。

 X社に立ちはだかるカベは、次のように整理されます。ア)お客さんの毎日きっかり何枚という厳しい出荷要求。イ)毎日出荷するだけ造って即出荷すればいいことは分っているが、今でも毎日何十回もある段取替えをこれ以上増やせない。ウ)出荷待ち在庫が山積みになっていて探すのが大変だしキズ付きロスも多いが、ちゃんとした在庫置場を造るのは金が掛り過ぎて出来ない。エ)お客からは毎年厳しい値下げ要求がくる。大変なカベですが、トヨタ方式の本質を理解し活用することで“超える”ことが出来ます。

◆トヨタ方式の本質と要点

(1)ムダの徹底的な排除

 トヨタでは以下の7つをムダと定義しているが、「つくりすぎのムダ」を一番に上げている点が特徴で、これはつくりすぎて売れずに大損をした苦い経験からきたものです。

 ①つくりすぎのムダ、②手待ちのムダ、③運搬のムダ、④加工そのもののムダ、⑤在庫のムダ ⑥動作のムダ、⑦不良をつくるムダ

(2)あくなき問題意識

 かつてアメリカの自動車産業は巨大で大量生産のコスト安・収益大を謳歌していました。一方、日本の自動車産業のマーケットは小さく、どうしたら多種少量生産で製造コストを安くし消費者ニーズ に応えるかが課題でした。このためトヨタでは7つのムダを問題として意識しあくなく追求してきました。

 今も語り継がれているのは、多種少量生産のカギになる大型プレスの段取替えで当時最先端の フォルクスワーゲン(VW)を半年掛けて追い抜いた(トヨタ4時間、VW 3時間、半年プロジェクトで トヨタ 2時間達成)直後に、大野耐一氏(当時技術担当取締役)が「10分にすべし」という目標を掲げて取組んだといいます。将来を見据えたあくなき問題意識の典型的な例です。

(3)何とかしようという情熱

 問題意識があっても、何とかしようという情熱がなければ現状の立ちはだかる壁を超えることは 出来ません。トヨタでは大野耐一氏のリーダーシップで関係者全員が何とかしようという情熱で壁を超えてきました。典型的な例は、上記の段取替えの挑戦で、大野耐一氏の知恵袋として働いたコン サルタントの新郷重夫の情熱です。大野取締役の「10分にすべし」という目標は、新郷氏とトヨタ 関係者の何とかしようという情熱で、半年後にはモデルマシンで達成することができました。その後この 方法は、新郷氏によって体系化され「シングル段取り」として確立されグローバルに普及しています。

2.X社への“トヨタ方式の本質”の活用

 壁を超えるに必要なことは“何とかしようという情熱とその情熱を喚起する具体的な方法で、下記はその項目です。

(1)頭でっかちでない、実践的で効果的なアプローチ
   ① 一番効果の出そうなところから始める
   ② 出た効果を維持向上させる 
 
(2)出荷待ち在庫の整理・整頓
   ① “やろう”という気になること
   ② やった結果を皆で喜び合う
   ③ 次の行動に結び付く動機付け 
 
(3)出荷待ち在庫を減らす造り方
   ① “やろう”という気になること
   ② 身近にある“うまく行っている部分”を見つける
   ③ 行動のためらいが生じないよう最初の変化は小さくする

 

 これらの具体的内容については、以前解説した“Switch”の応用例として、後ほど掲載しますのでご期待下さい。

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この記事の著者

鈴木 甫

「生き残る」のは “強いもの” でも “賢いもの”でもなく「変化に対応できるもの」!「ポストコロナ『DX』の激変する環境に対応する企業支援」に真剣に取り組んでいます!            E-mail: h.suzuki@dr-practice.com

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