顧客の期待に応えられる品質管理とは 中小製造業の課題と解決への道筋(その7)

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品質管理

 

【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

第2章 求められる品質管理の発想転換

第3節 守りから攻めの品質管理へ

 問題を市場へ絶対に流出させない「予防」主体の品質管理の仕組みへ転換させるためには、どのような対策が考えられるでしょうか。

 市場でのトラブルが許されない昨今の厳しい品質要求に対し、問題が発生してから対策するモグラたたき主体の品質管理では、潜在した不具合は発見できないことが理解できたと思います。しかし問題を未然に防止する予防の品質管理へ脱皮し、流出不良ゼロを目指すためには、どのような手法を用いれば良いかを考えてみる必要があります。

 

1、未然予防の仕組みとは

 未然予防の品質管理とは、具体的には次のようなことが挙げられます。

  • 不具合発生を予測し「予防対策」を組み入れた「工程設計」の仕組み
  • 工程の異常をいち早く発見し、不良を未然に防止する「4M変化点管理」の仕組み
  • 不良を一切流出させない出荷停止機能を持たせた「検査」の仕組み
  • 作業者や機械によって不良を後工程に送らない次工程完結の仕組み
  • 作業者の継続的な訓練計画と実施体制の構築

 しかし「何やら難しい『仕組み』を沢山作る必要があり、品質管理のかなり専門的な知識や経験を有する人材が必要な上、中小企業では未然予防の品質管理を実施することは難しい」と尻込みしてしまいそうです。そうは言っても今までの後追い品質管理から決別し、仕事のやり方を劇的に変えていく必要がありますので、それには工場の仕組みと品質管理に対する考え方をガラリと入れ替えることが求められています。

 後追いの品質管理を「守りの品質管理」とするならば、積極的に潜在する問題を見つけ対策する予防の品質管理を「攻めの品質管理」と定義することができます。そこで「攻めの品質管理」の根底にある一番大事な点を挙げるとすると、次のようになります。

 第2節で信頼性の定義として『アイテムが顧客の期待する条件、期待する期間において、故障はゼロで、期待する機能を果たすことができること』と新しく定義しました。つまり「顧客の期待」とは何かを知ることが、攻めの品質管理にとって最も重要なポイントなのです。

 仕様書や図面に表されている品質基準は、顧客の期待のごく一部であることを指摘しました。この仕様書や図面に表されていない品質を管理することこそ、未然に問題発生を予防することにつながるのです。

 

2、顧客の期待に応える品質管理とは

 「お客様の期待に応える製品・サービスを提供します」、あるいは「お客様に評価され選ばれる製品を提供します」などといううたい文句はあちこちで見掛けます。しかし具体的にどのような取り組みを行っているかは、不明確な企業も多いのが実態です。

 例えば品質管理部門では、お客様の期待の強さや具体的な内容など、様々な情報をどのように入手して、設計や製造工程の品質管理基準、製品の評価方法を設定しているでしょうか?

 日本の品質管理は、これまで述べてきたように、部品の品質、製品の品質といったハードウェアに関して、しかも寸法公差や材料の強度など、物理的な要素である規格値で品質を管理するという意味合いが強かったのですが、品質という言葉の解釈の幅、適用する範囲が広がってきました。そのため、製造現場における品質管理だけではカバーしきれなくなってきました。

 

 品質の持つ意味合いの変化により、品質管理部門に限らず、営業部門や設計部門も含め、全社で顧客要求に対応していかなければならなくなったのです。

 第2節、3項の事例1をもう一度思い出してください。回路基板を製造する工程では、不要なハンダを付着させない対策に集中すれば良いということを指摘しました。しかし、不要なハンダを付着させない対策にどれくらいの注意力、労力を払えばいいかは、現場の考え方次第で決められる場合が多いと考えられます。

 例えば検査指示書で検査方法や検査基準を設けて実施する場合、目視で検査するように規定したとします。しかしそれは、当然ある確率で見逃しミスが発生すると予想できます。もし見逃した場合、火災の恐れがあることが事前に分かっていれば、検査方法も目視ではなく、照明付きの拡大鏡...

品質管理

 

【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】

 

第2章 求められる品質管理の発想転換

第3節 守りから攻めの品質管理へ

 問題を市場へ絶対に流出させない「予防」主体の品質管理の仕組みへ転換させるためには、どのような対策が考えられるでしょうか。

 市場でのトラブルが許されない昨今の厳しい品質要求に対し、問題が発生してから対策するモグラたたき主体の品質管理では、潜在した不具合は発見できないことが理解できたと思います。しかし問題を未然に防止する予防の品質管理へ脱皮し、流出不良ゼロを目指すためには、どのような手法を用いれば良いかを考えてみる必要があります。

 

1、未然予防の仕組みとは

 未然予防の品質管理とは、具体的には次のようなことが挙げられます。

  • 不具合発生を予測し「予防対策」を組み入れた「工程設計」の仕組み
  • 工程の異常をいち早く発見し、不良を未然に防止する「4M変化点管理」の仕組み
  • 不良を一切流出させない出荷停止機能を持たせた「検査」の仕組み
  • 作業者や機械によって不良を後工程に送らない次工程完結の仕組み
  • 作業者の継続的な訓練計画と実施体制の構築

 しかし「何やら難しい『仕組み』を沢山作る必要があり、品質管理のかなり専門的な知識や経験を有する人材が必要な上、中小企業では未然予防の品質管理を実施することは難しい」と尻込みしてしまいそうです。そうは言っても今までの後追い品質管理から決別し、仕事のやり方を劇的に変えていく必要がありますので、それには工場の仕組みと品質管理に対する考え方をガラリと入れ替えることが求められています。

 後追いの品質管理を「守りの品質管理」とするならば、積極的に潜在する問題を見つけ対策する予防の品質管理を「攻めの品質管理」と定義することができます。そこで「攻めの品質管理」の根底にある一番大事な点を挙げるとすると、次のようになります。

 第2節で信頼性の定義として『アイテムが顧客の期待する条件、期待する期間において、故障はゼロで、期待する機能を果たすことができること』と新しく定義しました。つまり「顧客の期待」とは何かを知ることが、攻めの品質管理にとって最も重要なポイントなのです。

 仕様書や図面に表されている品質基準は、顧客の期待のごく一部であることを指摘しました。この仕様書や図面に表されていない品質を管理することこそ、未然に問題発生を予防することにつながるのです。

 

2、顧客の期待に応える品質管理とは

 「お客様の期待に応える製品・サービスを提供します」、あるいは「お客様に評価され選ばれる製品を提供します」などといううたい文句はあちこちで見掛けます。しかし具体的にどのような取り組みを行っているかは、不明確な企業も多いのが実態です。

 例えば品質管理部門では、お客様の期待の強さや具体的な内容など、様々な情報をどのように入手して、設計や製造工程の品質管理基準、製品の評価方法を設定しているでしょうか?

 日本の品質管理は、これまで述べてきたように、部品の品質、製品の品質といったハードウェアに関して、しかも寸法公差や材料の強度など、物理的な要素である規格値で品質を管理するという意味合いが強かったのですが、品質という言葉の解釈の幅、適用する範囲が広がってきました。そのため、製造現場における品質管理だけではカバーしきれなくなってきました。

 

 品質の持つ意味合いの変化により、品質管理部門に限らず、営業部門や設計部門も含め、全社で顧客要求に対応していかなければならなくなったのです。

 第2節、3項の事例1をもう一度思い出してください。回路基板を製造する工程では、不要なハンダを付着させない対策に集中すれば良いということを指摘しました。しかし、不要なハンダを付着させない対策にどれくらいの注意力、労力を払えばいいかは、現場の考え方次第で決められる場合が多いと考えられます。

 例えば検査指示書で検査方法や検査基準を設けて実施する場合、目視で検査するように規定したとします。しかしそれは、当然ある確率で見逃しミスが発生すると予想できます。もし見逃した場合、火災の恐れがあることが事前に分かっていれば、検査方法も目視ではなく、照明付きの拡大鏡を使って検査する方法を取っていたかも知れません。

 図面を見ただけでは、ハンダ屑(くず)が付着すると、火災につながるとは恐らく気が付かずにいると思います。しかし火災になれば、顧客である発注メーカーにとって企業の存続も危ぶまれる事態に発展するかもしれません。そこで回路基板メーカーは、万が一ハンダ屑が付着して、こことここがショートすると火災の可能性があるということを指摘し、何らかの対策を事前に講じなければならないのです。

 このような指摘は、後追いの「守りの品質管理」の手法では絶対にできない事なのです。

 製品の欠陥や故障で、火災やケガなどの社会的・経済的損失が生じることを「リスク」といいます。このリスクの有無の検出と、リスクの大きさを定量的に評価することを「リスクアセスメント」と呼びます。 

 このように攻めの品質管理では不良率よりも、もし不良が流出した場合のリスクの発生確率とリスクの程度定量的に評価して、リスクを低く抑える管理が必要になっているのです。

 次回は、第4節 現場改革の原動力「中核人材」から解説を続けます。

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この記事の著者

濱田 金男

製造業に従事して50年、新製品開発設計から製造技術、品質管理、海外生産まで、あらゆる業務に従事した経験を基に、現場目線で業務改革・経営改革・意識改革支援に取り組んでいます。

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