~ 「定幅図形」マンホールのフタはなぜ丸い? 現場数学(その17)

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♦ ルーローの三角形と定幅図形

1.自動車のタイヤは丸くないといけない?

 ピラミッドを造った時、大きな石をどうやって運んだのでしょうか?多分、コロを使ったと思われています。丸太を何本も並べ、少し移動すると、最後の丸太を一番前に運び、またその分だけ移動する、という気の遠くなるような作業の連続だったのです。台に車軸を付けるという素晴らしいアイデアに基づく今の自動車の原型が発明されたのは、この労働集約型作業から人間を解放したい一心からだったのでしょう。

 さて、車は丸い?コロも丸いから当然丸い、と思っている人が多いと思います。もちろん、本物のタイヤは良く見ると、接地面が大分平らになっています。しかし、ここでの話はそのような具体的な話ではなく、丸以外にガタガタさせずに物を移動することのできる曲線はないのか?という純粋に幾何学の原理的な話題なのです。この曲線はいくらでもあり、昔から定幅図形(または等幅図形)と呼ばれ知られています。有名なのは下図に示すルーローの三角形です。一見、これを回したらガタガタしそうですが、実はそんなことはありません。定幅図形であり、みごとにコロの役割を果たすのです。

図. ルーローの三角形

 ルーローの三角形はドリルで四角い穴を開ける時に使われています。完全に四角にはならないのですが、角がちょっと丸くなる程度なので実用上はとても便利です。この図形の拡張版はルーローの多角形であり、奇数が基本です。つまり、この型のドリルで開けられる穴は正方形、六角形、八角形…に限られるとつい最近まで信じられていました。この概念を破り、奇数角形の穴を開けるドリルを開発したのが宮城県立がんセンターの佐藤郁郎先生です。理学博士で数学者の秋山仁先生や私と一緒に東北大金属材料研究所のテクニカルセンターにお願いして、この三角形を開けるドリルを作っていただきました(正確にいうと「藤原・掛谷の二角形」を活用して三角形の穴を開けるドリルの開発を行ったのです)。下の写真が検証場面です。この延長で五角形や七角形も可能になりました。

写真説明ドリル開発における検証場面、写真右が筆者、中央は秋山氏

 ルーローの三角形はロータリーエンジンのローターの基本になっていることでも良く知られています。余談ですが、ロータリーエンジンは日本語です。英語では発明者にちなんで「Wankel engine」と呼びます。英語の「rotary engine」は航空機用の、エンジンがプロペラと一緒に回転するレシプロエンジンを指すことが多いので注意しないといけません。

2.マンホールの蓋の最適形状は?

 マンホールの蓋(ふた)の形状は当然円形であると思っている人が多いと思いますが、そんな必要はないのです。マンホールの蓋の設計指針は、穴の大きさに比べて蓋がぎりぎり小さくても落ちないことです。円形はこの条件を満たしています。正方形の蓋を考えればすぐに分かるように、それが落ちないためには穴のルート2倍の長さ(面積は2倍)が必要になってしまいますので、当然...

 

♦ ルーローの三角形と定幅図形

1.自動車のタイヤは丸くないといけない?

 ピラミッドを造った時、大きな石をどうやって運んだのでしょうか?多分、コロを使ったと思われています。丸太を何本も並べ、少し移動すると、最後の丸太を一番前に運び、またその分だけ移動する、という気の遠くなるような作業の連続だったのです。台に車軸を付けるという素晴らしいアイデアに基づく今の自動車の原型が発明されたのは、この労働集約型作業から人間を解放したい一心からだったのでしょう。

 さて、車は丸い?コロも丸いから当然丸い、と思っている人が多いと思います。もちろん、本物のタイヤは良く見ると、接地面が大分平らになっています。しかし、ここでの話はそのような具体的な話ではなく、丸以外にガタガタさせずに物を移動することのできる曲線はないのか?という純粋に幾何学の原理的な話題なのです。この曲線はいくらでもあり、昔から定幅図形(または等幅図形)と呼ばれ知られています。有名なのは下図に示すルーローの三角形です。一見、これを回したらガタガタしそうですが、実はそんなことはありません。定幅図形であり、みごとにコロの役割を果たすのです。

図. ルーローの三角形

 ルーローの三角形はドリルで四角い穴を開ける時に使われています。完全に四角にはならないのですが、角がちょっと丸くなる程度なので実用上はとても便利です。この図形の拡張版はルーローの多角形であり、奇数が基本です。つまり、この型のドリルで開けられる穴は正方形、六角形、八角形…に限られるとつい最近まで信じられていました。この概念を破り、奇数角形の穴を開けるドリルを開発したのが宮城県立がんセンターの佐藤郁郎先生です。理学博士で数学者の秋山仁先生や私と一緒に東北大金属材料研究所のテクニカルセンターにお願いして、この三角形を開けるドリルを作っていただきました(正確にいうと「藤原・掛谷の二角形」を活用して三角形の穴を開けるドリルの開発を行ったのです)。下の写真が検証場面です。この延長で五角形や七角形も可能になりました。

写真説明ドリル開発における検証場面、写真右が筆者、中央は秋山氏

 ルーローの三角形はロータリーエンジンのローターの基本になっていることでも良く知られています。余談ですが、ロータリーエンジンは日本語です。英語では発明者にちなんで「Wankel engine」と呼びます。英語の「rotary engine」は航空機用の、エンジンがプロペラと一緒に回転するレシプロエンジンを指すことが多いので注意しないといけません。

2.マンホールの蓋の最適形状は?

 マンホールの蓋(ふた)の形状は当然円形であると思っている人が多いと思いますが、そんな必要はないのです。マンホールの蓋の設計指針は、穴の大きさに比べて蓋がぎりぎり小さくても落ちないことです。円形はこの条件を満たしています。正方形の蓋を考えればすぐに分かるように、それが落ちないためには穴のルート2倍の長さ(面積は2倍)が必要になってしまいますので、当然、こんな無駄な正方形とか長方形の蓋は存在しません。なるべく軽るくするためとか、蓋を取らずに穴の中を見るためなどの理由からメッシュになったりしている蓋もあります。ここで、ルーローの多角形を使えば、円形でなくても落ちない蓋ができることになります。

 さらに、同じ幅なら、ルーローの多角形の方が円形に比べて面積が小さい、つまり、安く作れるという特徴があります。穴に入っていく人の断面は丸というよりは楕円(肩幅方向に長い)なため、経済性を考えるとルーローの多角形がマンホールの蓋に最適という結論になります。もちろん、見た目や使い勝手、作りやすさなどから考えると、幾何学だけでは決められない要素もありますが…。

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この記事の著者

川添 良幸

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