トップが毎日、自ら現場に出向く 人材育成・組織・マネジメント(その12)

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人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説します。第12回目となります。

◆ トップが変わらなければ現場も変わらず

1. 現場の状況は机上では分からない

 パソコンが誰にも与えられ、画面一つで何でも分かるシステムなどが導入されると、ますます上司が製造現場に出向く機会がなくなりつつあるようです。確かにパソコンが事務ツールとして普及した現在は、日増しに溢(あふ)れんばかりの情報が津波のように雪崩れ込んでいます。しかも必要な情報ではなく、カーボンコピー(CC)であまり関係のないものが大半を占めてしまい、肝心な情報が見つけにくい状況になっています。このCCによる配信は困ったもので、単なる情報をお知らせしますというだけでなく、多くの人に知らせて自分の責任回避をする手段にもなってしまっています。必要な情報は、氷山の見える部分と一緒で、大体1割くらいなものでしょう。現在世界中で毎日発信されているメールの数は日々増殖し、数十億件にもなるそうです。しかもほとんどが迷惑メールであり、本当にムダなことです。

 現場の情報をデータに落とし込むには、かなりの労力と時間が必要です。現場に行き、観察して、問題を発見し、原因を追究して、さらに対策案までやろうとするとかなりの仕事量になってしまいます。しかも情報をデータに変換する時の担当者の主観で、多くの情報がフィルターにかけられ、肝心な情報もカットされ兼ねません。これは観察者の力量に大きく左右されるものですから、本当に必要としている情報が上司の手に入るかは疑問になってきます。

 現場の状況を他人に“ありのままに、あますところなく、ありありと”説明して正確に伝えることは非常に難しいことです。そのような不十分な情報で事を判断し、決断することは無謀な行為であり、結局後始末の仕事が多くなるばかりでしょう。つまり本当に必要で正確な情報は、ご自分の足を使って現場に出向き、現地現物で“手にとって見ること”で得られると考えます。雰囲気、臭い、色彩、物の状態、従業員の表情など数値化してデータにできないものの方が多いはずであり、そこに原因や真因は潜んでいるものです。 

 

2. トップの関心事が現場であることを態度で示す

 トップや上司が自ら現場に出向くということは、自分の時間を重要な物事に使っていることを身体(からだ)と態度で従業員に示すことになります。5Sにうるさいトップであれば、その工場は5Sがしっかりできているはずです。安全にうるさければ、従業員も安全第一の行動を心掛けるようになります。

 それらのことを机上(メール、社内報、通達など)や朝礼だけで訴えても、従業員の心には響きません。現場に出向き、一人ひとりに熱く語りかけながら伝えていくものでないと、本当に伝わらないものでしょう。いつも言い続け、それがいつの間にか習慣化しているようになるくらい、しつこくやるべきことなのです。凸凹だった鉄板が、磨くことで綺麗(きれい)な鏡になるくらい摩(す)り込むと、それがトップの鑑(かがみ)になります。

 

 最近訪問先では、ワークショップ開始の挨拶だけではなく、テーマの説明もトップ自らやって頂くようにしています。従来は改善担当者がやっていたものですが、トップ自ら行なうことで、それらのテーマに関心を示していることを知らしめる狙いもあります。以前はただ結果を見るだけになりそうだったので、トップ自らこのように始めから関わるように変えてみたわけです。

 テーマの説明も、ご自分が十分に理解、納得していないことには説明ができませんので、事前に現場に出向いて、顔を突き合わせて話をするきっかけにしていきます。成果発表の前には、その現場の長が自らテーマの背景と取り組み状況を説明するようにしました。このようにして、トップや上司が現場に出向く仕組みづくりを試みています。ちょっとした手間ですが、これらはかなりの成果になって現れています。特に普段直接トップと話す機会のない従業員には大きな変化がみられ、やる気を出してくれます。給料は目に見えるため、嬉(うれ)しいものですが、上司から仕事を認められることはそれ以上に嬉しいものです。実はこの方法が彼らの動機付けには有効なのです。しかもお金は掛かりませんので、大いに実践してもらいたいことです。

 

3. トップという『冠』を外してみる

 今まであまり現場に姿を見せなかったトップが、いきなり現場に出向きますと従業員はビックリされると思います。彼らにとっては何か叱(しか)られるのではないかと想像してしまうものです。おっかなびっくりでは、せっかく現場に出ても、彼らが心を開かないことには成果も出ることはないでしょう。正確な情報を手に入れるためですので、なるべく自然な状態で臨みたいものです。そのきっかけとして現場では、トップや上司という『冠』を外した方がよいかと考えます。
 ある会社で現場に一向に出ようと...

人材育成

 

【人材育成・組織・マネジメントの考察 連載目次】

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「人材育成・組織・マネジメント」をテーマに連載で解説します。第12回目となります。

◆ トップが変わらなければ現場も変わらず

1. 現場の状況は机上では分からない

 パソコンが誰にも与えられ、画面一つで何でも分かるシステムなどが導入されると、ますます上司が製造現場に出向く機会がなくなりつつあるようです。確かにパソコンが事務ツールとして普及した現在は、日増しに溢(あふ)れんばかりの情報が津波のように雪崩れ込んでいます。しかも必要な情報ではなく、カーボンコピー(CC)であまり関係のないものが大半を占めてしまい、肝心な情報が見つけにくい状況になっています。このCCによる配信は困ったもので、単なる情報をお知らせしますというだけでなく、多くの人に知らせて自分の責任回避をする手段にもなってしまっています。必要な情報は、氷山の見える部分と一緒で、大体1割くらいなものでしょう。現在世界中で毎日発信されているメールの数は日々増殖し、数十億件にもなるそうです。しかもほとんどが迷惑メールであり、本当にムダなことです。

 現場の情報をデータに落とし込むには、かなりの労力と時間が必要です。現場に行き、観察して、問題を発見し、原因を追究して、さらに対策案までやろうとするとかなりの仕事量になってしまいます。しかも情報をデータに変換する時の担当者の主観で、多くの情報がフィルターにかけられ、肝心な情報もカットされ兼ねません。これは観察者の力量に大きく左右されるものですから、本当に必要としている情報が上司の手に入るかは疑問になってきます。

 現場の状況を他人に“ありのままに、あますところなく、ありありと”説明して正確に伝えることは非常に難しいことです。そのような不十分な情報で事を判断し、決断することは無謀な行為であり、結局後始末の仕事が多くなるばかりでしょう。つまり本当に必要で正確な情報は、ご自分の足を使って現場に出向き、現地現物で“手にとって見ること”で得られると考えます。雰囲気、臭い、色彩、物の状態、従業員の表情など数値化してデータにできないものの方が多いはずであり、そこに原因や真因は潜んでいるものです。 

 

2. トップの関心事が現場であることを態度で示す

 トップや上司が自ら現場に出向くということは、自分の時間を重要な物事に使っていることを身体(からだ)と態度で従業員に示すことになります。5Sにうるさいトップであれば、その工場は5Sがしっかりできているはずです。安全にうるさければ、従業員も安全第一の行動を心掛けるようになります。

 それらのことを机上(メール、社内報、通達など)や朝礼だけで訴えても、従業員の心には響きません。現場に出向き、一人ひとりに熱く語りかけながら伝えていくものでないと、本当に伝わらないものでしょう。いつも言い続け、それがいつの間にか習慣化しているようになるくらい、しつこくやるべきことなのです。凸凹だった鉄板が、磨くことで綺麗(きれい)な鏡になるくらい摩(す)り込むと、それがトップの鑑(かがみ)になります。

 

 最近訪問先では、ワークショップ開始の挨拶だけではなく、テーマの説明もトップ自らやって頂くようにしています。従来は改善担当者がやっていたものですが、トップ自ら行なうことで、それらのテーマに関心を示していることを知らしめる狙いもあります。以前はただ結果を見るだけになりそうだったので、トップ自らこのように始めから関わるように変えてみたわけです。

 テーマの説明も、ご自分が十分に理解、納得していないことには説明ができませんので、事前に現場に出向いて、顔を突き合わせて話をするきっかけにしていきます。成果発表の前には、その現場の長が自らテーマの背景と取り組み状況を説明するようにしました。このようにして、トップや上司が現場に出向く仕組みづくりを試みています。ちょっとした手間ですが、これらはかなりの成果になって現れています。特に普段直接トップと話す機会のない従業員には大きな変化がみられ、やる気を出してくれます。給料は目に見えるため、嬉(うれ)しいものですが、上司から仕事を認められることはそれ以上に嬉しいものです。実はこの方法が彼らの動機付けには有効なのです。しかもお金は掛かりませんので、大いに実践してもらいたいことです。

 

3. トップという『冠』を外してみる

 今まであまり現場に姿を見せなかったトップが、いきなり現場に出向きますと従業員はビックリされると思います。彼らにとっては何か叱(しか)られるのではないかと想像してしまうものです。おっかなびっくりでは、せっかく現場に出ても、彼らが心を開かないことには成果も出ることはないでしょう。正確な情報を手に入れるためですので、なるべく自然な状態で臨みたいものです。そのきっかけとして現場では、トップや上司という『冠』を外した方がよいかと考えます。
 ある会社で現場に一向に出ようとしなかったトップを説得した際、使った手法を紹介します。ワークショップを開催した時に、初めて従業員と一緒となって改善する前に「私はこれからトップという帽子を外して、皆さんと一緒に改善を行います」と宣言してもらいました。これには思わず皆さんから拍手と笑顔が沸き起こりました。

 社内でも見えない壁があり、身近なところほど大きな壁になっているようです。しかもそれになかなか気づかないのは、第三者から見ると辛いものがあります。まずトップや上司から変わることで、はじめて従業員や部下も変わるものです。その勇気が求められます。あとからみると、ほんのちょっとした勇気に過ぎないことが分かります。そのちょっとした勇気をもっと使って、会社の雰囲気を変えてほしいと思います。山頂を目指して登山する時には辛いものがありますが、会社ではどこが山頂かも分かりません。でもちょっとした勇気を出すことで、その山頂も見えてきます。山頂に登れば、反対側の下界も見渡せるようになり、一気に視界が広がります。ちょっとした勇気を出してみてはいかがでしょう。

 

 次回に続きます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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