からくり改善とは:現場改善のヒント(その4)

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【改善のヒント連載目次】

 

◆ からくり改善のすすめ:明るく、楽しく、元気に

1. お金を掛けずに知恵を出す

 日本は過去にオイルショックやバブル崩壊などの危機が降りかかるたびに、改善をしながら耐え忍んできました。この危機というのは、危険(ピンチ)と機会(チャンス)を同時に含んでいる含蓄のある言葉です。これをただピンチとして頭を抱えて考え込んでしまうのか、はたまたチャンスに捉えて胸を張るかは、本当にサジ加減のようなちょっとしたことです。前向きに捉えるだけで、ライバルとの差別化戦略を図ったり、競争力をさらに身に付けたりすることが可能になります。何でもどう捉えるかは考え方一つだと思います。

 筆者が数年前から講師をしている講座が、最近「からくり改善」講座となったこともあり、今回はそれを基にご紹介しましょう。この講座は、元々お金を掛けないで改善をするヒント集(ツール、手法、考え方など)を紹介していましたが、遊び心を持ちながらもっと楽しく改善をしようということから、からくりの話や歴史なども取り入れた講座に替わりました。基本はやはりお金を掛けずに、現場の皆さんの知恵を出し合いながら自ら手を下して改善を行い、ムダの排除だけでなく、生産性向上さらには、現場の雰囲気までも変えていこうというものです。「からくり」は江戸時代に大いに見世物として流行りましたが、近年、企業においては特に自動車関連やプラント関係で盛んに導入されつつあります。

 「からくり」に似た言葉で「あやつり」がありますが、その違いは「あやつり」とはあくまでも『リアルタイムで操作すること』であり「からくり」とは『動きを予(あらかじめ)め組むこと、あるいは仕組んだもの』です。マリオネットは糸や操っている人が丸見えですから「あやつり人形」といい、茶運び人形などは外見では糸や歯車などの仕掛けは見えませんので「からくり人形」と呼ばれます。「からくり改善」は、現場にあるものに「からくり」の知恵を加えながら、ワイガヤ方式で改善を進めることにより、現場の皆さんたちの潜在能力を刺激しながら、明るく楽しく元気に改善が継続できるようにするものです。

 

2. からくりの原理原則を使い、やってみよう

 不景気になるとすぐに経費削減の指示がトップから出るのは、どの会社も当たり前のことですが、そこで現場の皆さんは意気消沈してしまうのではなく、あるものを上手く使うことを考えるようにすべきです。ある設備や機械を新規に購入する場合よりも、本当に必要な機能を絞り込んで機能部品だけを入手し、後は自分たちで作り上げると、市販のものより1/10以下でできるものです。そのヒントが「からくり」に多く含まれています。さらにあったらいいではなく、本当に必要かという基準で考えます。

 「からくり」をやる前にまず頭を柔らかくする必要があります。それはほとんどの人の頭が、思い込みで凝り固まっているので自由な発想ができないのです。「からくり」の原理はいくつかありますが、その代表的なものが「テコの応用」です。テコは、少ない力で大きなものを動かすことや、逆に大きな動きを小さくすることもできます。これを使ったものに、ハサミ、バール、ホッチキス、栓抜き、箒(ほうき)、獅子脅しなどがあります。「滑車」は、力の大きさと方向や距離を変えるものです。これを使ったものは、バランサー、クレーン、自動車のハンドル、さらに何とドライバー(ネジ回し)もこの原理になりますが、なるほどと思いませんか。さらに代表的なものとして、動きや方向を変える機構として「カム・リンク・ネジ」があります。「カム」は、携帯のバイブレーターや電気髭(ひげ)剃りなど。「リンク」は、ドラフターやパンタグラフなど。「ネジ」は、車のジャッキ(左右が右ネジと左ネジになっているので、よく観察してください)、万力などです。さらに磁石、気圧、水圧、毛細管現象など、いずれもなるほどと思うものですが、現場をもう一度意識しながら見渡せばいくらでも原理原則は見つかるものです。

 市販品や出来合いのものを購入するという考えから、必要なものは自分たちで考えて作ってしまおうという意識改革を現場で掘り起こしていきます。なかったらあるもので「何とかやってやろう」という前向きな考えで取り組むことです。逆に何もないから何でもできるという発想を持つことです。私たちの潜在能力は無限の宝のようなものですが、私たちの生きている間しか賞味期限がありませんので、今使わない手はありません。

 

3. できることから始め、続けることが大切

 「からくり」を使うコツは、何でもよいからまず作ってみることです。小さなことでも、形ができると自信がつきます。この自信を自分のものにすることで、ライン全部を「からくり」を使ったものに替えてしまった人もいるほどです。もう面白くて時間が経つのも忘れるほど...

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【改善のヒント連載目次】

 

◆ からくり改善のすすめ:明るく、楽しく、元気に

1. お金を掛けずに知恵を出す

 日本は過去にオイルショックやバブル崩壊などの危機が降りかかるたびに、改善をしながら耐え忍んできました。この危機というのは、危険(ピンチ)と機会(チャンス)を同時に含んでいる含蓄のある言葉です。これをただピンチとして頭を抱えて考え込んでしまうのか、はたまたチャンスに捉えて胸を張るかは、本当にサジ加減のようなちょっとしたことです。前向きに捉えるだけで、ライバルとの差別化戦略を図ったり、競争力をさらに身に付けたりすることが可能になります。何でもどう捉えるかは考え方一つだと思います。

 筆者が数年前から講師をしている講座が、最近「からくり改善」講座となったこともあり、今回はそれを基にご紹介しましょう。この講座は、元々お金を掛けないで改善をするヒント集(ツール、手法、考え方など)を紹介していましたが、遊び心を持ちながらもっと楽しく改善をしようということから、からくりの話や歴史なども取り入れた講座に替わりました。基本はやはりお金を掛けずに、現場の皆さんの知恵を出し合いながら自ら手を下して改善を行い、ムダの排除だけでなく、生産性向上さらには、現場の雰囲気までも変えていこうというものです。「からくり」は江戸時代に大いに見世物として流行りましたが、近年、企業においては特に自動車関連やプラント関係で盛んに導入されつつあります。

 「からくり」に似た言葉で「あやつり」がありますが、その違いは「あやつり」とはあくまでも『リアルタイムで操作すること』であり「からくり」とは『動きを予(あらかじめ)め組むこと、あるいは仕組んだもの』です。マリオネットは糸や操っている人が丸見えですから「あやつり人形」といい、茶運び人形などは外見では糸や歯車などの仕掛けは見えませんので「からくり人形」と呼ばれます。「からくり改善」は、現場にあるものに「からくり」の知恵を加えながら、ワイガヤ方式で改善を進めることにより、現場の皆さんたちの潜在能力を刺激しながら、明るく楽しく元気に改善が継続できるようにするものです。

 

2. からくりの原理原則を使い、やってみよう

 不景気になるとすぐに経費削減の指示がトップから出るのは、どの会社も当たり前のことですが、そこで現場の皆さんは意気消沈してしまうのではなく、あるものを上手く使うことを考えるようにすべきです。ある設備や機械を新規に購入する場合よりも、本当に必要な機能を絞り込んで機能部品だけを入手し、後は自分たちで作り上げると、市販のものより1/10以下でできるものです。そのヒントが「からくり」に多く含まれています。さらにあったらいいではなく、本当に必要かという基準で考えます。

 「からくり」をやる前にまず頭を柔らかくする必要があります。それはほとんどの人の頭が、思い込みで凝り固まっているので自由な発想ができないのです。「からくり」の原理はいくつかありますが、その代表的なものが「テコの応用」です。テコは、少ない力で大きなものを動かすことや、逆に大きな動きを小さくすることもできます。これを使ったものに、ハサミ、バール、ホッチキス、栓抜き、箒(ほうき)、獅子脅しなどがあります。「滑車」は、力の大きさと方向や距離を変えるものです。これを使ったものは、バランサー、クレーン、自動車のハンドル、さらに何とドライバー(ネジ回し)もこの原理になりますが、なるほどと思いませんか。さらに代表的なものとして、動きや方向を変える機構として「カム・リンク・ネジ」があります。「カム」は、携帯のバイブレーターや電気髭(ひげ)剃りなど。「リンク」は、ドラフターやパンタグラフなど。「ネジ」は、車のジャッキ(左右が右ネジと左ネジになっているので、よく観察してください)、万力などです。さらに磁石、気圧、水圧、毛細管現象など、いずれもなるほどと思うものですが、現場をもう一度意識しながら見渡せばいくらでも原理原則は見つかるものです。

 市販品や出来合いのものを購入するという考えから、必要なものは自分たちで考えて作ってしまおうという意識改革を現場で掘り起こしていきます。なかったらあるもので「何とかやってやろう」という前向きな考えで取り組むことです。逆に何もないから何でもできるという発想を持つことです。私たちの潜在能力は無限の宝のようなものですが、私たちの生きている間しか賞味期限がありませんので、今使わない手はありません。

 

3. できることから始め、続けることが大切

 「からくり」を使うコツは、何でもよいからまず作ってみることです。小さなことでも、形ができると自信がつきます。この自信を自分のものにすることで、ライン全部を「からくり」を使ったものに替えてしまった人もいるほどです。もう面白くて時間が経つのも忘れるほどだそうです。しかもちょっと考えると、すぐにヒントが連鎖反応のように出るようになってくるそうです。「好きこそはものの上手なれ」とは、いい諺(ことわざ)ですねえ。逆に好きになると、いくらでもヒントがヒントを呼んでくるようになるのでしょう。このようになるには、できるようになるまで諦めないでやってみることです。人間所詮(しょせん)できることしかできないですから、まずはできるところから始めていくことです。小さなことができたということが、自信を持つために重要となりますので、まず小さな達成感をしっかり味わって頂くことをお勧めします。

 「からくり」の図面をまとめた江戸時代の有名な本「機功図彙(からくりずい:からくりの図面を集めたものという意味)」がありますが、この本の「訓」として書かれていることに「子供のおもちゃ作りと大きな違いはないが、人によっては創造力や洞察力の育成の一助となるだろう」と記載されていました。皆で楽しみながらできるまでやり続けることで、何事もやり遂げることのできる素晴らしい職場ができるものと確信します。

 

 次回に続きます。

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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