流すことよりも止めること 品質を考える(その1)

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品質

 

◆ 流すことよりも止めることが大事

1. 品質を考える:車の3つの機能は

 車の3つの機能とは「走る」「曲がる」そして「止まる」です。ここで最も重要なものが「止まる」ことですが、意外だと思う人もいるかもしれません。車の性能をコマーシャルなどで強くアピールしているのはエンジンの排気量、馬力、コーナーリングなどの動力性能や燃費が良く環境に配慮したことがほとんどで、ブレーキ性能などの制動力については少しも宣伝されません。冬時になるとタイヤメーカーが、雪やアイスバーンでの制動能力をアピールする程度で、車メーカーが「止まる」ことについては何もありません。最近では障害物や暗闇でも人や動物を検知して、自動的にエンジンを止めたり、ブレーキが掛かるという素晴らしい性能を持ったものが紹介されていますが、残念ながら最高級車のみの特別仕様に留まっているほど、一般的にはあまり「止まる」ことは関心ごとではないようです。

 しかし、走ることも曲がることも、それらの性能を引き出すためには「止まる」ということが前提条件として、しっかり確保されないことには成り立たないのです。いくら速度が出せるといっても、ブレーキが利かないようではすぐに目的には行くことができず、天国に一直線ですね。事故を起こさないために、車自身による予知や予防の性能を求める声がますます高まってきていますが、なにせ人の命のスペアはないのですから。

 

2. 品質を考える:生産の3つの機能は

 生産の3つの機能とは何でしょうか?「見える」「流れる」そして「止める」です。最近はこのなかで「見える」というキーワードがクローズアップされてきて、現場の状態の正常と異常が良くわかるようにして、異常のみを管理していくという「見える化」のことが多く紹介されるようになっています。工場においては物を流して生産を行い、付加価値を高めていくことが大切なわけで、多くの企業が「流れる」ことに注力をおいた生産活動が行われています。

 しかし、この「流れる」が最も強い機能になりますと、少々の不良が含まれていても兎に角後工程に押し込んで流してしまい、最終工程での抜き取り検査を行っても見事に潜り抜けて出荷されると、結局はお客様でクレームとして発見されることになってしまいます。このようなことが、最近食品会社などをはじめ多くの企業で頻繁に発生していますが、最近の情報のオープン化で隠せなくなってきています。誰もが対岸の火事のように他人事で済ましていますが、本当に明日は我が身となりかねません。

 

3. 品質を考える:100-1=0は正しい

 生産でも、車と同様に流すことよりも「止める」ことの方が重要になってきます。100-1=99 の計算式は算数的には正しいかもしれませんが、ことにモノづくりや医療など私たち社会生活については当てはまらなくなります。工場の1つのミスや一人の作業ミスによる品質不良が一気に社会に広まり、会社存亡の命取りもなる情報化の時代になってきているということです。

 つまり、100-1=0 の式になるわけです。つまり、一つの不良でも後には流さないということです。ですから、良い品質の物を後工程やお客様に確実に提供するには、100=100-0 の式でなければなりません。つまり、ミスや品質不良は、後工程やお客様には流してはいけないし、そのためには前工程から不良を受け取らない、自工程では不良を造らないという思想が重要になってきます。

 

4. 品質を考える:人を責めずにやり方を攻める

 この思想は、今から80年も前にあの豊田佐吉が考え出したものです。彼が製作した自動織機において、横糸を通すシャトルの糸が切れたときに女工さんが機械を止めて、糸を継ぎ直していましたが、何時間もシャトルの動きを見ていると誰でも眠くなるのは当然です。糸が切れたときに居眠りしてしまうと、多くの横糸なしの不良と廃棄処分が生じます。そのときに、彼が偉かったのは「人を責めずに、やり方を攻める」という考えを持っていたことです。

 それは眠っていた女工さんのせいにしたのではなく、機械を「自働」で止めるというやり方に変えて改善したのです。それは糸が切れた瞬間に機械が停止し、それを機械が人に報知するように仕組んだわけです。そうなると、一台一台に就いていた女工さんは糸が切れたときに初めてその機械のところに行き、糸を修繕するだけになります。女工さんは上司から怒られることもなく、ただ監視の眠い作業からも開放されたわけです。またこのように機械が止まったという異常管理だけになりますと、女工さんは監視作業からもっと付加価値のある仕事に従事でき、少人化もできるわけです。

 

 この考え方が、ニンベンのついた「自働化」の考え方になっています。大切なのは、不良やミスが発生したときの対応です。正直に隠さないで、オープンにして作業を直ちに止めることです。現場の人たちの心構えに掛かってきます。それには、上司がその職場の雰囲気や作業環境を整備しなければなりません。上司が変わらないことには、現場は変わりません。この考え方は、機械や設備に人間の知恵をつけるといった意味にも用いられます。改めて当時からの豊田佐吉の「人を大切にする」「人間性尊重」といったモノづくりの思想には、本当に頭が下がります。

 逆に、欧米では作業ミスや不良発生などがあった場合には、それらはオペレータのせいにして、上...

品質

 

◆ 流すことよりも止めることが大事

1. 品質を考える:車の3つの機能は

 車の3つの機能とは「走る」「曲がる」そして「止まる」です。ここで最も重要なものが「止まる」ことですが、意外だと思う人もいるかもしれません。車の性能をコマーシャルなどで強くアピールしているのはエンジンの排気量、馬力、コーナーリングなどの動力性能や燃費が良く環境に配慮したことがほとんどで、ブレーキ性能などの制動力については少しも宣伝されません。冬時になるとタイヤメーカーが、雪やアイスバーンでの制動能力をアピールする程度で、車メーカーが「止まる」ことについては何もありません。最近では障害物や暗闇でも人や動物を検知して、自動的にエンジンを止めたり、ブレーキが掛かるという素晴らしい性能を持ったものが紹介されていますが、残念ながら最高級車のみの特別仕様に留まっているほど、一般的にはあまり「止まる」ことは関心ごとではないようです。

 しかし、走ることも曲がることも、それらの性能を引き出すためには「止まる」ということが前提条件として、しっかり確保されないことには成り立たないのです。いくら速度が出せるといっても、ブレーキが利かないようではすぐに目的には行くことができず、天国に一直線ですね。事故を起こさないために、車自身による予知や予防の性能を求める声がますます高まってきていますが、なにせ人の命のスペアはないのですから。

 

2. 品質を考える:生産の3つの機能は

 生産の3つの機能とは何でしょうか?「見える」「流れる」そして「止める」です。最近はこのなかで「見える」というキーワードがクローズアップされてきて、現場の状態の正常と異常が良くわかるようにして、異常のみを管理していくという「見える化」のことが多く紹介されるようになっています。工場においては物を流して生産を行い、付加価値を高めていくことが大切なわけで、多くの企業が「流れる」ことに注力をおいた生産活動が行われています。

 しかし、この「流れる」が最も強い機能になりますと、少々の不良が含まれていても兎に角後工程に押し込んで流してしまい、最終工程での抜き取り検査を行っても見事に潜り抜けて出荷されると、結局はお客様でクレームとして発見されることになってしまいます。このようなことが、最近食品会社などをはじめ多くの企業で頻繁に発生していますが、最近の情報のオープン化で隠せなくなってきています。誰もが対岸の火事のように他人事で済ましていますが、本当に明日は我が身となりかねません。

 

3. 品質を考える:100-1=0は正しい

 生産でも、車と同様に流すことよりも「止める」ことの方が重要になってきます。100-1=99 の計算式は算数的には正しいかもしれませんが、ことにモノづくりや医療など私たち社会生活については当てはまらなくなります。工場の1つのミスや一人の作業ミスによる品質不良が一気に社会に広まり、会社存亡の命取りもなる情報化の時代になってきているということです。

 つまり、100-1=0 の式になるわけです。つまり、一つの不良でも後には流さないということです。ですから、良い品質の物を後工程やお客様に確実に提供するには、100=100-0 の式でなければなりません。つまり、ミスや品質不良は、後工程やお客様には流してはいけないし、そのためには前工程から不良を受け取らない、自工程では不良を造らないという思想が重要になってきます。

 

4. 品質を考える:人を責めずにやり方を攻める

 この思想は、今から80年も前にあの豊田佐吉が考え出したものです。彼が製作した自動織機において、横糸を通すシャトルの糸が切れたときに女工さんが機械を止めて、糸を継ぎ直していましたが、何時間もシャトルの動きを見ていると誰でも眠くなるのは当然です。糸が切れたときに居眠りしてしまうと、多くの横糸なしの不良と廃棄処分が生じます。そのときに、彼が偉かったのは「人を責めずに、やり方を攻める」という考えを持っていたことです。

 それは眠っていた女工さんのせいにしたのではなく、機械を「自働」で止めるというやり方に変えて改善したのです。それは糸が切れた瞬間に機械が停止し、それを機械が人に報知するように仕組んだわけです。そうなると、一台一台に就いていた女工さんは糸が切れたときに初めてその機械のところに行き、糸を修繕するだけになります。女工さんは上司から怒られることもなく、ただ監視の眠い作業からも開放されたわけです。またこのように機械が止まったという異常管理だけになりますと、女工さんは監視作業からもっと付加価値のある仕事に従事でき、少人化もできるわけです。

 

 この考え方が、ニンベンのついた「自働化」の考え方になっています。大切なのは、不良やミスが発生したときの対応です。正直に隠さないで、オープンにして作業を直ちに止めることです。現場の人たちの心構えに掛かってきます。それには、上司がその職場の雰囲気や作業環境を整備しなければなりません。上司が変わらないことには、現場は変わりません。この考え方は、機械や設備に人間の知恵をつけるといった意味にも用いられます。改めて当時からの豊田佐吉の「人を大切にする」「人間性尊重」といったモノづくりの思想には、本当に頭が下がります。

 逆に、欧米では作業ミスや不良発生などがあった場合には、それらはオペレータのせいにして、上司が彼らを責めるというスタイルが多くの会社に根強く残っています。このため、ミスや不良が出た場合でもオペレータは正直に報告をすることはなく、不良を捨てたりミスを隠したり、ウソの報告やデータの捏造をするなどの対抗手段を取り、自己防衛に励んでいます。挙句の果ては、捨て台詞を吐いてお互いに気分の悪くなったところで会社を辞めていくという悪魔のサイクルが回っています。

 あるクライアントから某チョコレート工場で同様なことがあり、怒った女性が溶けたチョコレートの中に生理用品のタンポンを投げ込み、それがお客様で発見され大騒ぎになり、結局その上司がクビになったということを聞きました。このようにお客様不在のモノづくりになっているところが、実に多いというのが現状ですが、この考え方を変えていくのはかなりの労力を要します。「人を責めるよりもやり方を変える」ということに、そのエネルギーを上手に結集して不具合が発生しないように導きたいものです。「モノづくり」は「人づくり」とよく言われますが、なるほどと実感せざるを得ません。

 

 次回に続きます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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