【計測の精度と不確かさとは 連載目次】
「計測の精度と不確かさとは(その1~2)」では、“精度”に関する用語の定義がまちまちであること、計測条件の影響を見積もることが難しいことを解説しました。今回は、それ以外のいくつかの課題を挙げ、“精度”をベースとした計測信頼性の評価法全般の課題について解説します。
【この連載の前回:計測の精度と不確かさとは(その2)へのリンク】
3.「精度」の課題
(1)「精度」の定義
“精度”の定義には、次のような矛盾があることが知られています。(以前から理解されていましたが、用語の使いやすさから、慣用的に使われてきています。)このことは、何を“真値”とするかという前提をあいまいにすることになります。
◆「精度」は測定できない
- (a)(精度)は(誤差)の大きさで評価される
- (b)(誤差)=(測定値)―(真値)と定義されている
- (c)(真値)は知ることができない((真値)を知りたくて計測している)
◆「真値」の定義が不明確
- (d)「ある量を誤差の伴わない方法で測定した場合の値」(JIS C1002 電子測定器用語)
- (e)「量の定義と整合する量の値」(JISZ8103:2019計測用語)
(2)「精度」の計算・表現方法
通常、精度は範囲の大きさで表現されますが、
- 誤差がどのように分布しているのか
- 計測条件の影響を、影響要因との関係でどのように表すか
- 系統誤差(かたより)と偶然誤差(ばらつき)を、どのように表すか
といった内容について、どのように計算を行えば良いか、またそれをどのように表現すればよいかという規定はありません。このことは、計測の信頼性の状況を理解し、それを外部と共有していく場合に不都合が生じます。
(3)「精度」の課題
これまでの説明から、計測の信頼性を見る上で、“精度”という概念をベースとした方法では、次の点が課題となり、評価の厳密性が担保されにくい状況になっていることが分ります。
- “精度”の用語、意味の捉え方がまちまちである
- “精度”の定義があいまいである
- 計測条件の影響を見積もる必要があるが、難しい
- 計測条件の影響の計算法・表現法の規定がない
こうした状況は、例えば次のような高い精度を求められるアプリケーションに関して問題となり、ビジネスの進歩やグローバル化...
- 生産量の取引に計測値が使われる場合
- 常用校正検測器の校正を行う場合
- 試験結果が公的試験や値付けなどに用いられる場合
次回に続きます。