【中小規模組織でのプロジェクト管理システムの課題 連載目次】
前回のその2に続いて解説します。
5. メトリクスによるプロジェクト管理の資産化
個人的に見積もりをしたりスケジュールを書いたりするだけでは、どんなに MSP などのツールを使ったとしても、そのノウハウを他の人たちへと水平展開するのは難しいのです。実際、他人が作ったプロジェクトのガントチャートを見ても、どこをどう活用できるかはわからないでしょう。参考にはなるところはあるかもしれませんが、その場合でも、見る側の個人的なスキルやセンスで決まります。
このような状況を越えて、プロジェクトの結果を次々と蓄積でき、蓄積したものがいつでも使える状態になります。それが資産化です。資産化の仕組みができていれば、あるプロジェクトでやったことを他のプロジェクトに水平展開することができます。過去の経験を流用することも可能です。
この資産化の仕組みを支えるのがメトリクスです。メトリクスとは、数値化して定量的な管理を可能にすることです。資産化の仕組みを作るために、メトリクスを使った、可視化、パターン化、モデル化という3つのステップが必要となります。それぞれのステップについて解説します。
(1) 可視化(見える化)
プロジェクトで計画している作業や進捗度合いなどを適切に把握し、関係者で共有するためには、プロジェクトの活動そのものを可視化(見える化)することが最も効果的です。「自分のことは自分でわかっているから可視化は必要ない」という主張を聞くことがありますが、重要なのは、関係者全員がプロジェクトの状況に対して共通認識を持つことです。そのための手段が可視化です。
MSPで見ることができるガントチャートなども可視化のひとつですが、それだけでは不十分です。プロジェクト活動を包括的に把握するためには、少なくとも基本メトリクスセットとよぶ4つの要素を可視化する必要があります。プロジェクトを可視化するための必要最小限のメトリクスです。
可視化は、標準のMSPでは弱い部分ですが、出力を工夫することにより、基本メトリクスセットの工数とタスク(作業要素)を可視化することが可能です。作業成果物と不具合・課題についてはMSPとは別の仕組みが必要となります。基本的に、作業成果物は成果物管理の仕組み、不具合・課題は不具合管理や課題管理の仕組みと関連づけて可視化します。
(2) パターン化
下図の左のグラフは、時間軸で見て、開発工程ごとにプロジェクトがどのような工数のかけ方をしたのかをグラフ化したものです。プロジェクトの開発工程ごとの工数パターンです。そして、その右のグラフは、別のプロジェクトの工数パターンです。これを見ると、この2つのプロジェクトはかかった工数と期間はほぼ同じですが、工数のかけ方はまったく別だということがわかります。
このように、パターン化とは相違点や類似点を明らかにするための「型(パターン)」を作るということです。さらに、それぞれのパターンに成功と失敗というプロジェクトの結果を関連づけます。このグラフでは、左側はほぼ計画通りにリリースして、リリースした後も品質問題などが起きなかったプロジェクトです。そして、右側のプロジェクトは日程も工数も計画を超過しただけでなく、リリース後も品質問題に悩まされたプロジェクトです。つまり、左は成功したプロジェクトで、右は失敗プロジェクトです。このような結果とリンクしたパターン化ができれば、進行中のプロジェクトを同じ工数パターンであらわしたとき、左のパターンと同じであれば成功する可能性が高いだろうし、右のパターンと同じであれば失敗する可能性が高くなるのです。
(3) モデル化
パターン化により成功プロジェクトの「型」がわかるので、成功プロジェクトを集めたものから共通の特徴を抽出します。これがモデル化です。こうやって抽出されたものは成功のためのお手本(モデル)となります。プロジェクト管理において、計画にしろ進捗にしろ、過去事例を参考にしたり、他への水平展開を行いたいという要求は強いのですが、そのためには、どのような「型」を目指せばいいのかというお手本(モデル)が明確で、進めようとしているプロジェクトがどのような「型」を持ったものなのかが把握できる仕組みが必要となります。すべてのプロジェクトはこのモデルをまねて計画を作成し、モデルをまねて進捗管理をします。まねるための基準がモデルという意味で、基準モデルとも呼んでいます。
メトリクスによるモデル化で、プロジェクト管理のノウハウを誰もが使える資産になります。前述したように、メ...