前回のゼロ・ベース経営のすすめ、7ゼロ生産実現マニュアル(その10)に続けて解説します。
『7ゼロ生産』実現マニュアル~生産性7つの阻害要因とゼロベース思想~
第1章7ゼロ生産意識改革PICQMDS(ピックエムディーエス)【第1章 目次】
1.ゼロ・ベース経営のすすめ
2.7つのゼロ・ベース-PICQMDS-
3.問題意識から疑問意識へ
4.7ゼロ生産5つの指針
5.7ゼロ生産発想法← 今回の解説記事
5-1.切替えゼロ発想法一多品種化:(Products)
5-2.在庫ゼロ発想法一問題表面化:(Inventory)
5-3.ムダゼロ発想法ーコスト削減:(Cost)
5-4.不良ゼロ発想法 一品質保証:(Quality)
5-5.故障ゼロ発想法 一生産保全:(Maintenance)
5-6.停滞ゼロ発想法 一短納期化:(Delivery)
5-7.災害ゼロ発想法一安全第一:(Safety)
6.革新のための8つの発想
第1章 7ゼロ生産意識改革PICQMDS(ピックエムディーエス)
5. 7ゼロ生産発想法
5-7.災害ゼロ発想法一安全第一(Safety)
これまで6つのゼロ・ベース発想について述べてきた。しかし、いずれの項目をみても、従来ゼロ・ベースで発想してきたものは1つもない。たとえば在庫も不良も故障においても。それはすべて低減発想法であった。7ゼロの項目の中で唯一、従来からゼロ・ベースの発想をしてきたものがある。それが“災害ゼロ”である。
その昔はどうかわからないが、現在において、災害をゼロ・ベースで発想しない企業や工場はおそらく皆無であろう。それは低減発想法では、いまの時代、世間に通用しないからである。
たとえば、昨年は不慮の事故が発生して、作業者が4人亡くなった。そこで今年は災害1/2とし、“目標:災害1/2作戦・今年は2人殺しましょう”といった企業テーマは絶対にあり得ない。昨年4人亡くなったのは、これは結果であって、あくまでも災害はゼロが基本なのである。
“災害ゼロ”とはあくまで“安全(Safety)”についてのキャッチフレーズである。工場での安全は、大きく3つある。1つは“製品の安全”これはいかに安全性の高い製品を顧客に提供するかということで、製造物責任(PL)とか品質保証などの大きな枠組みの中に組み込まれる。2つには“環境の安全”がある。これは、公害防止であり、地球環境保護でもあり、これは災害ゼロの中でしっかりした対策が立てられなければならない。3つに“人の安全”がある。これは工場で働く人々の安全の確保であり、これも災害ゼロにおける重要テーマとなる。
“災害は忘れた頃にやってくる”という諺があるが、まさにそのとおり。これは別に天災だけをいったのではない。環境や人の安全における人災についても全く同様である。しばらく災害ゼロが続き、ほっと気が緩んだ時に事故などは発生する。そして多くの場合の事故は、後で考えると、まことに基本的なことであったり、そんなばかなといった信じられないようなことが原因となる。
たとえば、重工業メーカーでこんなことが起きた。定盤にべースとなるワークを置いて、作業者がその上でタップ立ての作業をしていた。地上からの高さ約1.5mである。タップ立てを終え、作業者が工具を戻そうとしてワークからポンと飛び下りた。
こんなことは過去何十年も、みんながやってきたこと。何のためらいも、抵抗もなかった。しかし、地上に飛び下りた作業者はその場で引っくり返った。何と、複雑骨折となってしまった。長い間続けてきた災害ゼロの連続日数は、この日に振り出しに戻ってしまった。工場の平均年齢は実に、46歳となっていた。
この事例に見るように、そもそも1.5mの高さから飛び降りる事態も危険でいけないことではあるが、その当時工場の平均年齢20代や30代の時には考えられない事故であった。工場も時とともに物造りの環境が変化する。昨日までごく当たり前だったことが、今では安全を阻害する凶にもなりかねない。これまで、ごく普通に使われてきたフレオン・ガスは、いまや地球温暖化の元凶となっている。工場の安全も時代とともに流れ、移り変わっているのである。だとすれば、シルバー化が急速に進んでいる工場で、高齢者にやさしい工場とはどうあるべきかを考えなければいけない時代にきている。
それはいままでに経験のないことである。そこでは従来の延長線上の発想ではなくて、環境の変化に応じた、新たな発想が要求されているのであり、それこそが災害ゼロの発想法で...
次回に続きます。
【出典】「『7ゼロ生産』実現マニュアル」ジット経営研究所刊 平野裕之著より、ジット経営研究所 古谷誠 編著(編著者のご承諾により連載)