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品質工学会の技術向上委員会で品質工学とその関連分野の用語を定義する活動をしていました.その活動の中で狩野モデルが用語定義の対象となり,品質工学との関係の説明を含めて狩野モデルを定義することになりました.狩野モデルに関しては品質工学との関係を含めて自分なりの定義を持っていたのですが,改めて考えてみると視点の違いによって狩野モデルの説明が変わることに気づいたのです.それをこの事例記事で共有化したいと思います.前回の狩野モデルで説明する品質工学(その1)に続けて解説します.
1. 狩野モデルで説明する品質工学: レーザーの場合
次にレーザーの場合について考えてみます.
レーザーにおけるほしいものyはパワーです.そしてパワ一は当然一元Q,電力投入を増やすことでパワーアップさせることは簡単ですが,同時に耐久性が落ちます.よってロバスト性向上がパワーアップの原動力となります.ロバスト性自体は必要以上に高めてもお客様満足は向上しないので当たり前Qです.よって両者はここでもトレードオフ関係になります.
ここまでは,レーザーのパワーアップの手段を投入電力(入力M)を高くすることとしたのでトレードオフになりましたが,その手段をy=βMのβを高めることとすればエネルギー変換効率の向上となり,熱などの無駄なエネルギーへの変換が減るので耐久性とパワーアップの両立に向かいます.そしてこのエネルギー...
このようにロバスト性をエネルギー変換効率として定義すると一元的Qとなり,ほしいものyとのトレードオフ関係が解消されます.
2. 狩野モデルで説明する品質工学: エネルギー変換効率
次にエネルギー変換効率をVOCの視点で考えてみます.
自動車の燃費を一般製品に拡張すると消費電力となります.ここで一つ気づくことは,家電など一般製品でも消費電力はVOCの一つであることは間違いありませんが,その要求の大きさは自動車ほどは大きくはないということです.おそらく消費電力の少なさだけを売りにしてもお客様満足向上にはつながらないでしょう.
さらに言えば,そもそも燃費を一元的Qにしたところに問題ないかという疑問も湧いてきます.少なくとも技術的な品質定義では“ほしいもの”を一元Qにすべきではないかと思いますが,電力やガソリンなどは目的機能を得るために投入される消費エネルギーなのでよく考えるとこれらは“ほしくないもの”です.
自動車のほしいものは,加速,曲がる,減速,つまり速度ベクトルを変化させることが本質的なほしいものであり,それを一元Qとして定義するのが本筋ではないかとも思うわけです.
次にエネルギー変換効率を“機能レベル/消費エネルギー”と定義し直してみます.こう定義すると燃費が向上したけど加速性能が落ちてしまっては改善とは言えなくなります.そしてこの定義による自動車のエネルギー変換効率はここ10年で10~30%くらいかと思います.
このエネルギー変換効率の進歩の遅さと環境志向が相まって燃費が最重要なVOCになったという理解も可能かと思います.加速の性能向上なしに投入エネルギーを減らすこと自体が価値を持つ製品,それが自動車ということになるわけです.
一方でHDDのエネルギー変換効率の向上を見ると桁違いです.HDDでほしいものは記録容量です.
- 1995年のHDDのエネルギー変換効率=100(MB)/X(mW)
- 2020年のHDDのエネルギー変換効率=1(TB)/X(mW)
1995年レベルのエネルギー変換効率で1(TB)を実現するためには膨大な電力が必要となり,消費電力が重要なVOCとなるでしょうが,10の何乗倍もエネルギー変換効率が上がっているので消費電力は重要なVOCにはならないわけです.
エネルギー変換は万能であるという考え方もありますが,実際の業務への適用では以下の2点を考慮する必要がありそうです.
- エネルギー変換効率のVOCとしての重要度
- エネルギー変換効率がトータルなロバスト性の改善につながるか
その他,目的機能,基本機能,エネルギー変換の関係などまだ一般的に定義されていない興味深いテーマもあります.
【出典】QECompass HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏)
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