このテーマは4回に分けて連載しています。毎回、連載記事へリンクを貼りますので、是非、通読して下さい。
前回の続きです。「本気で取り組んでいない、ゆえにその価値に気づかない」を解説します。
大手企業の多くはクリーン化への取り組み・継続は企業文化となっていて、現場体質強化の源泉でもあります。それを経験的に知っているので何の活動もやっていないところはないでしょう。それとは別に、個人としては何らかのきっかけがあってその良さ、大切さに気付き入り込むことも多いでしょう。幾つか事例を紹介します。個人的には信頼している人の言葉であったり、取り組んできて成功した事例、つまり体験学習などで心が動かされるきっかけがあると思います。
1.本気になるきっかけ
ある会社に指導に行ったところ、トイレも非常に綺麗で床に自分の顔が映って見えるというところがありました。休日に会社に来てトイレを磨く活動をやっていたそうです。何時間も磨いてリーダーが終わりにしようと言うと、若い人ほど気が済まないからもっとやりたいと言って、なかなかやめようとしないというのです。本気になってしまうんですね。最初はやらされることから始まるのでしょうが、そのうちにのめり込んでしまうのです。損得ではなく『自分の心が満足する』までやり続けるんです。それからは、若い人がトイレ掃除は自分にやらせて欲しいと言ってくることもあるそうです。
清掃担当のメンバー表示を見た後で現場に入ります。そして、このメンバーかとわかると、現場での動作、行動も観察してしまいます。若い作業者には、クリーン化活動が現場作業にも影響して、仕事もきびきびと手際良くなります。
2.知識と知恵
山形県の工場に赴任した直後のこと。清浄度クラス3000~5000程度のクリーンルームに入りました。入室時手袋を装着した後で手洗いをします。その手洗いは、自動で洗剤や純水、乾燥の熱風が出ます。その手洗い器の内面が汚れているのに気づきました。白い陶器でしたが薄緑色の水苔が付着したような感じでした。その場でワイパーで軽く擦ってみたのですが、汚れが落ちませんでした。
これは真剣にやらないと綺麗にならないと判断し、休日に出てその手洗い器を一生懸命磨きました。もちろん自分の職場ではありませんので、許可なく勝手に入ることはできません。半導体の後工程には以前から出張指導していて、赴任後はこれらの工程からクリーン化を徹底しようと考えていました。
現場を良くするには、『その現場も設備も、自分のものだ』と意識し愛着を持って取り組むことが大切です。各現場に入室する時、全ての上司に、毎日許可を得るのは大変なことです。そこでその都度連絡を得ずに入室させてもらうように事前の許可をもらって、行動していました。
休日には職制は不在でしたが現場のリーダーに許可を取り、色々工夫して磨きました。朝、工場に入り、どんなワイパーを使いどのように磨けばよいかがやっとわかり、綺麗になったのは夕方でした。自分でやってみて、口で言うほどたやすいものではないことを学びました。こういう経験を得ないと、クリーン化診断の場でも単なる指摘屋になってしまいます。
休日明けに、その職場の上司が飛んできて、よその職場の人に掃除させてしまって申し訳ないと、綺麗になったお礼を言いながらどのようにクリーニングしたのか聞いてきました。早速定期清掃にその方法を導入し、標準化もしてくれました。自分でも相当苦労しましたが、真っ白になった時は喜び、達成感を感じました。
まずやってみるということは大切であり、理論理屈では綺麗にならないのです。自分でやってみて初めて指導ができるのです。特に上層部の方には、自ら経験してもらいたいものです。やってみることから始め、上手く行かない場合は代替案を考える。それでうまくいかなければ違うことを考え試してみる。こんなことを繰り返しているうちに色々な経験ができ、知恵もつきます。この部分のクリーニングは恐らくこの方法で綺麗になるだろうと推測もできるようになります。そうすると他の現場指導でも、幾つかの事例を引き出し指導の材料に使えます。
私はセミナー実施時の最後に、“知識と知恵”という話をしています。知識は書籍を読んだり、学校で教わったりしたこと。自分がやったわけではないので、教科書通りに行かないということが往々にしてあります。知恵は自分がやってみて、身に付けてみて初めて分かることです。知恵がつくなどとも言います。
3.強い思い入れを持つ
このような何らかのきっかけから、本気になると同時に自分にとって強い思い入れとなります。私は現場を綺麗にしようとか、歩留まり向上に繋がる活動だと...