『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その26)

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 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『プロジェクトや人の評価方法』の章です。プロジェクト活動の成果を、どういう観点から評価するか。プロジェクトの成功や失敗とは、何を基準にするか。組織の中で敗者をつくらないために、どのように人の評価をするか。この章で解説します。
 

1. 大失敗プロジェクトはあるか

 
 失敗プロジェクトか、成功プロジェクトかの評価は難しいのです。プロジェクトの評価は、普通は予算を達成したかとか、納期通りにできたかとか、望みどおりのものができたかなどで判断します。これらは短期的な視点での評価と長期的な視点での評価を、あわせて見なければならないでしょう。
 
 多くの場合、長期的に見るのは大変で、納期の時点でどうだったかを見て評価しているのです。しかし、そのような評価だけでは非常に危ないでしょう。
 

(1) 時間的な視野を広げて評価する

 
 あのエジソンは、小学校のとき先生から「あなたのお子さんはもう面倒見切れないから出て行ってほしい」と退学勧告をされたのです。学校から見放されて、教師だったお母さんが家庭で一生懸命育てました。お母さんがそのときあきらめていたら、後の発明王エジソンは存在しなかったのです。
 
 山本権兵衛(1852~1933)東郷平八郎(1848~1934)、権兵衛は、東郷に軍艦もしくは艦隊の行動というものがつねに国際的配慮をあわせ考えて行わるべきだということを説き、「もし君が、撃沈にさいし高陞号に対し英国国旗をおろすことを命じたなら、英国の世論をこうも刺激しなかったであろう。さらに私ならば、別な処置をとる。撃沈せず、拿捕する。どうだ。これなら、外交上の問題はいささかもおこるまい」東郷はだまって微笑し、権兵衛の説に服する旨を表情だけであらわしました。権兵衛はこのとき、東郷の資質にある周到性と決断力と、そしてなによりもその従順さを大きく評価したらしいのです。
 
 これは単純な話で、小学6年生の時点の評価と、20歳の時点のそれでは違って当たり前です。小学6年生の時点では少しボケっとしていても、人間の場合には「大器晩成」という言葉があるように、将来は大物になるかもしれません。エジソン自身も99%が努力だと言っています。
 
 ビジネスの世界で言えば、たとえば、ある時期に6か月間のプロジェクトが完了したとします。そのプロジェクトが成功したとしても、後のプロジェクトや組織にどう反映することになったかも評価の対象に考える必要があるのです。そのプロジェクトがたとえ失敗しても、次のプロジェクトへの学習や教育になっておおいに役立つこともあるでしょう。時間的な視野を広げてその後どうなったかも評価の対象にしなければ、本当に成功したか否かは十分に評価できないことになります。大失敗プロジェクトも大成功プロジェクトも、見方が一面的であってはならないことを強調しておきます。
  
 プロジェクトマネジメント
 

(2) 「振り返り」を行って教訓を得る

 
 ある時点まで来たらそれまでの振り返りを行い、組織の教訓、個人であれば個人の教訓を抽出することが必要な行動です。「日露戦争」は最初のシナリオが非常にはっきりしていました。当時の政府首脳の中で「早期に講和に持ち込まないと日本の国力は衰亡してしまう」という共通認識がありました。講和に至るまで、いろいろな局地的な勝利とか、海軍の大勝利(日本海海戦)がありましたが、所期の目標は達成したという意味で、大成功プロジェクトと呼ぶべきでしょう。
 
 ところが、問題はその後です。つまり、なぜそのような大成功を得たのかについて振り返りをしなかったので、誤った教訓、つまり「日本は何をやっても強い国なんだ」と勘違いが起こり、それが後世に災いをもたらしました。
 
 司馬遼太郎が「あとがき二」(文庫八巻)の最後で、「敗北が国民に理性をあたえ、勝利が国民を狂気にするとすれば、長い民族の歴史からみれば、戦争の勝敗などというものはまことに不可思議なものである。」と書いています。
 
 もっとも、現在のような日本になったかどうかはあやしい。ロシアに勝っていなければ現在の日本はないわけだから、勝った後、プロジェクトマネジメントでいう「振り返り...
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、『プロジェクトや人の評価方法』の章です。プロジェクト活動の成果を、どういう観点から評価するか。プロジェクトの成功や失敗とは、何を基準にするか。組織の中で敗者をつくらないために、どのように人の評価をするか。この章で解説します。
 

1. 大失敗プロジェクトはあるか

 
 失敗プロジェクトか、成功プロジェクトかの評価は難しいのです。プロジェクトの評価は、普通は予算を達成したかとか、納期通りにできたかとか、望みどおりのものができたかなどで判断します。これらは短期的な視点での評価と長期的な視点での評価を、あわせて見なければならないでしょう。
 
 多くの場合、長期的に見るのは大変で、納期の時点でどうだったかを見て評価しているのです。しかし、そのような評価だけでは非常に危ないでしょう。
 

(1) 時間的な視野を広げて評価する

 
 あのエジソンは、小学校のとき先生から「あなたのお子さんはもう面倒見切れないから出て行ってほしい」と退学勧告をされたのです。学校から見放されて、教師だったお母さんが家庭で一生懸命育てました。お母さんがそのときあきらめていたら、後の発明王エジソンは存在しなかったのです。
 
 山本権兵衛(1852~1933)東郷平八郎(1848~1934)、権兵衛は、東郷に軍艦もしくは艦隊の行動というものがつねに国際的配慮をあわせ考えて行わるべきだということを説き、「もし君が、撃沈にさいし高陞号に対し英国国旗をおろすことを命じたなら、英国の世論をこうも刺激しなかったであろう。さらに私ならば、別な処置をとる。撃沈せず、拿捕する。どうだ。これなら、外交上の問題はいささかもおこるまい」東郷はだまって微笑し、権兵衛の説に服する旨を表情だけであらわしました。権兵衛はこのとき、東郷の資質にある周到性と決断力と、そしてなによりもその従順さを大きく評価したらしいのです。
 
 これは単純な話で、小学6年生の時点の評価と、20歳の時点のそれでは違って当たり前です。小学6年生の時点では少しボケっとしていても、人間の場合には「大器晩成」という言葉があるように、将来は大物になるかもしれません。エジソン自身も99%が努力だと言っています。
 
 ビジネスの世界で言えば、たとえば、ある時期に6か月間のプロジェクトが完了したとします。そのプロジェクトが成功したとしても、後のプロジェクトや組織にどう反映することになったかも評価の対象に考える必要があるのです。そのプロジェクトがたとえ失敗しても、次のプロジェクトへの学習や教育になっておおいに役立つこともあるでしょう。時間的な視野を広げてその後どうなったかも評価の対象にしなければ、本当に成功したか否かは十分に評価できないことになります。大失敗プロジェクトも大成功プロジェクトも、見方が一面的であってはならないことを強調しておきます。
  
 プロジェクトマネジメント
 

(2) 「振り返り」を行って教訓を得る

 
 ある時点まで来たらそれまでの振り返りを行い、組織の教訓、個人であれば個人の教訓を抽出することが必要な行動です。「日露戦争」は最初のシナリオが非常にはっきりしていました。当時の政府首脳の中で「早期に講和に持ち込まないと日本の国力は衰亡してしまう」という共通認識がありました。講和に至るまで、いろいろな局地的な勝利とか、海軍の大勝利(日本海海戦)がありましたが、所期の目標は達成したという意味で、大成功プロジェクトと呼ぶべきでしょう。
 
 ところが、問題はその後です。つまり、なぜそのような大成功を得たのかについて振り返りをしなかったので、誤った教訓、つまり「日本は何をやっても強い国なんだ」と勘違いが起こり、それが後世に災いをもたらしました。
 
 司馬遼太郎が「あとがき二」(文庫八巻)の最後で、「敗北が国民に理性をあたえ、勝利が国民を狂気にするとすれば、長い民族の歴史からみれば、戦争の勝敗などというものはまことに不可思議なものである。」と書いています。
 
 もっとも、現在のような日本になったかどうかはあやしい。ロシアに勝っていなければ現在の日本はないわけだから、勝った後、プロジェクトマネジメントでいう「振り返り」を行って教訓を得られなかったのが、大失敗でした。日露戦争を短期的な視野で見れば、国力が尽きる前に講和に持ち込んだところまでは大成功と言えるでしょう。長期的な視野で見れば、適切な振り返りを行わずに昭和に入って第二次世界大戦でコテンパンに負けたのです。これはもう大失敗というしかないのです。その後に奇跡の復興をしたので、その部分だけを見ればまた評価は変わってくるのだろうが……。司馬の言う「敗北が国民に理性をあたえ、勝利が国民を狂気にするとすれば」という言葉が生きてくるのです。
 
 次回も、プロジェクトや人の評価方法の章を続けます。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

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