技術・技能伝承の成功要因 モノづくりと人材育成(その7)

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【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

7.技術・技能伝承の成功要因

(1)技術・技能伝承の成功ポイント

 技術・技能伝承に成功している企業に共通している特徴は、「経営トップが積極的で、技術・技能伝承に独自の考え方を持っている」、「技術・技能の体系的整理と育成体制が明確になっている」、「熟練者や若手のモチベーション向上の工夫をしている」などがあげられます。そのような成功事例から導き出される技術・技能伝承の成功ポイントは、下図1の三つに絞られます。 
      技術・技能伝承
図1.技術・技能伝承の成功要件
 
 まず、技術・技能伝承を単なる技術や技能の伝承や継承として捉えるのではなく、モノづくりの環境変化に対応し、事業継続の一貫として捉えています。つまり企業競争力を高めるため、また会社財産の保全を目的として、経営トップの陣頭指揮のもと、組織的に活動することが重要となるのです。
 
 次に、次世代へ継承すべきコアノウハウを見極め、事業内容や組織バランスに応じた進め方をとることが必要です。事業方針や作業の内容(標準化や自動化の状況)、さらにはグローバル展開や自社内の組織バランスなどを考慮し、次世代へ伝承する技術・技能の再整理を行うのです。そのうえで、次世代へ伝承すべき技能の見極め、ブラックボックス化するなどで保護する技能の選定、または外注や設備投資などの代替手段で対応する技術・技能などを検討する必要があります。
 
 さらに運用面でも、技術・技能伝承を人材育成の一環としてとらえ、通常業務の一貫として明確に位置づけることが必要です。そのためには、具体的な技術・技能伝承計画を立案し、推進体制を整え実施していくことが必要となります。技術・技能伝承計画では、技能の技術化や熟練ノウハウの伝承方法、人事制度の整備、さらに新しい付加価値を生むための応用力を強化するような施策を盛り込み、数年間にわたるアクション・アイテムと役割を明確にするのです。
 
 これらの成功ポイントに五つの誤解の解決策を盛り込み、経営トップの指導のもと、全社一丸となって推進することが重要です。また、これらを効率的に推進するために技術・技能伝承推進チェックリスト(図2)などを活用し、成熟度を判定し重要なアクションアイテムの抜け漏れなどがないことを検証しつつ、進めること良いでしょう。 
   技術・技能伝承
図2.技術・技能伝承チェックリストの例
 

(2)技術・技能伝承の将来展望

 現在、日本を取り巻くモノづくり環境は大きく変化しています。例えば、グローバル化の進展による新興国とのグローバル分業体制やICTを活用したモノづくりの変革などの進展により、我が国のモノづくりも変革が必要です。つまり、コモディティ品は海外で生産し、日本では高機能品の生産や商品・企画やアフターサービスなど付加価値の高い領域に経営資源をパワーシフトするような動きも考えられます。従って、グルーバルな視点で技術・技能伝承や技術移転、或は若手と中高年との役割分担の見直しなど、ものづくり自体のあり方が変化しつつあるのです。このような環境変化に対応しつつ、今後技術・技能伝承を進めるためには、予期せぬ環境変化に耐えうる「応用力」や新しい付加価値を生み出す「モノ創り」などを養成するなど、より広い観点から技術・技能伝承を捉える必要があります。
 
 技術・技能の喪失は企業にとって死活問題であり、そのような状態が長く続けば、企業だけでなく産業全体にとっても衰退への道を辿ることになります。企業内や地域などでモノづくり指導者を通じ、客観的な視点か...

【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

7.技術・技能伝承の成功要因

(1)技術・技能伝承の成功ポイント

 技術・技能伝承に成功している企業に共通している特徴は、「経営トップが積極的で、技術・技能伝承に独自の考え方を持っている」、「技術・技能の体系的整理と育成体制が明確になっている」、「熟練者や若手のモチベーション向上の工夫をしている」などがあげられます。そのような成功事例から導き出される技術・技能伝承の成功ポイントは、下図1の三つに絞られます。 
      技術・技能伝承
図1.技術・技能伝承の成功要件
 
 まず、技術・技能伝承を単なる技術や技能の伝承や継承として捉えるのではなく、モノづくりの環境変化に対応し、事業継続の一貫として捉えています。つまり企業競争力を高めるため、また会社財産の保全を目的として、経営トップの陣頭指揮のもと、組織的に活動することが重要となるのです。
 
 次に、次世代へ継承すべきコアノウハウを見極め、事業内容や組織バランスに応じた進め方をとることが必要です。事業方針や作業の内容(標準化や自動化の状況)、さらにはグローバル展開や自社内の組織バランスなどを考慮し、次世代へ伝承する技術・技能の再整理を行うのです。そのうえで、次世代へ伝承すべき技能の見極め、ブラックボックス化するなどで保護する技能の選定、または外注や設備投資などの代替手段で対応する技術・技能などを検討する必要があります。
 
 さらに運用面でも、技術・技能伝承を人材育成の一環としてとらえ、通常業務の一貫として明確に位置づけることが必要です。そのためには、具体的な技術・技能伝承計画を立案し、推進体制を整え実施していくことが必要となります。技術・技能伝承計画では、技能の技術化や熟練ノウハウの伝承方法、人事制度の整備、さらに新しい付加価値を生むための応用力を強化するような施策を盛り込み、数年間にわたるアクション・アイテムと役割を明確にするのです。
 
 これらの成功ポイントに五つの誤解の解決策を盛り込み、経営トップの指導のもと、全社一丸となって推進することが重要です。また、これらを効率的に推進するために技術・技能伝承推進チェックリスト(図2)などを活用し、成熟度を判定し重要なアクションアイテムの抜け漏れなどがないことを検証しつつ、進めること良いでしょう。 
   技術・技能伝承
図2.技術・技能伝承チェックリストの例
 

(2)技術・技能伝承の将来展望

 現在、日本を取り巻くモノづくり環境は大きく変化しています。例えば、グローバル化の進展による新興国とのグローバル分業体制やICTを活用したモノづくりの変革などの進展により、我が国のモノづくりも変革が必要です。つまり、コモディティ品は海外で生産し、日本では高機能品の生産や商品・企画やアフターサービスなど付加価値の高い領域に経営資源をパワーシフトするような動きも考えられます。従って、グルーバルな視点で技術・技能伝承や技術移転、或は若手と中高年との役割分担の見直しなど、ものづくり自体のあり方が変化しつつあるのです。このような環境変化に対応しつつ、今後技術・技能伝承を進めるためには、予期せぬ環境変化に耐えうる「応用力」や新しい付加価値を生み出す「モノ創り」などを養成するなど、より広い観点から技術・技能伝承を捉える必要があります。
 
 技術・技能の喪失は企業にとって死活問題であり、そのような状態が長く続けば、企業だけでなく産業全体にとっても衰退への道を辿ることになります。企業内や地域などでモノづくり指導者を通じ、客観的な視点から技術・技能伝承を推進していくことが必要です。これからのモノづくりは、「如何につくるか」ではなく「何を創るか」という「モノ創り」の観点から技術・技能を強化していくことです。
 
参考文献
 ・畑村洋太郎、技術の伝え方、講談社現代新書1870、2007年6月7日第3刷
 ・内閣府:平成24年版 高齢社会白書
 ・内閣府:平成23年版 高齢社会白書
 ・野中帝二、先送りされた技術・技能伝承「2012年問題」、計装、2012.Vol.55 No.7 p.26-28
 ・野中・安部、「技術・技能伝承への取り組み」(2007)
 
 この文書は、日刊工業新聞社発行、月刊「工場管理」掲載の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

野中 帝二

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