継承者はノウハウ吸収に意欲的という誤解 モノづくりと人材育成(その4)

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【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

4.技術技能伝承に関する五つの誤解 誤解③若手(継承者)は意欲的にノウハウを吸収する

 若手は、ノウハウをモチベーション高く吸収するという思い込みです。しかし、実際には、受け継ぐ者である若手が自分に必要な情報と認識していないケースも多く、意欲もモチベーションも高くない実態があります。継承に必要な情報は個人ごとに異なるため、個人毎に異なる対応が必要です。
 
 このような誤解は、「若手自身は自分に自信がないのは分かっているが、何が自分に欠けているかが分からない」ことを、周囲が理解していないことから生じています。このような状態では、どのような伝承手法を使おうが伝承スピードが上がらないばかりか、モチベーションも上がりません。これは若手が自分自身の将来像を描けない事が原因の一つです。つまり、自分自身にとって必要な情報であることを認識できていないのです。
 
 また、継承者である若手が、教えられて当然という感覚を持っているケースも多く、若手に仕事を与えれば、意欲的にノウハウを吸収するという想いは捨てるべきです。そもそも、伝承とは与えられるものと考えがちですが、「先輩の仕事を見て盗め」と昔から言われているように本来は継承者側が新たな知識や経験を、自分自身で掴み取るものです。そのような若手の自発的なやる気を起させるような状態を作れるかが大切ですが、「教えてあげる的」な熟練者視点から抜け出せていないのが現実です。
 
 熟練者は過去に多くの業務を経験しているが、最近の若手は分業化が進み、経験する業務も限られています。従って、この知識と経験差を如何に克服するかが問題です。これを克服し若手のモチベーションを向上するには、若手視点での次の取り組みを行う必要があります。
 
(1)若手へ将来の姿(夢)を抱かせる
 技術・技能伝承は、若手のモチベーションを如何に高めるかがポイントです。そのためには、まず若手へ複数の将来像(人物像)を示し、キャリアアップへの目標を抱かせ、より高いレベルへの向上意欲を引き出すことが重要です。会社目標と個人目標の摺合せを行い、人材育成のベクトルを合わせるのです。また、業務上直接関係がない先輩をメンターとしてサポートする方法もよいでしょう。
 
 そのうえで、その目標に到達するために必要なスキルやステップを具体的に示し、自らが工夫し努力するような考える若手への変身を促すのです。例えば、キャリアパスは、一年後や二年後にこのようなスキルを身につける必要があるといったスタイルではなく、複線型のスキルを選択していけるような形が望ましいでしょう(図1) 
        技術伝承
図1.複線型のキャリアパス・イメージ
 
(2)継承者と熟練者で伝承計画を考える
 キャリアパスを示すためには、まず自社の技術・技能マップを整理し、技術や技能を身につけることでどのような人材像に育っていくのかを整理します。この技術・技能マップは、退職者対応など近視眼的な取り組みではなく、中長期的な視点で取り組みます。自社の技術・技能マップの再整理には、まず自社の作業マニュアルなどから技術的な作業と技能的な作業を抽出し、マッピングすることから開始します。次に、次世代へ継承すべき重要度の高いコアのノウハウを技術・技能マップから抽出します。さらに抽出された技術・技能を評価基準に基づき当該業務に関係する全員を個別に評価するのです。評価基準は難しく考えず、「一人で出来る」や「人に教えられる」など誰にでも判断できるような基準を設けて実施することです。
 
 その評価結果に基づき、個人別の技術・技能毎のレベルが分ったら、誰に何を継承するかを、From-To形式で明確にしましょう。この段階において継承する内容と手段、時期などを伝承者と継承者と一緒に検討することが重要です。伝承者と継承者が、いつまでに、どのような方法で伝承するのかを双方合意の元で決定するのです(図2) 
        技術伝承
図2.技術・技能マップと個人別育成計画
 
 このような技術・技能の整理と絞り込みのステップを踏むことで、継承者である若手に目標を与え、モチベーションを高めることが可能となります。合意した後は、熟練者と若手がOJTにより伝承作業を行いますが、熟練者から教えてもらう際には、若手も「メモを取ったり」、「あいづち、うなづき」など積極的な姿勢を熟練者に見せる雰囲気づくりを行うことが大切です。また、実際の伝承作業ではマニュアルを整備するケースが多くみられるますが、マニュアルを必須と考えるのは間違いです。例えば、熟練ノウハウを受け継ぐ若い人材がいれば、マニュアルを必ずしも作る必要はないでしょう。逆に、マニュアル類の過度の作り過ぎは、マニュアル依存体質に陥り、マニュアルを作ることが目的化してしまう恐れもあります。
 
(3)伝承をサポートする人事制度を見直す
 キャリアパスとコア技術・技能の絞り込みが明確になったら、次は伝承者と継承者双方への人事的な支援制度の整備を行いましょう。例えば、伝承...

【ものづくりの人材育成とは 連載目次】

4.技術技能伝承に関する五つの誤解 誤解③若手(継承者)は意欲的にノウハウを吸収する

 若手は、ノウハウをモチベーション高く吸収するという思い込みです。しかし、実際には、受け継ぐ者である若手が自分に必要な情報と認識していないケースも多く、意欲もモチベーションも高くない実態があります。継承に必要な情報は個人ごとに異なるため、個人毎に異なる対応が必要です。
 
 このような誤解は、「若手自身は自分に自信がないのは分かっているが、何が自分に欠けているかが分からない」ことを、周囲が理解していないことから生じています。このような状態では、どのような伝承手法を使おうが伝承スピードが上がらないばかりか、モチベーションも上がりません。これは若手が自分自身の将来像を描けない事が原因の一つです。つまり、自分自身にとって必要な情報であることを認識できていないのです。
 
 また、継承者である若手が、教えられて当然という感覚を持っているケースも多く、若手に仕事を与えれば、意欲的にノウハウを吸収するという想いは捨てるべきです。そもそも、伝承とは与えられるものと考えがちですが、「先輩の仕事を見て盗め」と昔から言われているように本来は継承者側が新たな知識や経験を、自分自身で掴み取るものです。そのような若手の自発的なやる気を起させるような状態を作れるかが大切ですが、「教えてあげる的」な熟練者視点から抜け出せていないのが現実です。
 
 熟練者は過去に多くの業務を経験しているが、最近の若手は分業化が進み、経験する業務も限られています。従って、この知識と経験差を如何に克服するかが問題です。これを克服し若手のモチベーションを向上するには、若手視点での次の取り組みを行う必要があります。
 
(1)若手へ将来の姿(夢)を抱かせる
 技術・技能伝承は、若手のモチベーションを如何に高めるかがポイントです。そのためには、まず若手へ複数の将来像(人物像)を示し、キャリアアップへの目標を抱かせ、より高いレベルへの向上意欲を引き出すことが重要です。会社目標と個人目標の摺合せを行い、人材育成のベクトルを合わせるのです。また、業務上直接関係がない先輩をメンターとしてサポートする方法もよいでしょう。
 
 そのうえで、その目標に到達するために必要なスキルやステップを具体的に示し、自らが工夫し努力するような考える若手への変身を促すのです。例えば、キャリアパスは、一年後や二年後にこのようなスキルを身につける必要があるといったスタイルではなく、複線型のスキルを選択していけるような形が望ましいでしょう(図1) 
        技術伝承
図1.複線型のキャリアパス・イメージ
 
(2)継承者と熟練者で伝承計画を考える
 キャリアパスを示すためには、まず自社の技術・技能マップを整理し、技術や技能を身につけることでどのような人材像に育っていくのかを整理します。この技術・技能マップは、退職者対応など近視眼的な取り組みではなく、中長期的な視点で取り組みます。自社の技術・技能マップの再整理には、まず自社の作業マニュアルなどから技術的な作業と技能的な作業を抽出し、マッピングすることから開始します。次に、次世代へ継承すべき重要度の高いコアのノウハウを技術・技能マップから抽出します。さらに抽出された技術・技能を評価基準に基づき当該業務に関係する全員を個別に評価するのです。評価基準は難しく考えず、「一人で出来る」や「人に教えられる」など誰にでも判断できるような基準を設けて実施することです。
 
 その評価結果に基づき、個人別の技術・技能毎のレベルが分ったら、誰に何を継承するかを、From-To形式で明確にしましょう。この段階において継承する内容と手段、時期などを伝承者と継承者と一緒に検討することが重要です。伝承者と継承者が、いつまでに、どのような方法で伝承するのかを双方合意の元で決定するのです(図2) 
        技術伝承
図2.技術・技能マップと個人別育成計画
 
 このような技術・技能の整理と絞り込みのステップを踏むことで、継承者である若手に目標を与え、モチベーションを高めることが可能となります。合意した後は、熟練者と若手がOJTにより伝承作業を行いますが、熟練者から教えてもらう際には、若手も「メモを取ったり」、「あいづち、うなづき」など積極的な姿勢を熟練者に見せる雰囲気づくりを行うことが大切です。また、実際の伝承作業ではマニュアルを整備するケースが多くみられるますが、マニュアルを必須と考えるのは間違いです。例えば、熟練ノウハウを受け継ぐ若い人材がいれば、マニュアルを必ずしも作る必要はないでしょう。逆に、マニュアル類の過度の作り過ぎは、マニュアル依存体質に陥り、マニュアルを作ることが目的化してしまう恐れもあります。
 
(3)伝承をサポートする人事制度を見直す
 キャリアパスとコア技術・技能の絞り込みが明確になったら、次は伝承者と継承者双方への人事的な支援制度の整備を行いましょう。例えば、伝承作業を小集団活動や勤務時間外の作業として位置付けているケースも見られるますが、通常業務の一部として位置付けるとよいでしょう。具体的には、半年ごとの個人目標管理の中に取り入れたり、一定の成果をあげた伝承者と継承者には、手当や処遇を改善したり人事的な報奨を与えるような仕組みです。つまり、技術・技能伝承をオフシャルな活動として、会社財産を保持する取り組みとして通常業務の中で、明確に位置づけるのです。
 
 更に、コア技術や技能の伝承作業が終了したら認定書を発行したり、マイスター制度などの社内資格制度を立ち上げるなどもモチベーション向上のためには有効な手段です。キャリアパス内で、技能レベルを昇格させることで、モラールを維持できるうえ、目標達成感も得ることが出来るのです。
 
  この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

野中 帝二

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