仕組みを作ればうまくいくという誤解 モノづくりと人材育成(その5)

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5.技術技能伝承に関する五つの誤解 

誤解④仕組み(技能DB、マニュアル、動画)さえ作ればうまくいく

ナレッジやマニュアルなどの仕組みを作れば、後は利活用も運用もうまくいくという思い込みです。しかし実際には、システムから出てくる情報を鵜呑みにしたり、仕組みを作ることが目的となり形骸化していたりして、利用も活用もうまく進んでいないケースが多いようです。
 
作業マニュアルや伝承システムなどの仕組みを作れば、後はなんとかなると考えているケースが多いようですが、そもそもマニュアル類は作成した段階から陳腐化が始まるし、ナレッジ・マネジメントなどの仕組みも新たなナレッジの収集とナレッジの利活用を活性化する取り組みがないとすぐに形骸化します。通常、仕組みやマニュアルは、熟練者などが伝承者視点で作られることが多いようです。この伝承者視点でつくられたマニュアルや仕組みには、熟練者などが伝えたい事は盛り込まれているが、継承者が必要な事は当たり前の事として盛り込まれていないケースが多い。これでは、どんなに良い仕組みであっても、使い物になりません。
 
このように仕組みが使われないのは、伝承者視点で仕組みづくりされているのと共に、継承者である若手などが使える形に仕組みがなっていないことが多いようです。例えば、ノウハウがナレッジ情報として蓄積されていても、利用者である継承者がその情報がどの作業のどうゆう場面で使えるのかを判断するのは難しいです。つまり、ノウハウが作業プロセスに紐づいていないのです。環境変化により見直しが必要であるにも関わらず、作業マニュアルやナレッジ情報が、見直しもされていないケースも多く、これでは継承者が、必要な情報を探し出すのは難しいでしょう。
 
このような事態を防ぐには、継承者視点、作業プロセスとの紐づけた伝承の仕組みづくりが必要となります。また、本来仕組みそ...

 

5.技術技能伝承に関する五つの誤解 

誤解④仕組み(技能DB、マニュアル、動画)さえ作ればうまくいく

ナレッジやマニュアルなどの仕組みを作れば、後は利活用も運用もうまくいくという思い込みです。しかし実際には、システムから出てくる情報を鵜呑みにしたり、仕組みを作ることが目的となり形骸化していたりして、利用も活用もうまく進んでいないケースが多いようです。
 
作業マニュアルや伝承システムなどの仕組みを作れば、後はなんとかなると考えているケースが多いようですが、そもそもマニュアル類は作成した段階から陳腐化が始まるし、ナレッジ・マネジメントなどの仕組みも新たなナレッジの収集とナレッジの利活用を活性化する取り組みがないとすぐに形骸化します。通常、仕組みやマニュアルは、熟練者などが伝承者視点で作られることが多いようです。この伝承者視点でつくられたマニュアルや仕組みには、熟練者などが伝えたい事は盛り込まれているが、継承者が必要な事は当たり前の事として盛り込まれていないケースが多い。これでは、どんなに良い仕組みであっても、使い物になりません。
 
このように仕組みが使われないのは、伝承者視点で仕組みづくりされているのと共に、継承者である若手などが使える形に仕組みがなっていないことが多いようです。例えば、ノウハウがナレッジ情報として蓄積されていても、利用者である継承者がその情報がどの作業のどうゆう場面で使えるのかを判断するのは難しいです。つまり、ノウハウが作業プロセスに紐づいていないのです。環境変化により見直しが必要であるにも関わらず、作業マニュアルやナレッジ情報が、見直しもされていないケースも多く、これでは継承者が、必要な情報を探し出すのは難しいでしょう。
 
このような事態を防ぐには、継承者視点、作業プロセスとの紐づけた伝承の仕組みづくりが必要となります。また、本来仕組みそのものが必要ないケースも考えられる。仕組みを作るうえでは、三つ観点について留意する必要があります。
 

(1)継承者視点で仕組みをつくる

伝承者視点ではなく、継承者視点で仕組みをつくることが必要です。継承者は通常、悩みながら仕事を覚えていく。例えば、教えられた状態から環境や作業条件が変わると、教えられたとおりではうまくいかず、継承者自らが工夫しないと作業が遂行できないのです。その悩んだ内容が初心者にとっては重要な情報となります。従って継承者が仕事を学ぶ上で、疑問に感じたことを他部門へ気軽に確認したり、自分自身の気づきを簡単に登録できる仕組みなど、継承者自身が使いやすい仕組みになっていることが重要となります(図1) 
     技術伝承 
図1.技術・技能伝承サポートの例
 
また仕組みを作ったら、その仕組みを対象者全員が使い続けるように、経営者や管理者が啓蒙し続ける必要もあります。継承者がいない状態で、伝承すべきノウハウを整理する場合でも、「こんなことはわかっているはず」と考えず、自分自身が初心者のころに苦労した点を盛り込むようにしましょう。そのうえで将来、若手がそれを活用する際には、若手が手を加えられるような工夫を盛り込んで下さい。このように運用面の工夫、例えば新しく考えた工夫や改善などを仕組みに簡単に反映できるようにしたり、仕組みを使う人へインセンティブを提供するなど使う側に立った工夫が重要となります。つまり、再利用に焦点を当てた仕組みづくりが重要となるのです。
 

(2)作業プロセスに技術・技能を紐つける 

作業マニュアルなどにノウハウが盛り込まれていないのは、ノウハウが作業プロセスに紐ついていないのが一因です。また、多くの企業の作業標準やマニュアルは、安全面や品質面を重視した作業プロセスを表現したもので、そこにノウハウは含まれていません。本来、その作業をやらなかったらどのような結果になるのか、またトラブル発生した場合の対応なども記載されていません。また、動画や写真には多くの情報が含まれているが、何を伝えるのかなどポイントが明確でないと情報を垂れ流しているだけであり、これでは技術・技能伝承には使えません。
 
このような事態を克服するには、利用者のスキルや知識に依存しない仕組み、作業プロセスに対応し利用場面ごとに必要なナレッジを使い分けできるような仕組みがほしいものです。例えば、トラブル発生時には、そのトラブルの影響が他のプロセスのどの部分に影響し、どのような対応策が必要かといった内容が瞬時にわかる仕組みなどです。そのためには作業プロセスに必要な情報を関連付け、必要な時に必要な情報がすぐに入手できるような資料を整備する必要があり、それを支援するための見える化支援ツールなどがあると効果的です(図2) 
 技術伝承
  図2.業務プロセスに技術・技能を紐つけ
 

(3)技術・技能伝承を教えあう環境をつくる

本来、仕組みを作る以前に会社や職場内で熟練者や若手を問わず、自然とノウハウを共有し教え合う環境づくりを意図的に作り出していくことが必要です。お互いを尊敬しあえる環境が必要なのだ。つまり、技術・技能ナレッジの蓄積として捉えるのではなく、人材育成として技術・技能伝承を捉え、それが自然と職場の通常業務の中で行える環境づくりを行うのです。
 
このような環境は、職場の文化ともいえるもので、簡単にできるものではないがこれから労働人口が減少する環境下では、ますますその重要性が増してきます。また、このような環境ができていれば、作業マニュアルや動画を整備するなどの作業は不要となり、OJT時のペアリングなど特別な体制も考える必要がなくなります。更に、新たな創意工夫が期待できたり、作業者同士のシナジー効果が生まれたり、副次的な効果も期待できます。このような自然と教えあう環境づくりや意図した技術・技能伝承の実践は、会社や職場全体で行う必要があり、そのような意味でも経営者や部門管理者の責任は大きいでしょう。
 
  この文書は、日刊工業新聞社発行、月刊「工場管理」掲載の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

野中 帝二

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