熟練者が技術・技能伝承に積極的であるという誤解 モノづくりと人材育成(その3)

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3.技術技能伝承に関する五つの誤解 

誤解② 熟練者が積極的に技術・技能伝承を支援してくれる 

現代の若い世代は、先人が築き上げてきたものを何不自由なく手に入れることができる環境で育ったため、教えられて当然といった感覚をもっており、熟練者は積極的に教えてくれるものと、勝手に思い込んでいます。熟練者のノウハウなども、自然とサポートしてくれると思いがちです。
 
しかし、団塊世代は、自らが技術や技能を習得する際に先輩などから教えられた経験が少なく、若手へどのように教えていいのかが分かりません。また、業務効率化の影響で、熟練者に若手を指導できるだけの時間的余裕も許されてはいません。さらに、熟練者が自分のノウハウを教える事で、自分自身の仕事が無くなるという不安感もあり、忙しい時間を割いてまで継承者に自分のノウハウを教える必要性を感じていない場合も多いようです。知識やノウハウの秘匿化を生じやすいのです。
 
また、伝承をOJT(On the Job Training)で行っている場合、伝承者である熟練者と継承者とをペアリングする際の相性の問題もあります。中小企業や中堅企業の場合、一度こじれた関係になると、代替えがきかないために問題が大きくなりやすく、技術・技能伝承どころではない事態に発展する可能性があります。熟練者、継承者ともに、このような問題がある限り、積極的に取り組んでくれるとは限りません。そのような状況下の伝承では、熟練者がOJTを行っているフリをしている場合もあります。
 
このような状態に陥らないためには、熟練者であるベテランの協力を如何にして取り付け、スムーズな伝承を行うかにあります。そのため伝承者である熟練者に対して、次のような対策を講じる必要があります。
 

(1)熟練者に伝承メリットを理解...

 

3.技術技能伝承に関する五つの誤解 

誤解② 熟練者が積極的に技術・技能伝承を支援してくれる 

現代の若い世代は、先人が築き上げてきたものを何不自由なく手に入れることができる環境で育ったため、教えられて当然といった感覚をもっており、熟練者は積極的に教えてくれるものと、勝手に思い込んでいます。熟練者のノウハウなども、自然とサポートしてくれると思いがちです。
 
しかし、団塊世代は、自らが技術や技能を習得する際に先輩などから教えられた経験が少なく、若手へどのように教えていいのかが分かりません。また、業務効率化の影響で、熟練者に若手を指導できるだけの時間的余裕も許されてはいません。さらに、熟練者が自分のノウハウを教える事で、自分自身の仕事が無くなるという不安感もあり、忙しい時間を割いてまで継承者に自分のノウハウを教える必要性を感じていない場合も多いようです。知識やノウハウの秘匿化を生じやすいのです。
 
また、伝承をOJT(On the Job Training)で行っている場合、伝承者である熟練者と継承者とをペアリングする際の相性の問題もあります。中小企業や中堅企業の場合、一度こじれた関係になると、代替えがきかないために問題が大きくなりやすく、技術・技能伝承どころではない事態に発展する可能性があります。熟練者、継承者ともに、このような問題がある限り、積極的に取り組んでくれるとは限りません。そのような状況下の伝承では、熟練者がOJTを行っているフリをしている場合もあります。
 
このような状態に陥らないためには、熟練者であるベテランの協力を如何にして取り付け、スムーズな伝承を行うかにあります。そのため伝承者である熟練者に対して、次のような対策を講じる必要があります。
 

(1)熟練者に伝承メリットを理解させる

熟練者の協力を取り付けるには、熟練者に対して若手へ技術や技能を伝承することのメリットを十二分に理解させることが必要です。例えば、若手へノウハウを伝承することで、品質が安定し、トラブルが減少するなどのメリットを示し、そのような状態になるためには若手が作業のポイントを理解し、自ら学習や創意工夫ができるような支援が必要であることを説明するのです。このような伝承メリットを熟練者が納得するまで説明を行い、熟練者が保身に陥らないようにするのです(図1) 
     技術伝承
図1.熟練者視点での伝承メリット
 
また、熟練者が熟練ノウハウを教える場合、一方的に教えるのではなく、継承者に技術や技能の全体像や構成要素などを自己学習させつつ、「考えさせる」「自分で答えを見つけさせる」ような、継承者の立場に立ったサポートが必要となります。継承者が熟練者から指示されたことをやっているだけでは、継承者は育知ません。伝承者と継承者が同じことを考えられる状況を創りだすのです。そのためには、熟練者側も、何を、どのように教えるかなど、事前準備を十二分に行うことが重要です。
 
また、熟練者から伝承を受ける場合、若手が抱いた疑問を熟練者に質問するケースが多々考えられます。この際、若手が質問しやすい雰囲気を熟練者が心掛けられるように、職場内で工夫することが重要です。例えば、「和やかな雰囲気」や「アットホームな雰囲気」など若年層にリラックスさせ、内容の理解を促進するような環境づくりを行うのです。
 

(2)ペアリングを工夫する

OJTで伝承を行う場合、熟練者と共に仕事をし、苦労しながら、実践の中で技能を身に着けていくものです。しかし、熟練者と継承者が長く一緒に行動するため、伝承者と継承者をペアリングする際には、双方の相性と共にそれぞれの仕事への想いを十二分に考慮して、慎重に行う必要があります。OJTによる伝承が数年かかるような伝承の場合などは、特に注意が必要です。
 
特に、中小企業の場合、問題を抱えても企業内に同年代がいないことも多く、相談相手がいないために問題が大きくなる可能性があります。このような、教育体制が脆弱な中小企業の場合、地域全体で若手の育成体制を支援するような仕組みがあれば、このような問題は軽減することができます。例えば、地域の中小企業の若手社員を定期的に集め、集合教育を実施するような仕組みがあると、若手間の情報交換と様々な相談にも乗れる仕組みができるのです。このような企業の教育体制や人材面での配慮があることで、熟練者の負担も軽くなり、伝承者の積極的な支援も可能になるのです。
 

(3)アドバイザーによる支援体制を整える

 他者から指導を受けた経験が少ない熟練者は、伝承をどのように進めていいのかが分からず、熟練者が伝承を行う際に負担を感じているケースも多いようです。そのため、熟練者の負担軽減と伝承スピードの向上のために、技術・技能伝承をサポートするアドバイザーを職場毎に設置したり、工場や全社で技術・技能伝承をサポートするマネージャーを設置するなどサポート体制の充実が必要です(図2) 
  技術伝承
図2.伝承サポート体制の例
 
技術・技能伝承で進めるうえで生じた問題や疑問、また技能の技術化へ移行する方法など、伝承者や継承者に対する相談相手になるのです。退職が近い熟練者などは、今まで自分が築き上げてきたものを後世に伝えておきたいという貢献意欲をもった人も多く存在しています。そのため、このような経験豊富な退職者を再雇用し、アドバイザーやトレーナーとして活用しているケースも多いようです。このようなアドバイザー制度があると、部門間や工場間でアドバイザーやマネージャーを経由した情報交換が可能となり、問題が生じた際の相談できる相手が広がると共に、組織間で情報交流が広がり企業内活性化も期待がもてるでしょう。
 
 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「工場管理」掲載』の記事を筆者により改変したものです。

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この記事の著者

野中 帝二

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