第2章:TRIZトゥリーズとは(創造的問題解決の技法)
2.誰もがよいアイデアを生み出すための技術
わかりやすくいえば、TRIZトゥリーズは「誰でもが優れた発明家になれる」ための、考え方の手法です。一般に、発明家といえば、白熱灯を発明したエジソンや電話を発明したベルなど、人類に偉大なる功績を残した人たちを思い浮かべます。いわゆる「天才」です。
しかし、「発明:英語でInvention」という言葉は、これまでなかったものを作り上げるという意味です。もっと砕けていえば、「これまで解けなかった問題をうまく解決するもの」が「発明」です。エジソンやベルによる偉大なる発明以外にも、様々な小さな発明が存在するのです。発明することは、一部の偉大な人たちに授けられた特別な才能ではなく、誰でもが努力によって会得可能な能力なのです。
では、「問題をうまく解決する。」とはどういうことなのでしょうか。 たとえば技術的な問題の例としては以下のようなものでしょう。
・ プロジェクターが暗いので、もっと明るくクリアにしたい。
・ 頑固な油汚れを簡単に落とせる洗濯機にしたい。
・ 軽自動車の衝突安全性を今の2倍程度に改善したい。等々
一方、非技術的な問題の代表的なものは以下のようなものでしょう。
・ 最近商品の引き合いが多くてお客様への納期が遅れがちだ。
・ 商品の販促のためにPRしたいが、使える費用が限られている。等々
これらをよく見ていただけるとわかりますが、問題には必ず矛盾(=対立)が存在するので解決が難しいのです。上記の5つの問題を、矛盾の観点で見てみましょう。
・ プロジェクターが暗いので明るくしたい。そのためにはとりあえず電力を上げればいいけど、そうす
ると発熱問題が出そうだな・・・。
・ 頑固な油汚れを簡単に落とすために、洗濯機の回転力を上げるか。でもそうすると軽微な汚れの衣類
が傷んでしまいそうだな・・・。
・ 軽自動車の衝突安全性を上げるために、車体鋼板を厚くするか。でもそうすると重くなって燃費が落
ちるか・・・。
・ お客さんの納期に対応するために、工場の設備投資をするか。でも、受注量が減ったら設備償却でき
るかな・・・。
・ PRのためにキャンペーンガールを呼んで大々的にやりたいが、費用が膨らむ・・・。
いかがですか。問題を解決するよいアイデアを生み出せない原因は、このように矛盾が存在するからなのです。逆にいえば、これらの矛盾を解決するアイデアが生まれればそれが「よい解決策」といえるのです。
このような矛盾に着目した問題解決法として一般に有名なものが「弁証法」です。弁証法における矛盾の解消は妥協ではありません。主題(正:テーゼ)に対する反証(反:アンチテーゼ)を解消(止揚=アウフヘーベン)するために、解決策(合:ジンテーゼ)が存在するという考え方です。したがって、解決策は矛盾の妥協ではなく矛盾の解消でなくてはならないとしています。
ただ、弁証法の不親切なところは、止揚させるための手段についてはほとんど触れられず、哲学的な内容になってしまっているところです。ところが、その矛...
盾解決の具体的な手段としてTRIZがまさにぴったりなのです。
TRIZは弁証法の考え方を具体的な問題解決の方向性の提案に落とし込んだものと考えることもできます。つまり、「問題をうまく解決する」ために考えるべき方向性を明確にできるので、「誰でもが優れた発明家になれる。」というわけなのです。しかし、TRIZトゥリーズの土台は特許ですから、現時点での活用シーンは技術的な問題解決が主です。非技術的な分野への活用研究については現在続けられており、その詳細は第3章で説明します。