SCM構築の必要性・目的を明確にすることの重要性 SCM最前線 (その4)

更新日

投稿日

SCM
 前回のその3に続いて解説します。
  

3. SCM構築が進まない最大の理由:SCM構築の必要性と目的が曖昧

 
 SCMを確立することは、サプライチェーン全体に渡る意思決定とオペレーション・プロセスの再構築を意味します。当然、その実現には膨大なヒト・モノ・カネと時間、および全社員の永続的なエネルギーが必要です。そのためには、企業内部の強い動機付けが必須です。その動機の源泉となるのが、「SCM構築の目的」と背景にある「SCM構築の必要性」です。つまり、「SCM構築の必要性と目的」が曖昧なことは、SCM構築のエネルギーを大幅に削ぐことになります。これが明確にすることができない限り、あなたはトップにSCM構築の必要性を説明することすらできず、その取り組みを開始するはできないでしょう。ところで、筆者はなぜ、「SCM構築の必要性と目的が明確になっていない」 と考えるのでしょうか、その理由は、次の2点です。
 
理由1:SCM目的が不明確なプロジェクトの散見
理由2:本質的な意味においてSCMの目的とは何かが曖昧
 

4. SCM目的が不明確な多くのプロジェクト

 
 SCM構築の必要性と目的が明確になっていないと考える最初の理由は、目的が曖昧な多くのプロジェクトを私自身が現実に見てきたからです。もちろん、すべてのSCMプロジェクトの統計を取ったわけではないので、データの裏付けが有る訳ではありませんが、私の見たSCM構築のプロジェクトでは、その目的が不明確なものが大多数でした。それでは、どのような基準を満たせば、「SCMプロジェクトの目的」が明確であると言えるのでしょうか。私は、次の3つの基準を満たすことだと考えています。
 
●SCM構築の必要性の明確化
 解決すべき経営レベルのSCM課題が明確、つまり構築の背景が明確であること
  
●上記のSCM課題のどの部分をプロジェクト目的とするかの明確なスコープの設定
 優先順位の高いSCM課題に狙いを絞ったSCM目的設定が行われていること
  
●数値目標の明確化
 プロジェクト実行の結果得られる効果が具体的なKPI項目とその数値目標が明確化されていること
 
 上記は、何もSCMプロジェクトでなくとも、一般のプロジェクトでも当たり前のことです。特にこれを強調するのは、SCMプロジェクトではその取り組みの影響が全社に及び、また経営のあり方そのものにも影響を及ぼすため、その目的を明確化と全社的合意形成のハードルが高いためです。また現実には、かなりのSCMプロジェクトが、「情報システムの老朽化更新」を契機に始まることが、目的を明確にできない大きな理由の一つでもあります。 結局SCM改革を推進する人たちが、あるべきSCMのイメージを描ききれないことが、SCMプロジェクトの必要性と目的を明確にできない大きな理由です。これを打ち破るには、自社のSCMのあるべき姿を明確にイメージできる社内リーダーの存在とそのリーダーシップが、極めて重要です。この役割は、社外の人間には肩代わりする事ができません。その意味でもこの連載では、少しでも社内リーダーのお役に立てる情報をご提供することを目的としています。
 

5. そもそも本質的な意味においてSCMの目的とは何か

 
 そもそも、SCMとは何でしょうか。Webで調べてみるといくつかの定義を見つけることができます。 それらは、だいたい以下のように集約する事ができます。
 
 SCM
 
 確かにその通りなのですが茫漠としており、これらの定義からはどのようなSCMを目指すべきなのか、具体的な判断基準とするには不十分であると言わざるを得ません。また、明確な「SCMの目的」に直接言及したものは、見つける事ができませんでした。このことが、一般の製造業において、そもそもSCMの目的・目標の定義を困難にしている根本的理由なのです。この連載の最終回で、本質的な意味におけるSCMの目的と評価指標についての提案を行います。
  
SCM
  

6. SCM、日本の課題

 
 今回は、「SCM構築の必要性・目的を明確にすることの重要性」を取り上げました。それは、まず、日本は欧米に比べ...
SCM
 前回のその3に続いて解説します。
  

3. SCM構築が進まない最大の理由:SCM構築の必要性と目的が曖昧

 
 SCMを確立することは、サプライチェーン全体に渡る意思決定とオペレーション・プロセスの再構築を意味します。当然、その実現には膨大なヒト・モノ・カネと時間、および全社員の永続的なエネルギーが必要です。そのためには、企業内部の強い動機付けが必須です。その動機の源泉となるのが、「SCM構築の目的」と背景にある「SCM構築の必要性」です。つまり、「SCM構築の必要性と目的」が曖昧なことは、SCM構築のエネルギーを大幅に削ぐことになります。これが明確にすることができない限り、あなたはトップにSCM構築の必要性を説明することすらできず、その取り組みを開始するはできないでしょう。ところで、筆者はなぜ、「SCM構築の必要性と目的が明確になっていない」 と考えるのでしょうか、その理由は、次の2点です。
 
理由1:SCM目的が不明確なプロジェクトの散見
理由2:本質的な意味においてSCMの目的とは何かが曖昧
 

4. SCM目的が不明確な多くのプロジェクト

 
 SCM構築の必要性と目的が明確になっていないと考える最初の理由は、目的が曖昧な多くのプロジェクトを私自身が現実に見てきたからです。もちろん、すべてのSCMプロジェクトの統計を取ったわけではないので、データの裏付けが有る訳ではありませんが、私の見たSCM構築のプロジェクトでは、その目的が不明確なものが大多数でした。それでは、どのような基準を満たせば、「SCMプロジェクトの目的」が明確であると言えるのでしょうか。私は、次の3つの基準を満たすことだと考えています。
 
●SCM構築の必要性の明確化
 解決すべき経営レベルのSCM課題が明確、つまり構築の背景が明確であること
  
●上記のSCM課題のどの部分をプロジェクト目的とするかの明確なスコープの設定
 優先順位の高いSCM課題に狙いを絞ったSCM目的設定が行われていること
  
●数値目標の明確化
 プロジェクト実行の結果得られる効果が具体的なKPI項目とその数値目標が明確化されていること
 
 上記は、何もSCMプロジェクトでなくとも、一般のプロジェクトでも当たり前のことです。特にこれを強調するのは、SCMプロジェクトではその取り組みの影響が全社に及び、また経営のあり方そのものにも影響を及ぼすため、その目的を明確化と全社的合意形成のハードルが高いためです。また現実には、かなりのSCMプロジェクトが、「情報システムの老朽化更新」を契機に始まることが、目的を明確にできない大きな理由の一つでもあります。 結局SCM改革を推進する人たちが、あるべきSCMのイメージを描ききれないことが、SCMプロジェクトの必要性と目的を明確にできない大きな理由です。これを打ち破るには、自社のSCMのあるべき姿を明確にイメージできる社内リーダーの存在とそのリーダーシップが、極めて重要です。この役割は、社外の人間には肩代わりする事ができません。その意味でもこの連載では、少しでも社内リーダーのお役に立てる情報をご提供することを目的としています。
 

5. そもそも本質的な意味においてSCMの目的とは何か

 
 そもそも、SCMとは何でしょうか。Webで調べてみるといくつかの定義を見つけることができます。 それらは、だいたい以下のように集約する事ができます。
 
 SCM
 
 確かにその通りなのですが茫漠としており、これらの定義からはどのようなSCMを目指すべきなのか、具体的な判断基準とするには不十分であると言わざるを得ません。また、明確な「SCMの目的」に直接言及したものは、見つける事ができませんでした。このことが、一般の製造業において、そもそもSCMの目的・目標の定義を困難にしている根本的理由なのです。この連載の最終回で、本質的な意味におけるSCMの目的と評価指標についての提案を行います。
  
SCM
  

6. SCM、日本の課題

 
 今回は、「SCM構築の必要性・目的を明確にすることの重要性」を取り上げました。それは、まず、日本は欧米に比べてSCM全体の効率が劣っており、特にSCMに取り組む必要性が強いということを、皆様にお伝えしたかったためです。さらに、SCMの必要性と目的を明確にすることがSCMを進める上で最も重要だが、現実にはできていません。したがって、今後の連載では、次の点を掲載テーマとして盛り込んで行きたいと考えています。
 
●SCMの目的・目標設定を容易にするため、あるべきSCMの姿:業界最先端のSCMを明らかにする
 
●一般論として、そもそもSCMの目的が明確でないので、その本来の目的と評価指標を提案する
 
 次回は、「目指すべきSCMの姿」について解説します。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

小山 太一

SCMの効率を新しいKPIで見える化し、問題点を明らかにします。 新しいKPI 『面積原価』は、評価に時間軸を含めることで、リードタイム・在庫・原価のトレードオフを解決します。

SCMの効率を新しいKPIで見える化し、問題点を明らかにします。 新しいKPI 『面積原価』は、評価に時間軸を含めることで、リードタイム・在庫・原価のトレ...


「サプライチェーンマネジメント」の他のキーワード解説記事

もっと見る
サプライチェーンマネジメントにおけるERP -ソフトウェアの本質的な方向性-

 ERP(エンタープライズ・リソース・プラニング)を直訳すると、経営資源計画システムとなります。しかし日本では、統合業務パッケージと訳された言葉が使われて...

 ERP(エンタープライズ・リソース・プラニング)を直訳すると、経営資源計画システムとなります。しかし日本では、統合業務パッケージと訳された言葉が使われて...


SCM戦略とは サプライチェーンマネジメントによる全体最適化(その2)

  【サプライチェーンマネジメントによる全体最適化 連載記事目次】 1. SCMはなぜ難しい 2. SCM戦略とは 3. 変動メカニズム...

  【サプライチェーンマネジメントによる全体最適化 連載記事目次】 1. SCMはなぜ難しい 2. SCM戦略とは 3. 変動メカニズム...


ROA(対在庫資産運営利益率)によるキャッシュフロー経営

 サプライチェーンの立場から言えば、どんな時代でもモノの流通が人間の生活に必要なのは普遍であり、必要とされる需要が減少することはあっても、ある規模の生産量...

 サプライチェーンの立場から言えば、どんな時代でもモノの流通が人間の生活に必要なのは普遍であり、必要とされる需要が減少することはあっても、ある規模の生産量...


「サプライチェーンマネジメント」の活用事例

もっと見る
現場の観察と分析 物流マンが備えるべきスキル(その2)

◆ 観察力と分析力  荷主から値下げを要請されることはありますが、同時に物流効率化の要請を受けることもあります。荷主はサプライチェーントータルを効率...

◆ 観察力と分析力  荷主から値下げを要請されることはありますが、同時に物流効率化の要請を受けることもあります。荷主はサプライチェーントータルを効率...


コンプライアンス意識を持とう:下請法

  ◆ 下請法を意識しよう  物流会社が協力会社に仕事を委託する際に、気を付けなければならないことがあります。それは下請法で規定されてい...

  ◆ 下請法を意識しよう  物流会社が協力会社に仕事を委託する際に、気を付けなければならないことがあります。それは下請法で規定されてい...


  物流先進企業とは:物流の関心度とは(その5)

  ◆物流先進企業とは 物流先進企業というとどの会社をイメージしますでしょうか。一般消費者であれば通販企業かもしれません。オーダーが入っ...

  ◆物流先進企業とは 物流先進企業というとどの会社をイメージしますでしょうか。一般消費者であれば通販企業かもしれません。オーダーが入っ...