【あなたも一瞬で「技術が伝わる」エンジニアになれる 連載目次】
1. 会話の実践方法 (上級編)
多くのエンジニアは「正しいことを言っているだけ」のつもりで、自覚なく相手を攻める対立の会話をしています。これでは会話をするたびに論争になり、敵対する人が増えて技術が活かせなくなってしまいます。
そこで、これまで6回の解説で、会って30秒で仲間のように話せるラポールを中心にした「解決」をベースにした会話の実践方法を紹介しました。今回は、上級編です。少し伝えにくいネガティブな報告もポジティブに伝えて一瞬で合意する会話について解説します。
2. ネガティブな内容が含まれる報告書、企画書、認可書類の合意が一瞬に
エンジニアとして基本の姿勢としては、不利な情報であっても、知っているのなら正直に伝えることでしょう。でも、提案や報告でネガティブな事項を伝えた後に提案を了解してもらうのに何時間も費やしていませんか?
もし、報告書、企画書、認可書類でネガティブな事項を短時間で了承してもらえたなら、かなり業務効率が上がると思いませんか?
この手法は、10カ月進展がなかった美浜発電所の核燃料貯蔵施設の認可を3か月で解決(その後、1650億円の工事が始動)するなど、実践で大きな力を発揮しています。では、具体的な方法をシェアしたいと思います。
3. 日本語の語順でポジティブにできる。でもすぐに限界がくる!
一つ目の大原則は「日本語は結論が最後にくる」です。例えば、「ポンプAは揚程は大きいけど、容量は小さい。」はポンプAに否定的な印象を与えます。一方、「ポンプAは容量は小さいけど、容量は揚程は大きい。」は肯定的な印象を与えます。
でも・・・この例は「知っているよ!」という方が多いと思います。それに、この手法は「これだけではさほどの威力はない」のです。
なぜなら、「ポンプAは容量は小さい」がこれ自体が一つの文章になっており、聞き手はネガティブとポジティブの両方を天秤にかけて総合的に判断する必要があるからです。また、判断のためには情報が必要ですから、追加の質問が発生しやすくなってしまいます。
4. 情報を形容詞化するとネガティブに聞こえにくい理由
そこで用いるのが「情報の形容詞化」です。
形容詞にすることで結論になるのを回避することができるのです。具体的には、先ほどの例では「容量の小さいポンプAは揚程が大きい」です。「容量の小さいポンプAは揚程が大きい。そこでポンプAを用いて・・・」と伝えればネガティブな印象はありません。ところで、「容量が小さい」というのはデメリットなのでしょうか? 実はデメリットだと思うのは話す側の「価値観」なのです。
5. 価値観に言及しなければ一瞬で合意できる
もし、聞き手が「容量が小さい」ことをデメリットだと思わなければ、この提案に何らの問題はありません。
メリット、デメリットの感じ方は「個々人の経験に基づく価値観」で決まっています。しかも、個々人の経験は偶然の産物なので、そこに常識は存在しません。例えば、バンジージャンプを罰ゲームだと感じる人もいれば、自分でお金を払って喜んでバンジージャンプしている人もいます。
ところが「バンジージャンプをしなければならず」と記載すると、いかにも罰ゲームのようなネガティブな伝わり方になります。バンジージャンプはバンジージャンプ。それ以上でも以下でもありません。
ネガティブに伝えると、伝えられた側は「もともとネガティブだと思っていなくても」ネガティブなのか? 心配だから確認しよう、となってしまいます。話し手の価値観が入ることで、実に無駄を生むのです。
したがって、話し手がデメリットだと感じる情報も、「私の価値観」という主観を排して形容詞化することで「事実のみを共有できる」ようになり、一瞬で合意する効率の良い提案が可能になります。話し方というより、むしろ知的ゲームと捉えて練習すると面白いでしょう。
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今回は、『 情報を形容詞化する、価値観を排して事実のみを共有 』することで一瞬で合意する、を覚えて下さい。さて、残るは「契約を締結する(クロージング)の話し方!(上級編)」です。
対価を伴う契約は「出費という痛み」を超えなければ合意できないため、もっとも難易度の高い合意です。日本の家電業界が苦しんだのは、「もっと安い(痛みの少ない)製品があるじゃないか!」と海外の安い製品におされて、契約の合意ができなくなった...