ボイス・オブ・カスタマー 顧客の声から顧客の価値へ(その1)

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【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占
 

 ボイス・オブ・カスタマー(Voice of Customer: VOC)という言葉が日本で広く使われるようになってから久しくなります。しかしVOCを正しく理解して、それを企業の成長に活用している例はそれほど多くはありません。VOCが正しく理解されない理由の一つとして、VOCという言葉の翻訳(それが意味するものを含めて)に問題があるのではないかと僕は思っています。

 一般的にVOCが日本語に翻訳されるときは「お客様の声」となります。日本にはずっと昔から「お客様の声」を聞くという文化があったので、VOCという言葉が輸入されてからは、直訳だけではなく文化的な意味としても「お客様の声」が使われるようになったのではないかと思います。

 今でも「お客様の声」用のアンケート用紙とそれを入れる箱が役所やスーパーマーケットなど、あちこちに置かれています。それを見るたびに故・渥美清さんが映画「男はつらいよ」で演じた寅さんが、「あなたの声をお聞かせ下さい」と書かれた市民の声アンケート箱に向かって「うわ~」と大きな声で叫ぶ映画のワンシーンを思い出します。それと同時に、「今でも寅さんの時代とやっていることはあまり変わっていないのだな」と思ったりもします。さすがにアンケート箱に向かって叫ぶ人は見かけませんが。

 VOCは「お客様の声」と訳されることはあっても、その意味は決して「お客様の声」を聞くことだけの事ではありません。聞いて、それを企業の成長に活かすことがVOCの本質であって、VOCはそのための方法論やツール、ノウハウの塊です。

 その方法論やツール、ノウハウは、寅さんの時代よりもずっと前の、マーケティングという言葉が使われるようになった戦後から発達し、現代はインターネットとビッグデータ、AIを使ってさらに進化中です。

 僕が生業とするリーンシックスシグマの世界でもVOCという言葉が頻繁に使われます。リーンシックスシグマに関するどんな本を手にとって見ても、定義(Define)フェーズで始まる章は、VOCを説明するためにかなりのページが割かれています。なぜなら、VOCの結果を活かす行動(アクション)がリーンシックスシグマやDFSS(Design for Six Sigma)のプロジェクトだからです。

 「企業の成長に活かすことがVOCの本質」と書きましたが、別の言い方をすれば、「顧客が知覚する価値を理解して、その価値を実現することが企業の成長につながる」とも言えます。「お客様の声」ではなく、「顧客が知覚する価値」を理解することがVOCの中核だからです。

 その意味では、VOCはボイス・オブ・カスタマー(Voice of Customer: VOC)ではなく、むしろバリュー・オブ・カスタマー(Value of Customer: VOC)と言い換えるべきでしょう。(正確には Customer Perceived Value )

◆顧客(Customer)分析の関連解説『「3C分析」とは』

1. VOCの発展段階

 これからVOCを使って成長していこうとする企業は、お客様の声(ボイス・オブ・カスタマー)を聞くだけの企業から、顧客が知覚する価値(バリュー・オブ・カスタマー)を理解する企業になるまで、段階的に発展していくことになるでしょう。その発展には次の四段階があります。

第一段階: 提供する製品やサービスの品質向上

 提供する製品やサービスの品質が悪いために、顧客からのクレームに対処したり、損害を補償しなくてはならない段階です。いわば企業が出血しているような状態です。大量出血で企業が倒れてしまう前に、VOCを使って早くかつ効果的に出血を止める必要があります。

第二段階: 顧客満足の向上

 止血が完了した後は、企業は健康を取り戻さなければなりません。企業の健康は今ある顧客の満足度で測ることができます。企業が提供する価値が、顧客が知覚する価値を上回っていれば、顧客の満足度は高くなります(逆の場合も然り)。企業は製品やサービスを通じて様々な価値を顧客に提供しています。VOCを使って顧客が知覚する価値を分析・理解することができれば、それを上回る新しい価値(製品やサービス)を提供することができるようになります。

第三段階: 市場における企業評価の向上

 変化が早くグローバルな競争市場の中では、いくら既存の顧客の満足度を高めたとしても、成長するどころか生存することすら難しいでしょう。既存の顧客が求める価値だけではなく、企業はそれ以上に、市場が求める価値を提供する必要があります。VOCを使って既存顧客の満足度だけではなく、市場での満足度を向上させます。

第四段階: 戦略的な品質と顧客価値の管理

 企業には限られた資源(人・モノ・金・時間・情報)しかありません。企業が成長し続けるためには、その資源を最大限に有効活用する必要があります。企業が有する限られた資源を使って、将来的にどのような市場価値を継続的に提供し続けることができるのか、など企業成長戦略の一環としてVOCを活用します。

 では一体どのようにしたら良いのか?それについては今後このブログ上に一連のVOCシリーズとして投稿していこうと思っています。VOCの中で使うツール類についても説明を加えていきたいと思っています。

VOC

VOC

VOC

 VOCシリーズ完了後は、VOCに関する以下の5つの失敗が防げるのではないかと期待しています。

  • (1) 「お客様の声」や「顧客が知覚する価値」が数値化されておらず、優先順位が付けられていない。そのため顧客満足度の変化などを継続的に比較・追跡することができないだけではなく、...

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占
 

 ボイス・オブ・カスタマー(Voice of Customer: VOC)という言葉が日本で広く使われるようになってから久しくなります。しかしVOCを正しく理解して、それを企業の成長に活用している例はそれほど多くはありません。VOCが正しく理解されない理由の一つとして、VOCという言葉の翻訳(それが意味するものを含めて)に問題があるのではないかと僕は思っています。

 一般的にVOCが日本語に翻訳されるときは「お客様の声」となります。日本にはずっと昔から「お客様の声」を聞くという文化があったので、VOCという言葉が輸入されてからは、直訳だけではなく文化的な意味としても「お客様の声」が使われるようになったのではないかと思います。

 今でも「お客様の声」用のアンケート用紙とそれを入れる箱が役所やスーパーマーケットなど、あちこちに置かれています。それを見るたびに故・渥美清さんが映画「男はつらいよ」で演じた寅さんが、「あなたの声をお聞かせ下さい」と書かれた市民の声アンケート箱に向かって「うわ~」と大きな声で叫ぶ映画のワンシーンを思い出します。それと同時に、「今でも寅さんの時代とやっていることはあまり変わっていないのだな」と思ったりもします。さすがにアンケート箱に向かって叫ぶ人は見かけませんが。

 VOCは「お客様の声」と訳されることはあっても、その意味は決して「お客様の声」を聞くことだけの事ではありません。聞いて、それを企業の成長に活かすことがVOCの本質であって、VOCはそのための方法論やツール、ノウハウの塊です。

 その方法論やツール、ノウハウは、寅さんの時代よりもずっと前の、マーケティングという言葉が使われるようになった戦後から発達し、現代はインターネットとビッグデータ、AIを使ってさらに進化中です。

 僕が生業とするリーンシックスシグマの世界でもVOCという言葉が頻繁に使われます。リーンシックスシグマに関するどんな本を手にとって見ても、定義(Define)フェーズで始まる章は、VOCを説明するためにかなりのページが割かれています。なぜなら、VOCの結果を活かす行動(アクション)がリーンシックスシグマやDFSS(Design for Six Sigma)のプロジェクトだからです。

 「企業の成長に活かすことがVOCの本質」と書きましたが、別の言い方をすれば、「顧客が知覚する価値を理解して、その価値を実現することが企業の成長につながる」とも言えます。「お客様の声」ではなく、「顧客が知覚する価値」を理解することがVOCの中核だからです。

 その意味では、VOCはボイス・オブ・カスタマー(Voice of Customer: VOC)ではなく、むしろバリュー・オブ・カスタマー(Value of Customer: VOC)と言い換えるべきでしょう。(正確には Customer Perceived Value )

◆顧客(Customer)分析の関連解説『「3C分析」とは』

1. VOCの発展段階

 これからVOCを使って成長していこうとする企業は、お客様の声(ボイス・オブ・カスタマー)を聞くだけの企業から、顧客が知覚する価値(バリュー・オブ・カスタマー)を理解する企業になるまで、段階的に発展していくことになるでしょう。その発展には次の四段階があります。

第一段階: 提供する製品やサービスの品質向上

 提供する製品やサービスの品質が悪いために、顧客からのクレームに対処したり、損害を補償しなくてはならない段階です。いわば企業が出血しているような状態です。大量出血で企業が倒れてしまう前に、VOCを使って早くかつ効果的に出血を止める必要があります。

第二段階: 顧客満足の向上

 止血が完了した後は、企業は健康を取り戻さなければなりません。企業の健康は今ある顧客の満足度で測ることができます。企業が提供する価値が、顧客が知覚する価値を上回っていれば、顧客の満足度は高くなります(逆の場合も然り)。企業は製品やサービスを通じて様々な価値を顧客に提供しています。VOCを使って顧客が知覚する価値を分析・理解することができれば、それを上回る新しい価値(製品やサービス)を提供することができるようになります。

第三段階: 市場における企業評価の向上

 変化が早くグローバルな競争市場の中では、いくら既存の顧客の満足度を高めたとしても、成長するどころか生存することすら難しいでしょう。既存の顧客が求める価値だけではなく、企業はそれ以上に、市場が求める価値を提供する必要があります。VOCを使って既存顧客の満足度だけではなく、市場での満足度を向上させます。

第四段階: 戦略的な品質と顧客価値の管理

 企業には限られた資源(人・モノ・金・時間・情報)しかありません。企業が成長し続けるためには、その資源を最大限に有効活用する必要があります。企業が有する限られた資源を使って、将来的にどのような市場価値を継続的に提供し続けることができるのか、など企業成長戦略の一環としてVOCを活用します。

 では一体どのようにしたら良いのか?それについては今後このブログ上に一連のVOCシリーズとして投稿していこうと思っています。VOCの中で使うツール類についても説明を加えていきたいと思っています。

VOC

VOC

VOC

 VOCシリーズ完了後は、VOCに関する以下の5つの失敗が防げるのではないかと期待しています。

  • (1) 「お客様の声」や「顧客が知覚する価値」が数値化されておらず、優先順位が付けられていない。そのため顧客満足度の変化などを継続的に比較・追跡することができないだけではなく、企業の限られた資源(人・モノ・金・時間・情報)を有効活用することができない。また新製品や新サービスの開発にVOCを活用することができない。
  • (2) 競合他社の顧客情報を使っていない。そのため市場全体のニーズが理解できないだけではなく、なぜ顧客が自社から他社へ移ってしまったのか、その理由が分からない。
  • (3) 競合他社の製品やサービスを研究していない。そのためなぜ顧客を得ることができたのか、また逆に顧客を失ったか、その理由が分からない。どうすれば他社に追いつき追い抜くことができるのかも分からない。
  • (4) 市場セグメントの違いから来るニーズの違いを知らない。そのため特定の市場セグメントの中で顧客が求める価値を上手く提供することができないだけではなく、その市場セグメントに進出しても競合他社に負けてしまう。
  • (5) VOC情報を活用するためのシステム(プロセス)が組織で運用されていない。そのため製品やサービスを一方的に提供するだけの製品(サービス)指向の組織から抜け出すことができないだけではなく、市場(マーケット)指向または市場戦略的な企業になることができない。

 またISO9001の認証を受けている企業にとっては、「ISO9001: 2015- 9.1.2 顧客の見解」を見直す機会になれば幸いです。

◆関連解説:サービスマネジメント

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この記事の著者

津吉 政広

リーンやシックスシグマ、DFSSなど、問題解決のためのフレームワークを使った新製品の開発や品質の向上、プロセスの改善を得意としています。「ものづくり」に関する問題を一緒に解決してみませんか?

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